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128/143

128_彼女の灯火

 ワイトの斬撃が巨大な植物の巨体を貫いた瞬間、クロノの咆哮は途切れ、赤い瞳がふっと光を失う。


 続けざまに、周囲を埋め尽くしていた植物の群れが、まるで糸を切られた操り人形のように一斉に力を失い始めた。


 大地に根を張っていたはずの蔓が、力なく垂れ下がり、ぱたりぱたりと崩れていく。


「ワイトさん……!檻から抜け出せたんだ!?」


 砂煙の向こうに現れた影に、ダンテは驚愕を隠せない。


「ええ。少々遅れましたが、今の一撃で魔法使いは倒せたようです。ここは危険です。すぐに離れましょう」


 低く落ち着いた声音でワイトは告げる。 


 彼らの足元。植物で構築された舞台そのものが、きしみ、ひび割れ、今にも崩れ落ちようとしていた。


「それなんですけど……俺は力を使いすぎて、もう身体が動かない。それに……メイテツをまだ取り戻せてないんだ」


 ダンテの声に焦りが混じる。

 左腕がない。筋力もマナも尽き果て、立っているのがやっとの状態だ。


「なるほど。左腕がないのが気になってはいましたが、そういうことでしたか……。彼女の居場所に心当たりはありますか?」


 ワイトは表情を崩さないまま、静かに問い返した。


「ああ。感じるんだ……。マナを通じて彼女の温もりを。メイテツは……死んでない。この場所のどこかにいる。ワイトさん……頼む。今から言う場所まで、俺を運んでほしい」


 声は弱っているが、その眼には強い意思が宿っていた。ワイトは短く頷くと、ダンテの身体を軽々と背負い上げた。


「案内してください。彼女のもとへ向かいましょう」


「……ありがとう、ワイトさん。あそこです!」


 ダンテは、クロノが立っていた場所の背後を指差した。


 そうこうしている間にも、植物の舞台はクロノを失い、あちこちで断末魔のような音を立てて崩壊している。


「分かりました。急ぎます」


 ワイトは揺れる足場を軽やかに駆け抜け、崩れゆく舞台を跳び移りながら、指示された地点へと近づいていく。


(メイテツ……待っててくれ。今、君の元へ向かう)


 距離が縮まるにつれ、ダンテの胸の奥に彼女の存在が鮮烈に浮かび上がってくる。


 生きている。確かに、そこにいる。


「この辺りですか?」


「ああ……この植物の下に……メイテツが……!」


 答えた瞬間だった。


 ――バキィィッ!!!


 ワイトの足元が砕けた。

 支えを失った床が沈み込み、巨大な穴が口を開けて飲み込もうとする。


「ッ……地面が崩落しました!」


 ワイトは体勢を崩しながらも冷静に状況を分析する。


 そのとき、ダンテの視界に落下していく一つの影が映った。


「……あれは……!! メイテツ!!」


 胸が裂けるほどに叫ぶと同時に、ダンテはワイトの背中から身を投げ出していた。


(メイテツ!!)


 蒼空が逆さまに流れていく。

 下から吹き上がる突風が容赦なく身体を叩きつけ、失われた左腕の痛みが脳を焼く。


 だが、そんなことはどうでもよかった。

 ただ彼女に、もう一度触れたかった。


 落下速度が増し、メイテツの背中が手の届きそうな距離に迫る。


「うぉおおおおおお!! 届けぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」


 限界をとうに超えた身体から、最後の一滴の力を絞り出す。


 そして、伸ばした右手の指先が彼女の温もりに触れた。

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