「私」の見たい世界
この物語は、一章ごとに語り手が変わりながら、進んでいきます。ホラー要素があるので、苦手な方は御注意ください。またミステリー要素もあるので、不可解な点を推理しながら読んでみてください。
注意書き
この物語は、一章ごとに語り手が変わりながら、進んでいきます。ホラー要素があるので、苦手な方は御注意ください。またミステリー要素もあるので、不可解な点を推理しながら読んでみてください。
序章 堂島武三の暴食
月明かりが覗く窓越しに、私、堂島武三は、田舎町の交番で、無味乾燥な事務仕事に没頭していた。
交番の壁にかけてある時計の針を見ると深夜1時前であった。その秒針は、自身の影を追うように同じ輪を描き続けており、毎日同じ生活を繰り返している私と似ているようにみえた。しかし、誰かに見てもらえるという点で、少なくとも私よりは必要とされているようである。
交番の仮眠室では、喧嘩っ早い新人警察官の七瀬くんが、軽いいびきを立てながら眠っていた。私に息子がいれば彼くらいの年齢であっただろう。彼は、無駄な肉のない引き締まった体つきをしており、その目には希望の光が宿っている。
彼とは対照的に、 50歳の私はブクブクと太っており、毎日先の知れた人生を必死につないでいた。私は、職場の皆からは「TD」と呼ばれている。それは、私の名前のイニシャルではなく、「使えないデブ」を表すものであることを私は知っていた。私の年代で一度も昇格していないのは警察署で、私一人だけであった。
一息つき、私は手元のカップラーメンにお湯を注いだ。その瞬間、蒸気と共にジャンキーな香りが狭い部屋に広がった。私の単調な日常を唯一彩る時間である。
心の奥底では、太っているのに食べ続ける自分を豚のようでみっともないと感じていた。しかし、それは食べることだけが生きがいの私にとっては些細な問題であった。いざカップラーメンを食べようとしたとき、古い交番の扉がゆっくりと開く音が聞こえた。
こんな夜更けに、それも田舎の交番に訪れる者など滅多にいない。なんてタイミングが悪いのだろう。せめて麺が伸びてしまう前に一口だけ流し入れて、休憩室から出て窓口に向かった。交番の入口付近には、20代くらいの男が交番に立っていた。男の顔色は青ざめていて、何かに怯えているようだ。
「どうしましたか?」と声をかけた私の顔を、無言のまま見つめる男の目には、まるで絶望が広がっているようだった。
長年の経験から、話が長引きそうだと感じた私は、もうすぐ交代の時間となる七瀬くんを起こそうかと迷ったが、私は七瀬くんの貴重な睡眠時間を奪わないことに決めた。
こんな私でも、怯えている若い男の悩みに耳を傾けるくらいはできるだろうし、話を聞いて少しでも男の気持ちが楽になれば、私の仕事もまあまあやれたと言えるだろう。
この時点では、私がこの男に殺されるとは微塵も予想することはできなかった。
第一章 四宮彩花の色欲
「大学生活は人生の夏休みだ」と誰かが言っていたけど、私、四宮彩花は、その夏休みの中の春休みを満喫中なのだ。このバカンスは永遠に続くような気がしていた。
私は、一人暮らしの家でゾンビを倒すサバイバルゲームに興じていた。華の大学生である私が、こういった血生臭いゲームを始めたのも、大学で知り合った私の運命の人である藤井清吾くんが、このゲームにハマっていると聞いたからだ。私は清吾くんと仲良くなるために全く興味のないアウトドアサークルにも入った。
突然、スマートフォンに同じくアウトドアサークルに所属する岡部からの電話が入った。
「今からサークル活動をするから来てほしい!」と言われたが、私は断るための理由を考えた。なんせこの岡部という男は高校時代に私に三度も告白して、三度ともフラれたにも関わらず、まだ懲りずに連絡してくる執念深い異常者だからだ。
しかし、岡部から愛しの清吾くんも来ると聞いて、すぐに行くと返事をした。
