120_別れ
「……私の力の一つをお見せしましょう」
クロノはにたりと笑みを浮かべ、手にしていた杖をひねるように変形させる。次の瞬間、それは鈍く光を帯びた笛へと姿を変えた。
唇にあてがわれ、低く、不気味な旋律が響き渡る。
(……なんだ、この音は……! 胸が締め付けられる……心臓が暴れ出すのを感じる)
耳に入った瞬間、ダンテの全身を悪寒が走る。心臓は狂ったように打ち、肺は鉛のように重く、呼吸が途絶えそうになる。
直後、周囲の植物がざわめき、蠢き出した。
(この気配、背後か!)
《脱力》
咄嗟に身体を緩めて横へ飛ぶ。その刹那。
ドォンッ!
地面が爆ぜる轟音が響き、さっきまでダンテが立っていた場所に、巨大な何かが突っ込んでいた。
「なかなか厄介そうだな……」
ダンテの視線の先に現れたのは、悍ましい姿の植物の化け物。巨大な芋虫のような体躯がのたうち、口先には鋭利な歯がぎっしりと並び、涎を垂らしている。
(見たところ、三体……)
冷静に数を数えながらも、全身に汗がにじむ。
(ダンテ、大丈夫……? ソフィとの戦いで、もう身体は限界に近いはず……)
左腕に宿るメイテツが、不安を押し隠せず囁いた。
(大丈夫だ。……不思議と疲れは感じないんだ。因縁の相手を前にして、血が沸き立っているからな)
無理にでも笑みを浮かべるように、ダンテは心で応じる。
(……なら、いいのだけれど。でも忘れないで。あなたは一人じゃない。生きる時も、死ぬ時も、私はずっと一緒よ)
メイテツの声が優しく響く。
(ありがとう。君の力があったから、ここまで戦えた。今回もきっと勝てる……俺たちなら!)
そう言い切り、ダンテはクロノと蠢く怪物を睨み据えた。
だが次の瞬間、ダンテは現状を知る。
《槍の力》
……発動しない。
視線をやると、投げ放った槍はすでに植物に飲み込まれ、消滅していた。
「ふふ……やはり槍が条件でしたか」
クロノは勝ち誇ったように口角を上げる。
「最初は不意打ちかと思いましたが、投げた後も槍に視線を向けていた……違和感があったんですよ。ですので、念のため没収しました。やはり正解でしたね!」
ダンテに焦燥の気持ちが湧き上がる。だが、その隙を逃すクロノではない。
「死ね」
冷酷な一言が吐き捨てられると同時に、三体の植物の怪物が一斉に頭部をもたげ、獰猛な牙を剥いて襲いかかってきた。
《風の力》
ダンテは強風を爆ぜさせ、一気に真上に跳躍。間一髪で直下をすり抜けた怪物たちの頭同士がぶつかり合い、凄まじい衝撃音が響く。
(よし……今だ! クロノを守るものはない……次こそ決める!)
左腕を大砲の形に変形させ、風の力を一点に凝縮する。
「いけぇえええええええ!!!!」
怒号とともに放たれた砲撃。空気を裂き、大地を震わせる轟風がクロノめがけて一直線に走る。
だが。
突如、地中から植物の壁が伸び上がり、クロノを覆い隠す。盾のように重なった幾重もの蔦が衝撃を受け止め、砲撃は虚しく掻き消えた。
「残念」
クロノは余裕を滲ませて呟き、再び笛を吹き鳴らす。植物の怪物たちが呻き声を上げ、怒涛の勢いで襲いかかる。
空中で必死に風の力を操り躱すダンテだったが。
「ぐあああああっ!!!」
鋭い痛みが走る。怪物の一体がダンテの左腕、メイテツに噛みついたのだ。
「メイテツ!!!」
空を裂くように絶叫が迸る。その耳に、微かな声が届いた。
(……ダンテ……)
儚げな声の直後。
ブチッ……!
血飛沫と共に、身体が引きちぎられるような残酷な音が響いた――。




