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118/140

118_蒼空に咲く

 ダンテの視界に浮かび上がったのは、宙にふわりと浮かぶ一人の男だった。口元に刻まれた薄笑いは、不気味に張り付いている。


 その名は、クロノ。


 かつて千年前、ダンテが最初に刃を交えた魔法使い。その因縁が、今ふたたび目の前に姿を現していた。


「クロノ……なぜお前が生きている。お前は、俺が確かに千年前に討ち果たしたはずだ」


 声を張り上げた瞬間、記憶が脳裏を焼いた。


 故郷の村が閃光に呑まれ、瓦礫と化す光景。仲間の拳士たちが無惨にも植物に変えられ、叫び声とともに朽ちていく地獄。


 あの悪夢が、まざまざと蘇る。


 ダンテは拳をぎゅっと握りしめ、怒りと憎悪を込めてクロノを睨み据えた。


「ふふ……確かに、そんなこともありましたね」


 クロノは愉悦を含んだ声音で語り始める。


「私の死体は、あの魔族ケトラに吸収されました。その内部で長き眠りを経て、私は再び目を覚ましたのです。……そして今、ケトラが倒れたおかげで、私はようやく自由を得た」


 にやりと笑ったその表情が、次の瞬間には激情に歪む。瞳に宿るのは狂気と殺意。


「ずっと……あなたを殺したくて仕方なかった。千年待ち続けたこの瞬間!さあ、始めましょう。血で彩る、私たちの再戦を!」


 クロノが杖を高々と掲げると、大地が呻き声を上げるように震え出し、無数の植物の根が噴き出した。それらはダンテの足元を絡め取り、持ち上げるように空へと運んでいく。


 だが、その根からは不思議と殺意が感じられない。ただ導くように決戦の舞台へと押し上げていく。


「ダンテ! 私たちも共に戦う!」


 ルーシェが叫ぶ。


 だが、その横に現れたテラが制した。


「いや、ここはダンテ一人に任せよう。……ダンテもそれを望んでいる。俺たちは次の階層に進もう」


 ルーシェははっと振り返り、目を見開いた。


「テラ!? まさか一緒に来ていたなんて……じゃあ、下の階層の魔族は……」


「ああ、苦戦したけど、ダンテと力を合わせて何とか倒したよ」


 テラは短く頷き、わずかに笑みを浮かべた。


「ルーシェも随分と苦労したみたいだね」


「ええ……魔族は倒したはずだったのに、クロノが現れて……この有様よ。それに、ワイトまで囚われてしまって……」


 根の牢獄に捕らわれたワイトが、静かに声を上げる。


「お気遣いなく。お二人は精鋭騎士たちと共に先へ進んでください。私は……何とか脱出を試みます」


「分かったわ。必ず、また会いましょう」


 ルーシェが決意を込めて叫ぶ。


「ええ……必ず」


 ワイトは頷き、真剣な眼差しを二人へ向けた。


「ルーシェさんのことは任せてください」


「うん、僕に任せといて!」


 テラが力強く答えると、ルーシェと精鋭騎士たちは光の柱へと歩を進めた。


 ――静寂。


 ワイトは牢の中から天を仰ぎ見る。頭上の石壁は根によって穿たれ、そこから差し込む光がまばゆい。空の中央には、巨大な樹木の枝葉が絡み合い、まるで檻のような球体を形作っていた。


 その内部で、クロノとダンテが対峙する。

 互いの殺気が空気を震わせ、空間全体を圧迫する。


 クロノはゆるりと地に降り立ち、冷ややかな声で告げた。


「――さあ、始めましょう。この処刑場で、殺戮を」


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