私が、岡部にどこへ行けばいいか尋ねたところ、既に私のマンションの下に車を停めて清吾くんと待っているとのことであった。どうやら私が参加することは決定事項だったらしい。なんだか腹立たしい。
私が猛スピードで化粧をして外に出ると、マンションの駐車場に岡部の派手な赤い車が止まっていた。車の後部座席に乗るとき、助手席に乗る清吾くんに満面の笑みで挨拶をしたが、彼は私の顔をバックミラー越しに一瞥して会釈しただけであった。
私は、岡部にどこへ行くのかを尋ねたところ、彼は車を発進させながら、今日の探検計画について楽しそうに話し始めた。
どうやら岡部は、交番の警察官が何者かに刺殺された事件をテレビで見て、その近くの廃墟となった精神病院で肝試しをしたくなったとのことであった。その精神病院は、昔の火災で多くの犠牲者が出たとか、院長が放火して自らも焼け死んだとかの噂があり、オカルト好きな人たちにとっては有名な場所らしい。
岡部は今回の警察官殺害のニュースを心霊のしわざだと思っているようだ。私はバカな岡部と違って、心霊よりも犯人がまだ捕まってないことの方が怖かったが、清吾くんと一緒に過ごす時間が増えると思い岡部のプランに乗った。私が怖いから清吾くんに守ってほしいと言ったところ、彼は「はいはい」と呆れたように返事をした。岡部は「いやいや、俺が守るよ!」と冗談めかして言った。
30分程度、人気のない道を進んだところで、私たち3人は目的地の廃病院に着いた。廃病院に着いた時、清吾くんは寝てしまっていたみたいで岡部に緊張感がないと呆れられていた。
近くに街灯はなく、既に暗くなり始めていたため、廃病院は独特の気味悪さを放っていた。
今からこの廃病院に入るのかと思うと、幽霊を信じていない私でも少し身震いした。廃病院の周りには中に入れないように柵がしてあったが、岡部が強引に柵を外した。私たちは中に入り、廃病院の中を探索し始めた。
岡部ははじめこそ楽しそうだったが、だんだんと無口になった。私も緊張していたが、清吾くんが近くにいることで、少し安心してきた。こんな状況でも気だるそうに欠伸をする余裕が私を安心させたのだと思う。
しかし、その安心は長くは続かなかった。
病院の廊下のコーナーを曲がったところで、目の前の薄暗い廊下の奥からフードを被った謎の男がこちらに早足で歩いてきたからだ。私の口から漏れ出た悲鳴に反応して、男はさらに速度を上げて近づいてきた。私たちが逃げようと男に背を向けた瞬間、乾いた破裂音と共に何かが私の右ふくらはぎを掠めた。その直後に走った激痛で私はその場に倒れてしまった。
男は手に拳銃のようなものを持っていた。私が男に捕まる寸前、清吾くんが男を羽交い締めにした。私がどうしたらよいか分からずにいると、男は清吾くんの腕を振り解き、清吾くんの右目に自分の親指を突っ込んだ。清吾くんは悲痛の叫びを上げながら、その場に崩れ落ちてしまった。
次の瞬間、岡部が謎の男に突進した。岡部が突進で突き飛ばした男の腹部には、岡部がいつも持ち歩いていたサバイバルナイフが突き刺さっていた。謎の男はうずくまって動かなくなったが、清吾くんも倒れたまま気を失っていた。
私は恐怖と痛みで涙が止まらなかった。岡部は震える声で、「大丈夫だ、救急車を呼ぼう」と私を励ました。しかし、岡部がポケットから取り出した携帯電話は圏外であった。私の携帯電話も同じ状況であった。清吾くんの携帯電話は充電がなくなっていた。岡部は清吾くんを背負い、私は痛む足を引きずりながら車に向かうことになった。
歩いている最中、きっと私の日頃の行いが悪いからバチが当たったのだと思った。私は岡部の気持ちを軽く見てきたことを反省し、今後は彼に対してもっと優しくすると決心した。
しかし、私の恐怖体験はこれで終わりではなかったのだ。
第二章 藤井清吾の怠惰
俺は墨汁の中に沈んだような闇に包まれていた。周囲には何一つ存在せず、ここがどこであるかも定かではないが、夢の中にいることだけは疑いようのない事実であった。闇の中を進んでいくと、目の前にうっすらと岡部と四宮の後ろ姿が見えた。
