100_絶望を呼ぶ咆哮
ソフィ、ダンテ、テラ。
三者は互いに様子を伺いながら、一触即発の緊張に包まれていた。
重い沈黙が続く。
先に動いたのは、ダンテとテラだった。
ダンテは剣に、さっと風を纏わせる。
テラもまた、光の剣をその手に生み出し、まばゆい輝きを放った。
ダンテがテラの手にそっと触れると――二人の姿は、音もなくパッと消えた。
次の瞬間、ソフィの目の前に、突如としてダンテが現れる。
「――ッ!」
ソフィは反応を一瞬遅らせ、舌打ちした。
「ちっ、また妙な移動手段を……!」
彼は苛立ちを隠しきれない。
急接近を許した焦りが、心の奥底をかき乱す。
「ここで決める――!」
ダンテは目を閉じ、ひたすら鮮明に、ソフィの胴体を断ち切る光景を思い描いた。
研ぎ澄まされた意識。
風を纏った剣が、下から跳ね上がるように振るわれた。
同時に、テラもソフィの背後から光剣を振り下ろす。
息の合った挟撃。逃げ場はない。
隙のない一撃――。
だが、ソフィは揺るがない。
「無駄だ」
低く、嘲笑うような声。
ソフィは大きく口を開き、喉を大きく膨らませた。
その時だった。大地を激しく震わせる凄まじい咆哮が、空気を裂いた。
「ぐっ……すごい、この叫びだ!?」
「耳が、破れそうだ!」
ダンテとテラは、ソフィの咆哮に思わず顔を歪ませる。
彼の咆哮はただの叫び声ではなかった。
叫び声は圧縮された衝撃波となり、直撃したダンテとテラの意識を揺さぶる。
骨に響く振動、脳を刺す鋭い痛み、鼓膜が破れるかと思うほどの暴力的な音圧。
二人は、咄嗟にマナで耳を覆っていた。そうしなければ意識を保てないほどだった。
耳をふさいだものの、二人の体は衝撃波をまともに受けて宙を舞い、地面に叩きつけられた。
土煙がふわっと舞い上がり、視界が白く曇る。
呻きながら立ち上がったダンテの目に映ったのは粉々に砕けた、地面に突き刺さっていたはずの槍。
「……槍が、破壊された」
瞬間移動の起点だった槍。
それを失った今、先ほどのように自由に瞬間移動できないことができない。
ダンテが槍に視線をやった、そのわずかな仕草をソフィは見逃さない。
「ほう……なるほど、地面に突き刺した槍と、さっきの妙な移動とは何か関係があったようだな」
にやりと唇を吊り上げる。
「……くっ、勘付かれたか」
焦りが顔に滲み出るダンテ。
テラが、隣で呟いた。
「ダンテ、顔に出てるよ」
それを聞いたソフィは、さらに不敵に笑った。
「ふふ……タネが割れれば、恐るるに足りぬ。
さあ、せっかく私と戦うのだ。お前たちには圧倒的な絶望を味わってもらうぞ」
ソフィの周囲の空間がざわめいた。
羽音が響く。次の瞬間、無数の昆虫型の魔物たちが一斉に姿を現す。黒く光る外殻、鋭利な爪、そして狂気に満ちた赤い複眼。
「……この数、なかなか骨が折れそうだな」
ダンテは乾いた笑みを浮かべながら、剣を構え直した。心臓が、早鐘のように打つ。
「うん……完全に想定外だよ、この状況は」
テラもまた、顔を引き締め、光剣に力を込めた。
絶望的な戦場の只中でも、それでも彼らは、闘志を捨てなかった。




