第二話 指輪探し
「ガイアスさ〜ん!もう少し急いでください。このペースじゃ森に着くの昼過ぎになっちゃいますよ。」
彼女の底なしの体力には到底着いていけない。カザレを出発してから10分以上歩き続けているが、周りは見渡す限りの草原。何も変わらない景色に俺は飽き飽きしていた。
「ミィが速すぎるんだよ〜。いつもそんなに張り切ってないじゃん!」
「何言ってるんですか!これがいつもの私ですよ。ガイアスさんがだらしないだけでしょ。」
(絶対嘘だ・・・)
歩き始めて20分、俺の足は限界を迎えていた。汗が全身から吹き出し、息は止めどなく俺の口から吐き出されていく。ここら辺の地形は起伏が激しく、登っては降りての繰り返し。
「ぜぇ・・はぁ、 ぜぇ・・はぁ、 うっっ、ごほっ!えほっ! おえぇ!」
危なかった。こんなきれいでのどかな場所を俺のゲロで汚すわけにはいかない。喉奥までこんにちはしていたキラキラを必死に飲み込んだ。
俺がこんなことをしていても、彼女は俺の遥か先を行き、決してその足を止めようとはしない。そんな姿を
見せられるとこっちだって頑張るしかないじゃないか。
(よしっ!!)
俺は大きく口を開け、思いっきり息を吸い込み、力いっぱい叫んだ。
「うおおぉおぉおおぉ!!!!」
草原全体に響き渡った俺の声は、ミィの耳にもしっかり届いていた。彼女は俺の方に勢いよく顔を向け、
「ど、ど、どうしたんですか?もしかして、敵襲!?」
彼女は驚いた表情でこちらを見つめている。
が、そんなことは気にも留めず俺は彼女に向かって豪快に走り出した。
「ミレッタ.....トレードおおぉぉ!!!」
「うわあぁぁあぁ! 急にどうしちゃったんですかああぁあ!?」
彼女もまた走り出す。心地よい風が全力ダッシュ中の俺の頬に当たる。ダラダラと歩くより、こっちの方が断然良い。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はぁ...はぁ...やっと、着きましたね...」
あれから長い時間走り続けていたせいか、あんなに元気だったミィも息を荒くして、座り込んでいた。
俺たちは今、カザレ森に入って少し歩いた所にあった開けた場所で休んでいる。
この森に生えている木は、高く密集しており、光がほとんど差し込まず、この森は全体的に暗い雰囲気を出している。そのせいか、魔物の巣窟となってしまい、この森に訪れる人はほとんどいなくなってしまった。こんな所に来るのは、ギルドで依頼を受けた冒険者か、湖を見に来たもの好きぐらいだ。
「ガイアスさん、大丈夫ですか?そろそろ出発しないと...この森、夜になると凶暴な魔物がたくさんでてきますし」
そう言った彼女はもう息も整っており、さっきまでの疲れが嘘の様に元気だった。おそらく回復魔法を自分にかけたんだろう。まったく、便利なものだな。
(俺にもかけてほしいが、仕方ないか...)
この体はまだ完全に回復してはいない。だが、ミィの言うようにここで遅れを取れば自分達の首を締めることになってしまう。多少無理してでも出発するべきだ。
「分かった。俺はもう大丈夫だ。ミィ、荷物をまとめといてくれ。出発するぞ。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あれからしばらく歩き続け、俺たちは森の中心部まで来ていた。辺りは、より薄暗くなっており不気味な雰囲気を出していた。今にも魔物が出てきそうだ。
「それにしてもトーマスさんはよくこんな所に一人で来ましたね。草はボーボーだし、足元は湿って滑りやすいし、何より気味が悪い。私だったら耐えられませんよ。」
「まぁ、それだけ奥さんに対する愛が強いってことじゃないのか。」
「そんな人が指輪をなくしたりしますかね。しかもあのスピネリーときたもんですから。」
「トーマスさんは魔物に襲われたって言ってたし、逃げるのに必死だったんだよきっと。
あと、スピネリー好きすぎだろ。昨日からそればっかじゃん。」
「薄汚いガイアスさんはあの指輪の価値がわからなくても仕方ありませんよ。」
ミィが鼻で笑った。まるでこちらを蔑んでいるような目だ。
「確かに俺は髭は処理しないし部屋も汚いけど、そこまで落ちぶれてはいな...