俺は、基本的には面倒くさいことが大嫌いで、拗れた人間関係というものを避けるように生きていた。
そんな俺が岡部と行動を共にしていたのは、アイツは一人で場を盛り上げ、電話一本で車を出してくれる都合の良いやつだからだ。四ノ宮も同様に、様々な形で僕の身の回りの世話を焼いてくれた。二人には感謝の気持ちを抱きつつも、他者に依存する傾向を持つ彼らの性格は、俺の目から見れば格下に見えてしまっていた。
夢の中で、二人は俺に背を向けたまま遠ざかっていった。俺は二度と二人には会えないのではないかと感じ、彼らを呼び止めようとしたが、その瞬間、夢から目覚めてしまった。
目が覚めると、右目がまるで矢でも刺さっているかのような激痛に襲われた。その痛みを通じて、四宮を襲った謎の男との闘いの記憶が甦ってきた。
俺は岡部の車の後部座席に横たわっていた。誰が俺をここまで運んだのだろうか。体を起こし左目の視界を巡らせると、岡部も四宮も謎の男も見えなかったが、助手席には見たこともない何者かが動いているのが確認できた。
俺は息を飲み込み、その異形を見つめた。それは、何となく顔らしい部分をこちらに向けた。
その姿は、まるで俺がハマっているゾンビゲームから抜け出してきたかのようであった。悪夢であってほしいと願ったが、見えなくなった右目の痛みが、これは現実であると知らせていた。俺はしばらくその怪物を見つめ続けた。少しの間、無言の時間が続いた後、その沈黙を破るかのように、怪物はうめき声を上げながら鉤爪のついた腕を私に伸ばしてきた。
俺は瞬時にリュックからサバイバルナイフを取り出し、全力で怪物の首元に突き立てた。
その怪物が苦痛に喘ぐ姿を見届けることもせず、俺は車から飛び出した。
頭がおかしくなりそうになりながらも、俺は古びた病院から離れるように走り続けた。どれだけ走り続けただろう。俺は少し冷静を取り戻して、一つの大きな問題に気がついた。それは、どの道を通って帰ればいいのか、全く分からないということであった。
俺は初めてここに来たし、ここに来るまでの途中、うたた寝していたので、分かるはずがなかった。助けを呼ぼうにも俺のスマートフォンは電池切れで、使い物にならない。
俺は呼吸を整え、混乱した状況を整理し、岡部と四宮を探すことに決めた。二人を助ける義務があると思ったわけではない。彼らと再会すれば、俺の生存確率は少しでも上がるだろうし、もし岡部が息絶えていたとしても、彼の車の鍵と車を手に入れるべきだと思ったのだ。
俺は、来た道を歩いて戻った。走っていたときには気づかなかったが、思いのほか遠くまで来てしまっていたらしい。喉がカラカラに乾いていた。俺のペットボトルは岡部に預けていた。俺は、彼の存在のありがたさを改めて感じながらも、自分の生存のために彼の無事を祈った。
やっとの思いで岡部の車に戻ったとき、俺は信じられない光景に出くわした。
それは、岡部の服を着た先ほどとは違う怪物だった。俺は人の服装などいちいち覚えていないが、こんな品がないロゴの入った赤い服を着ているのは、この世で岡部だけだろう。
俺は戸惑いつつも、この怪物が変化した岡部なのか、それとも岡部を殺してその服を奪ったのか、判断することができなかった。しかし、どちらにせよ、俺はこの怪物を倒さなければならないという結論に達した。岡部の敵を討つために自らの命を危険に晒すつもりはなかったが、岡部の車の鍵を手に入れるという目的は、戦うに足る理由となった。
その化け物も俺の存在に気がつき、おぞましい表情とけたたましい鳴き声で威嚇してきた。サバイバルナイフが有効だということは先程の戦いで証明されていた。俺がナイフを構えた瞬間、怪物は猫が獲物を仕留めるかのような速さで役に立たなくなった俺の右目の方向に動き、姿を消した。
