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112/139

112_静かな怒り

「剣神の一撃を……シールドで受け止めるとはねぇ。面白い」


 ケトラの口元が歪み、唇の端に獰猛な笑みが浮かぶ。だがその笑みはすぐに消え、冷徹な眼差しが相手を貫く。声のトーンが一変し、周囲の空気が一気に張り詰めた。


「だが、たかが一撃を防いだ程度で、この俺を攻略できたつもりか?」


 言うなり、ケトラの剣に冷気が奔り、白く輝くと、氷の粒が舞う。


 その刹那ーー。


「何度もやらせるかよ!!」


「好き放題にはさせるか!!」


 突如として、物陰から飛び出す影。ギルドの精鋭騎士たちが、剣を手に一斉に突進する。突風のような気迫をまとい、ケトラ目掛けて飛び出した。


 虚を突かれたケトラの目がわずかに見開かれる。


(あの一撃のとき……身を隠していたのか。フン、小賢しい真似を)


 だが、彼の眼前に迫る剣先は、ただの剣ではなかった。騎士たちのマナが宿り、刃が燐光を放っている。闘志とマナが一体となった輝きが、空間を震わせる。


 一人の騎士が、ケトラの前足に斬撃を浴びせる。狙いは動きを封じるための一点集中。その意図を読み取ったもう一人が、後ろ足を狙って容赦なく剣を振り下ろした。


 グラリ、と。


 四足で踏ん張っていたケトラの巨体が、バランスを崩し傾く。


「な……なにっ!?」


 崩れる体勢。ケトラは思わず呻いた。四方八方からの連携攻撃に、完全に動きを封じられたのだ。


「これで終わりだッ!タナさんの仇を取る!!」


 最後の一人が、渾身の力をこめて剣を振り上げた、その瞬間だった。


 ゴォォンッ!!


 ケトラの大剣が、地面に突き立てられる。次の瞬間、凍気が爆ぜた。大剣を中心に地面が白く染まり、無数の氷柱が一瞬にして立ち上がる。


 ドゴォォォン!


 間近にいた精鋭騎士たちは、状況を把握する間もなく、氷の中に閉じ込められた。まるで時が凍りついたかのように、動きが消える。


「不意を突いたつもりだろうが……それだけで、この俺を倒せると思わないことだ」


 凍りついた騎士たちを見下ろしながら、ケトラが嗤う。


「さあ、次はお前の番だ。落ち着き払ったその顔に隠された闘志……ひしひしと伝わってくる。来い、消してやる」


 傷ついた脚部から、ぐちゅり、ぶちゅりと生々しい音が響き、千切れた肉が再生していく。再び四足で地を踏みしめたケトラが、爪で指し示す。


 その先に立っていたのは、刀を抜き、微動だにせず構えるワイト。


 彼は静かに一言、声を放った。


「彼女の力を、私の仲間を傷つけるために使わないでいただけますか……いえ、答えは結構です。あなたの答えに関わらず、あなたを、ここで私が倒します」


 その瞬間、ワイトの姿がかき消えた。


(消えた!?)


 ケトラの眉が跳ね上がる。周囲を警戒し、視線を走らせる。


 ザシュッ。


「ぐっ……!?」


 尾の付け根に走る鋭い痛み。ケトラの尾が、根元から切断されて宙を舞った。呻き声を漏らし、振り返る。


 そこには、刀を下ろした姿勢で静かに立つワイトの姿。


「……その反応、今気づいたんですか。私の存在に」


 ワイトは落ち着いた口調で、冷酷に言い放った。


「気を抜けば、その瞬間……あなた、死にますよ」


 その声音には、感情はほとんど乗っていない。だが、確かな殺気と覚悟があった。


 ケトラの口元がわずかに引きつる。今、彼は初めて「死」という言葉を、現実として感じた。

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