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108/137

108_宿敵

 ルーシェは、迫りくる植物型の魔族たちを睨み据え、そっと手のひらに浮かべた光の玉を前方へ放り投げた。


 淡い光の球は、薄暗い石畳のダンジョンを照らしながら、ふわりと魔族たちの間に降り立つ。まるで何かを告げる前触れのように、微かに脈動していた。


「なんだあ!?どんな攻撃かと思えば……拍子抜けだなぁあああ!!!」


 植物型の魔族は笑いながら罵声を飛ばす。その顔には明らかな侮蔑の色が浮かんでいた。


 だが、ルーシェの表情に揺らぎはなかった。

 強い眼差しで魔族たちを見返し、静かに告げる。


「――早まらないで。私の攻撃は、これからが本番よ」


 挑発を受け流すように言い放ち、ルーシェはひとこと、呟いた。


「シールド拡張」


 その瞬間、光の玉が震えた。低く、唸るような音を立てながら、球体がみるみるうちに膨張していく。 


「な、なにぃ……ッ!?なにが始まったぁああああ!?」


 膨らむ光は、まばゆいばかりの輝きを放ち、石畳の天井や壁、そして恐慌に陥った魔族たちの顔を鮮明に照らし出す。影が伸び、空間全体を白く染め上げていく。


 逃げ場を失った植物型の魔族たちは、壁と迫りくる光の壁に押し潰されるように圧迫され、目を見開きながらルーシェへと手を伸ばした。


「ち、ちくしょおおおおおおおおおおッ!!」


 その断末魔が響いた直後――


 ズンッ――!


 巨大な光のシールドが炸裂し、怒号とともに魔族たちは音もなく消滅した。辺りに残るのは、微かな焼け焦げた香りと、静寂だけだ。


「す、すげぇ……!」


 ギルドの精鋭騎士たちが、息を呑み、賞賛を漏らす。彼らの視線の先で、ルーシェはただ静かに息を整えていた。


 ダンジョンに潜るまでの短い日々、彼女はただ一つのことだけを考えていた。

 ――姉を殺した魔族にどう立ち向かうか。


 守るためにしか使ってこなかったシールドの力を、攻撃に転用するという逆転の発想。

 それが、今、実を結んだ。


 シールドの形状と大きさを自在に操る訓練を重ね、ようやく一網打尽にできるまでになったのだ。


「……これで、片付いたわね」


 ルーシェは拳を握り、奥へと続く暗闇を見つめた。


「ようやく決着がつけられる……お姉ちゃんを殺した、あの魔族と……!」


 その時――


「その必要はない。俺のほうから殺しに来たからねぇ」


 横の石壁から、低くねっとりとした声が響く。

 ゾクリ、と背筋が凍る。


 ――まさか。


 ルーシェの心臓が跳ね上がる。振り返ると、石畳の壁の表面がぐにゃりと歪み、ぬるりと顔と胴体が現れた。


 現れたのは――

 姉・タナの命を奪った魔族、ケトス。


 目の奥に潜む冷たい殺気が、ルーシェの身体を強張らせる。

 口が乾き、声にならない悲鳴が喉の奥でくすぶる。


 ――そのとき。


 カキィィンッ!!


 鋭い金属音が空間を切り裂いた。火花が散り、鋭くとがった何かがはじき返される。


「まさか、あなたが自ら出てくるとは。おかげで奥へ行く手間が省けました」


 静かな声とともに、ワイトが刀を抜き放ち、ケトスの放った舌の一撃を受け止めていた。鞘から引き抜かれた刃が月光のように鈍く輝いている。


「へぇ、やるねぇ。奇襲のつもりだったが、防ぐとは。少しは楽しめそうだ……」


 ケトスがニヤリと笑い、ゴリゴリと首を鳴らしながら、石壁から完全に姿を現す。筋肉質な巨体がずるりと地面に立ち、空気が圧迫されるような気配が広がる。


 ルーシェの胸に、再び闘志の炎が灯った。


 ――この魔族を、絶対に許さない。


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