怪物を探そうとしたが、怪物を見つける前に、俺の腹部に経験したことのない痛みが走った。視線を下げると、怪物の鉤爪が俺の胸に深く突き刺さっていた。痛みに堪えかね、俺は膝から崩れ落ちた。
意識が遠のく中で、四宮が謎の男に襲われたとき、なぜ俺は危険を冒してまで彼女を助けようとしたのかを考えていた。
俺はどうやら、心の奥底では、岡部や四宮のように人間愛に溢れた人になりたかったようだ。
第三章 岡部陸の嫉妬
謎の男との戦闘の後、俺は清吾を背負いながら、四宮と共に廃病院から逃げ出していた。外は暗くなっていたが、俺の心は、さらに黒い絶望に包まれていた。
俺は、謎の男を殺してしまったことより、危険な場所に清吾と四宮を連れてきたことを後悔していた。
「ごめんな、四宮。こんなことになるなんて…。」
俺がそう言うと、四宮は、涙を流しながら「仕方ないよ。」と俺を慰めた。いつものように怒って俺を責めない四宮を見て、俺は本当に取り返しのつかないことをしたのだと理解した。
車に到着し、俺は後部座席に清吾を寝かせた。足を引きずっていた四宮が助手席に乗るのを手伝い、俺は運転席に乗った。俺は力強く車のエンジンスタートボタンを押した。しかし、車は全く動かない。俺は頭を真っ白にしながら、必死に車の鍵を探したが、どこにも見つからない。どうやら、謎の男との死闘を繰り広げた際に、鍵を落としてしまったようだ。
俺は四宮に鍵がなくなったことを告げ、一人で探しに行くと伝えた。四宮は鍵をなくした俺を責めるどころか、足が痛くて一緒に鍵を探しにいけないことを詫びた。俺は自分が心底情けなくなり「本当にごめん」と言い、逃げるように車を去った。
もう二度と行きたくない先程の場所へ、俺は息を切らしながら急いだ。先程の場所まで戻った時、俺はスマートフォンのライトで床を照らした。謎の男は先程倒れた位置と同じところに倒れていた。床には、一人の分とは思えないほど量の血が拡がっており、男がすでに死んでいることは明白であった。
その血の海の中に、男のものと思われる財布が寂しく転がっていた。俺は、男の正体を知りたいという衝動に駆られ、血だらけの男の財布を人差し指と親指だけで器用に拾い上げた。
財布の中には学生証が入っていた。名前は『日下部修二』というらしい。驚くことに、俺と同じ大学であることが分かった。さらに驚くことに男は医学部生であった。俺の大学は世間的には中の上くらいの偏差値の私立大学であったが、医学部となると話は別である。俺には、なぜ富と才能に恵まれたエリートがこんなに狂った凶行に走ったのか、理解できなかった。
今はこんなことを考えている場合ではないことを思い出した。俺は必死に車の鍵を探したが、どこを探しても車の鍵は見つからなかった。焦燥感と不安感がピークに達したとき、おそるおそる男の死体を転がすと、車の鍵はその下にあった。その際に男の腹に刺さっていた俺のお気に入りのサバイバルナイフも返してもらった。
俺は先程よりもさらに早く走って車に戻った。これでやっと二人を病院に連れて行ける。安堵した俺は自分の喉が焼けつくように渇いていることに気がついた。二人を病院に連れて行ったら何か飲もう。
しかし、安堵したのも束の間、車に戻った俺が目にしたのは地獄のような光景であった。
車に戻ると、助手席にいる四宮がぐったりしていた。よく見ると首からは大量の血が流れている。俺は慌てて四宮に何があったのか問いかけると、彼女は、か細い声で「清吾くんに刺された」と答えた。
今まで経験したことのないほどの怒りが込み上げてきた。俺は四宮が清吾に好意を抱いているということには、とうに気づいていた。二人が幸せなら四宮のことは諦めようとも思っていた。それなのに。
俺は怒りをなんとか鎮めながら、四宮を治療することを考えた。俺のリュックに入っていたタオルで四宮の出血した箇所をきつく圧迫すると、奇跡的に四宮の出血は止まり、彼女は落ち着いたように眠りについた。
俺が四宮を病院連れて行こうと運転席のドアに手をかけた時、背後に気配を感じ振り返った。
