124_禁足地
(ここは……どこだ)
瞼が重く開き、ダンテはゆっくりと顔を上げた。胸の奥を締めつけるような息苦しさ。空気自体に重みがあり、どこか禍々しい何かが肌を撫でていく。視線を前方へ送ると、鬱蒼とした森の奥に、一本の巨大な鳥居がそびえていた。
「鳥居……確か滝の下にいたはずだが」
目の前の光景に戸惑うダンテの耳に、横から低く落ち着いた声が流れた。
「起きたか。ここは禁足地だ。私はこの場所で、ここに踏み入る者や外へ漏れ出す者どもの退治をしている」
声の主はコテナだった。彼は鳥居の方へ視線を据え、表情は淡々としている。だがその背後には、滲むような威圧が漂っていた。
「禁足地……。なんだ、この禍々しさは。鳥居の向こうに、何があるんだ?」
ダンテの問いに、コテナは肩を竦めるように答えた。
「よくは知らん。女神の命で、ここを守っているだけだ。お前は剣を学びたがっていたな。だが諦めろここを安易に離れるわけにはいかん」
声は冷たい檻のように響く。ダンテは息を飲み、怒りと焦りを混ぜた声を返す。
「怖さを教えるために連れてきたのかもしれない。だが、俺は強くなりたいんだ。剣術を極めたい。ここで折れるつもりはない!」
胸の奥の誓いが震え、声に熱が帯びる。だがコテナは腕を組み、鋭く問い返した。
「問おう。お前は何のために極める?己のエゴのためなら、私が手助けする理由はない」
ダンテは言葉に詰まり、胸の奥の痛みを押し殺して絞り出した。
「何のために……俺は、両親を失ったんだ。だから、俺は……」
言葉を紡ぎかけた瞬間、コテナが鋭く遮る。
「喋るな!来るぞ!」
その直後、鳥居近くで、黒々とした禍々しい塊が渦を巻くかのように集まり始めた。みるみるうちに形を変え、異形の巨体が露わになる。胴は黒い粘液のように蠢き、そこから無数の手足が伸び、ところどころに人のような歪んだ顔が浮かんでいる。
「な、なんだ、あれは」
思わず声が漏れる。未知が牙を剥き出しにして迫る。
「禁足地から漏れ出し者だ。禍々しい力を宿している。気を抜けば、死ぬぞ」
コテナの声は低く、冷徹だった。短いながらも胸に響く声だった。
巨大な化け物は、黒い胴体から手足を無数に伸ばして急接近してくる。重たい空気が押し寄せ、鼓動が耳鳴りのように鳴る。
(ここで剣で倒さなければ。今こそ、稽古の成果を示す時だ)
ダンテは剣に手をかける。だが、掌が微かに震える。冷たい汗が背中を伝い、呼吸が浅くなる。未知の狂気が全身を蝕むように迫り、理性が小さく揺らぐ。
(無理だ、勝てない――)
恐怖が理性を覆い、ダンテは目を閉じた。内側で何かが断ち切られるように、世界の輪郭が薄れていく。




