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小椋夏己の創作ノート  作者: 小椋夏己
2024年  7月
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「黒のシャンタル第一部」について・その6

 その現れた人とは、トーヤの天敵とも言えるルギでした。


 ずっとトーヤに張り付いていたルギですが、あることがあって以来姿を見かけなくなっていました。それがそこで待ち伏せをしていて、思わぬ再会をすることになります。


 トーヤはそこでルギから思わぬ話を聞いた上、逃げようとして結果的に捕縛され、シャンタル宮に連れ戻されます。


 罪人のように後ろ手に縛られ、連れて行かれた部屋にはマユリアと、そしてミーヤとダルがいました。


「そいつらは関係ねえ、俺が一人で逃げようとしたんだ」


 トーヤはミーヤとダルが無関係だと訴えますが、マユリアはミーヤとダルも交えて話を続けます。それは信じられない話でした。そしてこんなことを言われます。


「シャンタルを助けてください」


 てっきり犯罪者扱いされると思いきや、そう言われているように「助け手」として扱われるトーヤ。


 シャンタリオという国は、二千年の間約十年ごとに生まれた女の子に女神シャンタルの魂を移し、その生き神様が治めてきた国です。シャンタルがほぼ10歳になった頃、後を継ぐ「次代様」と呼ばれる赤ん坊が生まれ、「交代の日」にシャンタルの魂を次代様に移し、先代シャンタルは今度はマユリアを継いでさらに十年をシャンタルの言葉を聞く侍女として過ごします。その交代の時に当代シャンタルを連れて逃げてほしい、そういう話でした。


 色々と腑に落ちないトーヤ。そんなトーヤにマユリアはさらにこんなことを言います。


「当代には秘密があります」

 

 それはまあ聞いてみるとどえらい秘密なのですが、この時にはもちろん教えてもらえません。


 それになにより、


「親から二十年も子どもを取り上げるってのが気にいらねえ」


 そんな思いからトーヤは自分の過去をつるっとしゃべってしまいます。


「もうこうなったら全部話してやるよ、そもそもこの国に来たのは海賊船に乗ってだし、俺はこういう生まれ育ちだ」


 そもそも助け手だの、託宣の客人だの呼ばれ、そういう目で見られるのは苦痛でしかなかったトーヤ。


「俺はあんたらが思ってるようなそんな立派な人間じゃねえんだよ! 俺は金で動く傭兵だ!」


 そう言ったことからハッと気がつきます。


「そうだ、だから傭兵としてならその仕事受けてやる」


 その言葉にマユリアがそれで構わないと答え、トーヤはあらためて「シャンタルを助けてこの国から逃げる」という契約を結ぶことになります。


 すっかりさっぱりしたと思えるトーヤですが、そんな素性を洗いざらい話してしまったために、ミーヤやダルとはもう前のように接することはできないだろう。そう覚悟もします。実際、トーヤの話を聞いたキリエは冷たい目を向けてきますし、それが当然の反応だとトーヤも理解しています。


「契約したからにはちゃんと仕事をする、だからもう誰も付けるな」


 トーヤはそう言い残し、一人宮を出てカースの村に走ります。


 交代のために、王都リュセルスに穢れが入ってこないように、明日の夜には王都は封鎖され、次代様が誕生するまで外との行き来ができなくなります。トーヤにはそれまでにどうしても知りたいことがありました。


 これが自分だ、傭兵トーヤだ。助け手だの神の使いだのそんなのはもうまっぴらだ。


 晴れ晴れとした気持ちで馬を飛ばしながらも、自分からミーヤやダルとの絆を切ってしまったことには、


「やっぱりちっとさびしいよな……」


 そうつぶやくトーヤでした。

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