そこには、闇の中で俺の方を見ている清吾が立っていた。
俺は怒り狂いそうになりながら、清吾に、なぜ四宮を刺したのかを聞いた。清吾は、何も答えずニヤニヤしながら、手に持っていたサバイバルナイフを俺に向けた。
俺は、自分の殺意を感じる間もないほどの早さで動き、清吾の胸にサバイバルナイフを突き刺した。清吾はあっけなくその場に倒れた。
急いで運転席に戻ると、四宮が目を覚ましていた。俺は今の光景を四宮に見られたか心配になったが、どうせすぐに分かることだと思い正直に俺が清吾を殺したことを伝えた。
意外にも四ノ宮は「岡部がいるから大丈夫」と笑顔で答えてくれた。俺は四宮と二人ならどこへでも行ける気がした。そのとき、遠くから近づいてくるサイレンの音に気づいた。
実は俺が車を離れた直後、携帯の電波がかろうじてつながり、四宮が警察に通報してくれていたらしい。俺は四宮の手を取り一緒に車から降りた。外は満天の星で、俺と四宮は二人で並んで、ぼんやりとそれを眺めていた。
その幸せな時間も束の間、駆けつけたパトカーから一人の若い警察官が降りてきた。その警察官に事情を説明しようと近づいた時、俺の胸に強い衝撃があり、俺はのけぞるように後ろに倒れた。
それから衝撃のあった箇所に焼けた鉄の棒を突き刺されたような痛みと熱を感じた。なぜだか分からないが、警察官が俺に発砲したようであった。心霊現象で、みんなおかしくなってしまったのだろうか。
俺は人生の最後の時であることを悟り、四宮の手を握りしめたが、彼女がその手を握り返してくれることはなかった。
第四章 七瀬大地の憤怒
俺、七瀬は24歳の新米警察官だ。おととし警察学校を主席で卒業して、管内でも最も忙しい交番に配属された。しかし、酔っ払いを殴ってしまったことが原因で、昨年の4月に田舎の交番に飛ばされることになった。
新しい交番で俺の上司になったのが、堂島さんだった。堂島さんの仕事のできなさは警察署内でも有名であったため、俺は田舎の交番で堂島さんの下で働くと知った時は警察官を辞めようかと思うほど落ち込んだ。
しかし、実際に堂島さんと仕事をすると、彼はただ器用さに欠け、出世に興味がないだけで、仕事に対する真剣さは他の人に負けていなかった。堂島さんには、人の話を相手が納得するまで聞き続ける忍耐強さと優しさがあった。それは短気な俺に欠けている部分であり尊敬できる部分でもあった。俺が堂島さんに教えてもらったことは多く、早く仕事を覚えて恩返しがしたいと思っていた。
しかし、2日前、勤務中に堂島さんは殺された。
堂島さんが殺された後、警察のメンツをかけて警察本部が総出となって犯人の捜索を行っているが、犯人はいまだに見つかっていない。警察署内では、警察官でありながら一般人に殺された堂島さんを情けないと蔑む声があり、俺は怒りを抑えるのに必死であった。
「あんなクズたちに堂島さんを殺した男は捕まえさせない。俺が絶対に捕まえる。」
堂島さんが男に襲われ命を奪われるという悲劇が起きてから2日がたった。あの日から俺は一睡もしていないし、ほとんど何も食べていない。俺は地域課長に無理せず休むように言われたが、何とか説得して今日は警察署の電話番をしている。本当は堂島さんを殺した男の捜索班に加えてほしいと強く志願していたが、冷静さを欠いていると言われ、それは叶わなかった。
いつもなら警察署の電話は鳴りっぱなしであったが、その日は退屈であった。俺は相変わらず腹が減らなかったが、抑えられないイライラを誤魔化すために何か口に入れたくなった。何か食べるものがないか探したところ、警察署の自販機にカップラーメンがあるのを発見した。堂島さんがよく食べていたやつだ。俺は電子ケトルに水を注ぎお湯が沸くのを待った。
そのとき、警察本部からの無線が警察署に入ってきた。待ちに待った知らせであった。
無線の内容は、女性からの通報で、友人と廃病院で肝試しをしていたところ、フードを被った謎の男に襲われてケガをしたとのことであった。堂島さんを殺した男の特徴と完全に一致していた。
