126_マナの胎動
「──そうだ。あの時と同じだ」
ダンテは息を吐き、蒼空の下で蠢く植物の群れの向こう、不気味な笑みを浮かべるクロノを見据えた。胸の奥に、あの禁足地での記憶がよみがえる。まだ弱かった頃、恐怖に震えながらも一歩を踏み出した、あの瞬間。あれがなければ、今の自分はきっとここにいない。
(常に前へ)
その教えが、心の奥で確かな灯火となる。どんなに不安でも、恐怖が眼前にあろうとも、前へ進めば必ず道は開ける。
ダンテは呼吸を整え、足に力を込めた。
「なんだ、その目は……」
クロノの眉がわずかに動く。
「この状況でなお、希望を見ているだと?忌々しいぃい!さっさと消えなさい!!」
怒りと苛立ちが入り混じる声が響く中、ダンテはクロノに闘志を剥き出しにする。
「絶対にお前のところに辿り着く!!そこで待ってろよ、クロノ!!」
鋭い叫びとともに、大地を蹴る。空気が裂け、血潮が熱く燃えた。
「鬱陶しい奴め……まあいい。お前はすでに力を失った。毒に蝕まれ、苦しみ悶えるがいい!」
クロノは杖の先端をダンテに向けた。
「ダンテ、あなたも花となって散りなさい」
瞬間、周囲の植物が一斉に蠢き、無数の毒牙が雨のようにダンテへと襲いかかる。
毒液が地面に落ち、ジュッと焼ける音を立てた。
(突っ切る。彼女を、メイテツを取り戻すんだ!!)
ダンテは一気に身体の力を抜き、次の瞬間、爆発するような速度で駆けた。
《脱力》
その動きは、まるで風が抜けるように滑らかだった。だが植物たちは、まるで意思を持つかのように進路を塞ぎ、的確に毒牙を伸ばしてくる。
《マナ感知》
ダンテの瞳が淡く光る。空気の流れ、敵の呼吸、禍々しいマナのうねりを感じながら進む。
(力の流れを読む……攻撃の軌道を予測しろ。そこに“勝機”がある!)
心の中で自らを鼓舞するように呟きながら、彼は剣を握り締める。毒の滴る蔓が空を裂くたび、メイテツが残してくれた剣が閃光のようにそれを断ち切った。
この感覚。あの禁足地の戦いで、死を超えて掴んだものと同じ。だがあの時は、師匠コテナが傍にいた。今は違う。千年の時を越え、この世界に残されたのは彼ひとり。
(俺はいつも支えられてきた。師匠に、仲間に、そしてメイテツに……。でも、もう頼るだけじゃ駄目だ。俺自身が強くならなきゃ、彼女を取り戻せない!)
その瞬間、胸の奥でマナが爆ぜた。まるで心臓そのものが光を放つように、全身を満たす。
ドクン――。
体中の血が燃える。
全身を包む光は神々しく、見る者の息を奪うほどに眩しかった。
《身体強化 ×1000倍》
その言葉と同時に、地が鳴った。
ダンテの身体が一閃の光とともに前へと弾ける。
空気が衝撃で歪み、風圧が渦を巻く。
光の戦士のように、ダンテはクロノへと一直線に駆け抜けた。
(なんだと……)
クロノは目の前に現れたダンテの姿に声を漏らす。そして、彼の視界は暗転した。




