127_あがき
思考と精神が、沈んでいく。
底なしの闇へと。
(……やられたのか、私が? またしても……あの男に……そんなこと……あって……いいはずが……ない)
クロノの意識は刃のように途切れ、黒に飲み込まれていった。首筋を裂かれ、命の灯が消えかける瞬間。それでも、心の奥底から煮えたぎるような憎悪が湧き上がった。
(このまま……死んでたまるか。道連れだ、あの男も……!)
その執念が、体内の“マゴ”を狂気のように開花させる。クロノ自身でさえ制御できぬほどの暴走。内側から溢れ出したマゴは、空気を裂き、地面を震わせた。
辺りの植物がざわめく。いや、悲鳴を上げている。やがて、それらは一斉に蠢き出し、クロノの身体を取り囲み、絡みつき、そして、喰らった。
「なんだ……クロノをやったと思ったが……まだ終わらないのか」
ダンテは一歩退く。背筋に、ぞわりと寒気が走った。クロノの身体からあふれ出したマゴは、周囲の植物と融合し、凄まじい勢いで膨れ上がっていく。
そして、それは「形」を持った。
大地を割り、天を覆うほどの植物の巨体。幾重にも重なる蔓の隙間から、赤く光る“眼”がいくつも覗いている。その一つひとつが、殺意を宿したままダンテを見下ろしていた。
「ダンテぇぇぇ……! あなたも私とともに散るのですッ!! 死ねぇええええええ!!!」
甲高い叫びが空気を裂く。巨人と化したクロノが拳を振りかぶる。蔓の軋む音が雷鳴のように響き、影が大地を覆った。
ダンテは反射的に跳ぼうとするが。
「……っ!?」
身体が、動かない。
手足が震え、指先ひとつすら言うことを聞かない。筋肉が悲鳴を上げ、関節が焼けるように熱い。
(まずい……っ! 《身体強化×1000倍》の反動が……!)
全身に走る痛みとともに理解する。
限界を超えた力の代償。それが、今、己の身体を蝕んでいる。
避けられない。もう、動けない。
(くそっ……! 打つ手が……ない)
迫りくる拳。
空気が歪み、衝撃波が肌を切り裂くように迫る。
死が、目前にあった。
(……メイテツ。ごめん。最後に、もう一度……君に会いたかった)
後悔と、悲しみと、わずかな微笑み。
すべてを受け入れるように、ダンテは静かに目を閉じた。
――その時。
「ダンテさん、まだ諦めるには早いですよ。あなたは一人ではありません」
声が、響いた。どこか懐かしい声。
直後、轟音。
巨人の頭部が爆ぜ、植物の肉片が雨のように散った。
地が揺れ、砂煙が視界を覆う。
(……この声……まさか……)
ダンテはかすかに笑った。
砂煙の向こう、ゆっくりと歩み出る影。
風が吹き、煙が晴れる。そこに立っていたのは一本の刀を片手に持つ男。
「すみません、ダンテさん。遅くなりました。あの植物の牢屋を破るのに、少々手間取りまして」
穏やかな声。しかし、その足取りには揺るぎがない。
――ワイト。
その名を呟く前に、ダンテの胸にこみ上げたのは、安堵と、確かな希望の光だった。




