128_彼女の灯火
ワイトの斬撃が巨大な植物の巨体を貫いた瞬間、クロノの咆哮は途切れ、赤い瞳がふっと光を失う。
続けざまに、周囲を埋め尽くしていた植物の群れが、まるで糸を切られた操り人形のように一斉に力を失い始めた。
大地に根を張っていたはずの蔓が、力なく垂れ下がり、ぱたりぱたりと崩れていく。
「ワイトさん……!檻から抜け出せたんだ!?」
砂煙の向こうに現れた影に、ダンテは驚愕を隠せない。
「ええ。少々遅れましたが、今の一撃で魔法使いは倒せたようです。ここは危険です。すぐに離れましょう」
低く落ち着いた声音でワイトは告げる。
彼らの足元。植物で構築された舞台そのものが、きしみ、ひび割れ、今にも崩れ落ちようとしていた。
「それなんですけど……俺は力を使いすぎて、もう身体が動かない。それに……メイテツをまだ取り戻せてないんだ」
ダンテの声に焦りが混じる。
左腕がない。筋力もマナも尽き果て、立っているのがやっとの状態だ。
「なるほど。左腕がないのが気になってはいましたが、そういうことでしたか……。彼女の居場所に心当たりはありますか?」
ワイトは表情を崩さないまま、静かに問い返した。
「ああ。感じるんだ……。マナを通じて彼女の温もりを。メイテツは……死んでない。この場所のどこかにいる。ワイトさん……頼む。今から言う場所まで、俺を運んでほしい」
声は弱っているが、その眼には強い意思が宿っていた。ワイトは短く頷くと、ダンテの身体を軽々と背負い上げた。
「案内してください。彼女のもとへ向かいましょう」
「……ありがとう、ワイトさん。あそこです!」
ダンテは、クロノが立っていた場所の背後を指差した。
そうこうしている間にも、植物の舞台はクロノを失い、あちこちで断末魔のような音を立てて崩壊している。
「分かりました。急ぎます」
ワイトは揺れる足場を軽やかに駆け抜け、崩れゆく舞台を跳び移りながら、指示された地点へと近づいていく。
(メイテツ……待っててくれ。今、君の元へ向かう)
距離が縮まるにつれ、ダンテの胸の奥に彼女の存在が鮮烈に浮かび上がってくる。
生きている。確かに、そこにいる。
「この辺りですか?」
「ああ……この植物の下に……メイテツが……!」
答えた瞬間だった。
――バキィィッ!!!
ワイトの足元が砕けた。
支えを失った床が沈み込み、巨大な穴が口を開けて飲み込もうとする。
「ッ……地面が崩落しました!」
ワイトは体勢を崩しながらも冷静に状況を分析する。
そのとき、ダンテの視界に落下していく一つの影が映った。
「……あれは……!! メイテツ!!」
胸が裂けるほどに叫ぶと同時に、ダンテはワイトの背中から身を投げ出していた。
(メイテツ!!)
蒼空が逆さまに流れていく。
下から吹き上がる突風が容赦なく身体を叩きつけ、失われた左腕の痛みが脳を焼く。
だが、そんなことはどうでもよかった。
ただ彼女に、もう一度触れたかった。
落下速度が増し、メイテツの背中が手の届きそうな距離に迫る。
「うぉおおおおおお!! 届けぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」
限界をとうに超えた身体から、最後の一滴の力を絞り出す。
そして、伸ばした右手の指先が彼女の温もりに触れた。