「きゃあ!」
突然の悲鳴に俺は顔を上げた。見るとミィが地面にうつ伏せに倒れている。どうやらなにかにつまづいて
盛大に転んだらしい。服が泥だらけになっていた。
「ぷっ!あーひゃっひゃっひゃっひゃ!確かにそんな格好じゃ指輪の価値が分からなくても仕方ねぇなぁ」
ミィの顔がみるみるうちに赤くなっていった。よほど恥ずかしかったんだろう、彼女のあんな顔は見たことがない。
「ちょっと!バカにしないでくださいよ!もう最悪!こんな事になるなら事務所で待機しとけば良かった」
「まぁそう言うなって。そんなもん湖で洗えばいいだろ。もう目の前だ。」
それを聞いた瞬間、ミィはダッシュで走り去っていった。
「おい!そんなに全力で走るとまた転ぶぞ....って聞いてないか。 やれやれ。」
ミィが俺の忠告に気付かないように俺も気付かなかった。
木のそばでこっちを見つめる複数の影に...
カザレ森の湖はあまり知名度があるほうではないが、いざ来てみるとなぜトーマスさんがここまで来たかが一目で分かった。こんな不気味な森にまるで似合わないくらいに透き通っていて、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
こんなにきれいな湖に泥だらけで入る罰当たりな奴がいるだろうか。悲しいことに今、俺の目の前にいる。
「いやー最高ですね。こんなに綺麗だとは思ってませんでしたよ。」
(さっきの怒りはどこに行ったんだよこの二重人格女め!!)
ミィは楽しそうに泳いでいた。こんな事をするのは彼女ぐらいだろう。
「これからどうするんです?湖まで来たものの、こんな広い森に落ちている指輪を見つける作戦でも
あるんですか?」
「トーマスさんが魔物に襲われる前に指輪を落とした可能性も考えて一応湖の周りを歩いてみたけど、
それらしき物は落ちてなかったんだよなあ。落とし物を探し出す魔法とかないの?」
「そんな魔法あったら最初からつかってますよ。」
「だよなあ」
「まさかのノープラン... はぁ。」
「まあ歩き続けて探すしかないだろ。ここで少し休憩して出発するぞ。」
「そんなの無理に決まってるでしょ!だいたいガイアスさんが」
「しっ!!!静かに!」
誰かがこっちを見ている。そんなふうに感じて俺は彼女を黙らせた。
「どうしたんですか?もしかして、敵襲?」
「前回は違ったが、今回はどうもそうらしいな。気をつけろ、すぐ近くにいるぞ。」
辺りを見回すと草がガサガサと揺れているのが分かった。緊張で汗が頬を伝って地面に落ちた瞬間、
「キシャアアアァァア!!!」
魔物が草むらから飛び出した。
その姿はとても醜く、俺たちと同じぐらいの大きさだった。耳は尖り、鼻は潰れ、悪臭を放ち、こん棒を
携えている。その奥から一回り大きい同じ様な見た目をした魔物が木をなぎ倒しながら現れた。
「あれは、緑の狂人! それに、緑の首領狂人まで!
ここら辺にはいないはずなのに!」
彼女の言い方からわかるように相当焦っていた。それもそのはず、ドン・ゴブリンがカザレ森に現れたという報告は聞いたことがない。
ゴブリンは強いほうではないが、ドン・ゴブリンは二人で勝てるような相手ではなかった。いくら魔法が使える奴が味方にいようがここは一旦退くことも考えていた。が、どうやら神様は俺たちが逃げることを許してはくれなかったようだ。
「ガイアスさん!!あれ、指輪じゃないですか!?」
彼女が指さした方向を見て俺は愕然とした。トーマスさんが失くしたと言っていた指輪は、まるで綺麗とはかけ離れたような存在が大事そうに嵌めていたのだ。
(トーマスさんが落としたのを見つけてつけたのか!指輪の価値も分からないくせに!
って俺も同じか...)