警察本部からは複数名で対応するように指示があったが、俺は上司の止める声を無視して一人でパトカーに飛び乗り現地へ急行した。こうなることを予測し、あらかじめパトカーの鍵をポケットに忍ばせていたのだ。
俺は、闇夜に覆われた田舎道を、パトカーで走った。スピードメーターが振り切れそうになるほどの速度だった。最初に現場に到着したい。元々負けず嫌いな性格であったが、この時ほど一番になりたいと思ったことはない。
その望みは叶い、俺が現場に到着したとき、他のパトカーはまだ来ていないようであった。
現場に着いて、まず視界に入ったのは、赤い車、そしてすぐに車の近くに男が倒れているのが分かった。
倒れている男に近づこうとしたとき、もう一人の男が、赤い車の奥の方から、ナイフを持って男が満面の笑みでこちらに近づいてきた。彼の片方の手で、明らかに死んでいるように見える女の腕を掴み引きずっていた。犯人の服装とは違ったが、俺は、このいかれた男が堂島さんを殺した犯人であると確信した。
俺は、拳銃をホルスターから抜き、予告も威嚇射撃もせずに男の胸元を撃ち抜いた。銃声が響くと同時に、彼の体は木を切り倒したように地面に倒れた。
俺は、男が引きずっていた女と倒れていた男に救命措置を施そうとしたが、既に手遅れだった。現場に充満する血の匂いが、絶望感に香りをつけていた。
何はともあれ、これで堂島さんの敵討ちは終わった。そのはずなのに、まだ俺の怒りの炎は俺の心臓を強く焼きつけていた。
そうか、俺が1番許せなかったのは堂島さんを守れなかった俺自身だったのだ。俺は自分の人生を終わらせることにした。
しかし、その前に、堂島さんを馬鹿にしたやつらにも罰を与えなければならない。
他のパトカーのサイレンの音が近づいてくる。喉がひどく乾いている。
第五章(序章の序章) 日下部修二の強欲
僕の名前は日下部修二、中堅私立大学の医学部2年生だ。両親は精神科医母をやっていたが母は僕が幼い頃に患者に殺され、父も数年前に火事で死んだ。
そのような境遇であるから、世間は僕に同情的だが、僕は自分のことを勝ち組だと思っている。なぜなら、親が残してくれた莫大な遺産と明晰な頭脳のおかげで、金にも学業にも女にも苦労することはないからだ。
そんな僕の最近の唯一の悩みは、人生が退屈であると感じてきたということであった。日々の生活に不満はないが、つねに新しい刺激が欲しいという強い欲求がくすぶっていた。
ある日、僕は父の書斎に入った。僕の父は仕事人間で、家にいる時も書斎に篭り切りであったので、父との思い出はほとんどない。書斎に入ったのも、亡き父への思いというよりは、単なる好奇心であった。
書斎には高学歴の僕でも読むのが嫌になるような難解な書籍がズラリと並んでいた。僕は何かに導かれるように一冊の微生物学の本を手に取った。そこには隠されるように手書きのノートが挟み込まれていた。
埋蔵金を見つけたような気持ちで僕はそのノートを開いた。そこには料理のレシピのようなものや、意味不明な数字やアルファベットの羅列が書かれていた。単なる料理や買い物のメモとも思えたが、父が料理をしている姿など一度も見たことはなかった。ここには「何か父の秘密が隠されているに違いない」と考えた僕はノートに隠された暗号を解くことにした。
一晩かけて暗号を解き、そのノートの意味することを何となく理解した。どうやら父は新しい向精神薬のようなものを作ろうとしていたらしい。
日常に退屈していた僕は父の残したノートを頼りにその薬を再現することにした。
大学も冬休みに入っていたので、僕は自宅にこもり、薬の開発に没頭した。一般人では手に入れられないような薬の材料は大学の薬品庫からこっそり持ち出した。
一か月かけて薬の試作品ができた。早速、僕はその薬の効果を試したくなった。最初は友人に試そうかとも思ったが、後々面倒になりそうであったので、自分に試すことにした。
