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小椋夏己の創作ノート  作者: 小椋夏己
2024年  7月

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「黒のシャンタル第一部」について・その2

 前回説明したように、トーヤが仲間に過去の話を語るという形で第一部が始まりました。


 語るのは八年前の話。仲間であるシャンタルと出会った時の話なんですが、これがまあ、信じられないような話、聞いているアランとベルも「嘘だろう」とつっこむようなエピソード満載となります。


 当時トーヤは17歳。幼い時に母を亡くし、今度は親代わりであった母の妹分を亡くし、そのことから何をやる気もなくなって、だらだらと時間を過ごしていたところ、あることがきっかけで「シャンタリオ」という遠い国へ行く船に乗ることになります。


 ところが、その船が目的地に着く前日に大嵐に遭って転覆、トーヤは瀕死の状態である漁師町の海岸に打ち上げられます。そして目を覚ましたら、今まで見たこともないような豪華な室内。着せられている服もかけられている布団も絹製の豪華なもの。


「なんじゃこりゃあ!」


 混乱するトーヤの前に、一人の美女が現れて、またとんでもないことを言い出しました。


「シャンタルの託宣により、あなたを『神の助け手(たすけで)』としてお迎えいたしました。わたくしはマユリアと申します」


 「シャンタル」とは慈悲の女神の名で、トーヤの乗った船が目指していた国「シャンタリオ」を統べる「生き神様」の名前、「マユリア」とはそのシャンタルの侍女の女神の名前です。

 ということは、そう言った美女がこの国で2番目にえらい人というか女神様というか、そういう人なのだということは分かりますが、自分がそうだと言われた「助け手」というものが何かはさっぱり分からない。

 分かりませんが、とにかくそう言われてしまい、わけがわからないうちに「宮」と呼ばれる「シャンタル宮」の客人としてもてなされることとなりました。


 しばらくの間、トーヤは何がなんだか分からないなりに快適な「宮殿のお客様」の立場に落ち着きます。というのも、嵐の海に放り出されて体調が良くなかったことと、何もかもなくして右も左も分からない土地に一人ぼっちで取り残されてしまったことからです。

 乗ってきた船は大破して、仲間だった乗組員達は全員、トーヤが打ち上げられた「カース」という村の墓地で眠っています。どうしようと考えてもどうしようもない。動きたくても動けない状態でした。


 この時にトーヤが、


「咳が出たら、口や鼻から木っ端(こっぱ)みたいなもんが出てくる」


 と言っているのですが、これは実は実際似た状態になった人から聞いた話を参考にしています。


 私の父が幼い頃、台風か何かで大きく山が崩れ、祖父と伯父が飲み込まれてしまったことがあります。割とすぐに助け出され、2人ともしばらく入院をしたものの元気になったのは本当に幸いでした。その伯父がそういうことを言ってたんです。「一ヶ月ぐらいの間だったかこんな状態になっていた」と聞いた、その伯父の体験を入れ込んでみました。

 伯父とトーヤは飲み込まれた状態が違いますが、似たような状態になっていたんですから、きっとトーヤもそうなったのに違いない、そう考えてのことです。もしかしたら海の場合はそういうことがない可能性もありますが、ないことはないと思うんですよね。海の水と一緒に船の破片だのなんだのも飲み込んでいるでしょうし。


 こんな風にいつかどこかで聞いた話、見たことなどをちょこっと記憶のポケットから引っ張り出して、


「これ使えるかも」


 と使うのも、シャンタルに限らず、私が書いた作品に「リアリティがある」と言っていただける理由の一つかもと思っています。

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