122_あの日の屈辱
植物の先端から滴るのは猛毒――。
かつて仲間を、そして自分の左腕をも植物へと変貌させた、あの忌まわしき毒だ。一度でも触れれば、勝負は終わる。
ダンテは、蒼空へと伸び蠢く植物を睨みつけ、喉を鳴らす。息を吸い込むたびに肺が重くなる。
目を閉じると、不意に耳の奥にあの声が甦った。
迷うな。常に前へ進め。
師匠の低く厳しい声が脳裏をかすめ、同時に過去の光景が鮮烈に蘇る。
※※※
あの日、幼いダンテは買い物を終え、無邪気に家の扉を開けた。
だが、目に飛び込んできたのは温かな団欒ではなく、宙を舞う鮮血だった。
床を真紅に染め、ぐったりと横たわる父と母。
その前に立っていたのは、剣を抜いたままの異国の男。纏っていた装束は、当時敵対していたマナ王国の剣士のものだった。
「……あ……あぁ……」
息を呑むことしかできない幼いダンテ。
父母の瞳には、最期の瞬間でさえ息子を想う優しさと無念が同居していた。その表情が、ダンテの心に焼き付いた。
剣士の男は、血に濡れた刃を払うと、ただ一瞥をくれただけで視線を逸らした。
膝から崩れ落ち、震えるだけの少年に興味はない。そう言わんばかりに。
そして、ゆっくりと歩き去る。
その背を、ダンテはただ見送るしかなかった。声も出せず、体も動かない。
耳に残るのは、遠ざかる足音だけ。
何もできなかった。恐怖に屈し、理不尽をただ受け入れることしかできなかった。
男の姿が完全に消えた瞬間、堰を切ったように感情がぶわっと溢れ出した。
小さな拳を地に叩きつけ、両目からは大粒の涙が止めどなく流れる。
「うぅ……うわああああああああああっ!!!!」
慟哭は、無人となった家の中で虚しく反響した。
「どうして……」
その言葉だけが壊れたように頭の中で繰り返される。答えなど返ってこないのに。
やがて、嗚咽の底でひとつの決意が芽生えた。
(あの男に聞かなければならない。なぜ両親を奪ったのか。だが、そのためには、俺自身が強くならなければならない。奴と渡り合えるほどに)
それが、ダンテを狂気的なまでの剣の修練へと駆り立てた。だが、独学の剣には限界があった。壁にぶつかり焦燥する日々。
そんな折、耳にしたのは一人の剣士の名。コテナ。剣術を極めた凄腕の剣士の存在だ。
(……コテナ……。その人に会えば、俺は剣の本質を知ることができるかもしれない)
夜明け前、決意を胸に、幼きダンテは険しい山道へと足を踏み入れた。運命を切り開くため、そして理不尽を打ち砕くために。