連中は今にも襲いかかってきそうな雰囲気を出している。よだれを垂らしながらじっと俺たちを見つめて
いた。
「ガイアスさん、どうします!?」
「探す暇が省けたんだ。逆に感謝したいぐらいだね。」
「こんな時に何呑気なこと言ってるんですか!面倒だしもう殺っちゃいますよ!」
「ああ、”ド派手”に頼むぜ。」
俺がそう言うとミィは杖を構え、目を閉じて集中しだした。長いこと一緒にいるが彼女が魔法を使う所を俺はあまり見たことがない。そのせいか、こんな状況だが少しワクワクしてしまった。
彼女がそっと目を開き杖の先端から赤いオーラが出てきた瞬間、俺は咄嗟に彼女が持っていた杖を無理矢理下げさせた。
「ちょっと待て!こんな所で火魔法なんか使ったら指輪だけじゃなく、
ここら一帯まで焼け野原になっちまうぞ!!!せめて水魔法にしてくれ!!」
「おっと、私としたことが。失礼、では!!」
ミィはまた目を閉じ静かになった。今度は杖の先端が段々と青いオーラを纏っていった。
もうお気づきだろうがこの世界の魔法使いは魔法を使う時、属性に応じた色のオーラが杖の先端から放出される。火魔法なら赤色、水魔法なら青色、雷魔法なら黄色、といった具合だ。
熟練の魔法使いは、使う属性と違う色のオーラを自在に放出して敵を欺くらしいがそういった話は滅多に聞かない。本当に珍しいのだろう。
彼女が集中していると後ろの湖から大きな水の塊が空中に浮いてきて、分裂し、鋭い針のような形に変わっていった。その様子を見て驚いたのかゴブリン達は後退りを始める。
「逃げようったってもう遅いわ! 針の暴風雨!!!」
彼女がそう言った瞬間、空中にあった無数の水の針が一斉にゴブリン達に突き刺さった。
「キシャアァアアァァ!!!!」
断末魔を上げながらゴブリン達は次々に倒れていった。だが、
「グウゥゥウウ!!」
ドン・ゴブリンはミィの攻撃を食らってもまだ立っていた。全身血だらけで今にも倒れそうなのにこちらに立ち向かってこようとする。
「しぶといわね!いいわ、これで終わりよ! 水の螺旋切削!!!」
水の針が集まってくっつき巨大な水のドリルへと変形した。
ミィが杖を振りかざすと同時に、ドリルは一直線に飛んでいきドン・ゴブリンのでっぷりとした腹に
風穴を開けたのだった。
「ゴフッ!!」
流石にこれには耐えられなかったのかドン・ゴブリンは豪快に倒れた。
(容赦なさすぎだろ!!向こう側がはっきりと見えたぞ!)
改めて彼女の強さを思い知った。いつもは口うるさく俺に説教ばかりしてくるが、
ミィは、れっきとした”魔法使い”だ。それだけは覚えておきたい。
彼女は無数に転がるゴブリンの死体の中からお目当ての物を見つけると指から引き抜き、こう言った。
「さあ任務完了です!帰りましょ。」
彼女のあの笑顔を俺は忘れることはないだろう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「やっと着きましたね!!早くトーマスさんに届けましょう。」
俺たちがカザレについたのは日も落ちる頃だった。この時間になると冒険者たちが広場で酒を豪快に飲むので、人がたくさんいる。そんな中彼女は指輪を見つめ、一人気分に浸っているようだった。
「おい!こんな所で指輪をだすなって!盗られたらどうすんだ。」
「大丈夫ですって。ここにそんな事をする人はいませんから。も〜、心配性だなあ。」
「まったく、ホントだろうな」
事務所に戻るため広場を歩いていた俺たちは、完全に油断していた。
「キャッ!」
ミィがフードを被った男とぶつかって転んだ。男は微動だにせず、一言も喋らないまま人混みの中に消えていった。
(あれ?今、手のひらになんか書いてなかったか?)
俺は彼女の手を取る。
「大丈夫か?」
「なんなのあいつ!?謝りもせず消えるなんて!」
「それはミィも同じだろ」
「私は言おうとしましたよ!でもすぐにどっかい...」
「ん?どうした?」
ミィの顔がみるみる内に青ざめていった。
俺はこの後、指輪をしまえともっと強く注意できなかったことを死ぬほど後悔することになる。
「指輪が...ない!!!!」
前回の投稿からだいぶ遅くなってしまいすいません。
なにしろテストがあったもんですから...
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