未知の薬を投与するリスクを許容してしまう程度に、僕は人生に飽きていた。僕は、注射器を自分の腕に刺し、薬液を入れた。
数秒後、ちょっとした光が脳内に散らばり、少し気分がよくなった。さらに数分後、僕の頭の中は今までにないくらいクリアになっており複雑に入り組んだ思考を同時に高速で行うことが可能になっていた。
僕は新しく手に入れた能力に興奮がやまず、しばらくの間、2冊の本を同時に読んだり、左右の耳で違うラジオ番組を聴いたりして遊んでみた。気がついたら深夜になっていたが、全く眠たくならない。この薬は睡眠すら必要としないらしい。
唯一の問題として、かなり喉が渇きやすくなるようになるが、得られる効果に対する副作用としては微々たるものだ。
素晴らしい能力に酔いしれながら様々なことに思考を巡らせていたところ、僕にある疑念が浮かんだ。
「もしかして父は殺されたのではないか。」
この素晴らしい薬の開発が外部に漏れていたとすると、父を殺してでも欲しがる人間がいてもおかしくはない。父は、きっと何かの組織から命を狙われたのだ。いてもたってもいられなくなった僕は、この真相を確かめるべく、近くの交番まで自転車を漕いだ。
交番で対応したのは太った警察官であった。僕は、父のことを話し始めたが、太った警察官は何のことか分からないという反応であった。むしろ、本当は真相を知っていながら理解しようとしていないように感じた。その態度を見て、僕にもう一つの疑惑が浮かんだ。それは父の死を事故だと判断した警察も、父を殺した組織とグルであるとの考えであった。そうであるなら、警察に相談したことは致命的なミスだ。幸いその警察官は眠そうであったので、隙だらけであった。
僕はたまたまポケットに入れていたナイフで、その警察官を滅多刺しにした。
太った警察官が動かなくなったのを確認してから、僕はその警察官の拳銃を抜き去った。その警察官を殺した目的は口封じのためであったが、組織に対抗できるだけの武力が必要だった僕にとって、拳銃を入手できたことは大きなプラスである。
しかし、このままでは僕はただの殺人犯になってしまう。自分の行いが正当であるということを世間に証明するために、僕は廃墟となった父の病院に行き、自分の考えを肯定する証拠探しに明け暮れた。しかし中々決定的な証拠は出てこない。僕はもう48時間ほど寝ずに動いていたので流石に眠くなってきた。
僕は、廃病院のベッドの上で眠りについた。どれくらい眠ったか分からないが、僕は人の気配を感じとり目を覚ました。ここは廃病院で誰もいないはずである。すぐに秘密を知ってしまった僕を始末するために組織が送った刺客であることを僕は理解した。刺客は3人いた。僕は拳銃を発砲し先制攻撃を試みたが、初めて使う拳銃は上手く使えず一番弱そうな女の足をかすめただけであった。
その後、僕の必死の抵抗も虚しく、僕は刺客の一人に腹を刺された。薬の影響か痛みはあまり感じなかったが、出血量が多いからか、全身に力が入らず、僕はその場から動くことができなかった。
僕は父のメモを発見したことを後悔していない。父の死の真相を知ることができたのだから。
これでやっと父と母の元へ行ける。
最終章(始まりの物語) 日下部圭一の傲慢
私の名前は、日下部圭一。世の中に天才と呼ばれる凡人が数多くいるが、私は彼らとは違い本物の天才であった。私は、物心ついた頃から溢れ出る知的好奇心を満たすためにあらゆる本を読み漁った。小学3年生の時点で、両親や教師を含めて私より賢い人間はいなくなり、私は身の回りの誰かにものを教わるということがなくなった。
それからの私は、無敵の存在だった。小中高と進学校に通った私は、同級生や教師から神のように崇められ、私は神のように自分勝手に振る舞った。「日下部圭一は特別だ。」それが、私の生きる世界での常識であった。そんな日常は、ある日突然崩れ去った。
私は有名大学の医学部を受験したのだが、私よりも良い点をとり、私から主席合格を奪った女がいたのだ。
彼女の名前は豊川零。私に初めて負けの悔しさと屈辱を味合わせた人間だった。
零は、私とは違い、お洒落やファッションに全く興味がないような陰気な女だった。初めて零を見た時は、こんなダサい女に負けたのかとさらに落ち込んだほどだ。
しかし、それ以上に私をイライラさせたのは零の人間性であった。零は、有名大学の医学部主席合格とは思えないほど腰が低く、天才のくせに一般人のフリをしようとしていた。
私は零の全てが気に入らなかった。
私はある日、大学の廊下を一人で歩いている零に話しかけ、学部内のテストで勝負をしようと持ちかけた。零は少し驚いた顔をした後に、私と目を合わさずに「いいえ、勝負したくありません」と言った。
私は零の返答を無視して「負けた方が何でも言うことを聞くってことで」と言ってその場を去った。私は勝負に勝って、零を奴隷にして、屈辱を晴らそうとしたのだ。
私は履修した全ての科目の講義を熱心に聞き、過去問や関連書籍を読み漁り、試験に挑んだ。しかし、結果は僅差で零が勝った。私は何でも言うことを聞くという約束通りに零に何をして欲しいか尋ねた。何も望まないという零を説得し続けたところ、零は「それなら私を許してもらえませんか。あなたの気分を害したことは謝りますから。」と答えた。私は心底頭にきて、零の提案を却下した。
その後も、ことあるごとに私は零に挑み続け、負け続けた。
次第に私と零は日常会話もするようになった。私と同じレベルで考えて返答が返ってくる。私が人との会話を楽しいと感じたのはいつぶりだろう。
いつしか零とは、一緒に勉強する仲になった。そして、零との時間が、私にとって至福の時間になっていた。零が普通の人のように振る舞うので、零より劣っている私が神を演じる必要はなくなった。
いかに傲慢な私でも零への好意を認めざるを得なかった。私は零に勝負で勝った時に想いを告げる決心をした。
ついに私の思いを零に伝える日がきた。私が僅かに試験の点数が上回ったのだ。私はすぐに零と待ち合わせた。
「君に好意を抱いている。だから…。」
いつもは雄弁な私が、言葉に詰まってしまった。
零は驚いた様子で言葉に詰まる私を見たが、やがて目に涙を浮かべて答えた。
「圭一さんとの関係が終わると思ったので勝負には絶対に負けたくなかった。私も圭一さんのことが好きです。」
私たちの交際が始まった。
私はただ成績が良いからと言う理由で医学部を受験したが、零には精神科医となり人の心を癒したいという夢があった。私には、零の気持ちは理解できなかったが、特に他にやりたいこともなかったので、彼女と同じく精神科医の道に進んだ。
私たちは順調にキャリアを積み、お互いの親に援助してもらい二人で精神科病院を開業した。私たちの病院は評判が良く、患者たちの信頼を得ていた。
プライベートも順調で、私たちは結婚し、間には一人の男の子が生まれた。長男であったが、名前には零の「0」と圭一の「1」に続く数字の「2」を入れて、修二と名付けた。絵に描いたような幸せな日々であった。
しかし、突然終わりはやってきた。ある日、零は診察中に錯乱した患者の男に刺されて命を落とした。
「なぜ私ではなく零が殺されなければならなかったのだ」
零を殺した男は、零に処方された薬を飲んでいなかったのにも関わらず、精神障害で責任能力がないとして無罪となった。
私はこの状況を受け入れることができず、息子や患者に対して冷たく接するようになった。見兼ねた私の両親が、息子を引き取った。
私は生きる目標を完全に失っていたが、あるときバーで一人で飲んでいる時に、高校の同級生にたまたまでくわした。彼から「お前は何でもできるだろう。世界が嫌なら世界を変えろよ。」と励まされ、私は世界を変えることにした。
私が望む世界は、「精神を病んだ人が、一人もいない世界」であった。その世界を実現させる方法は、誰もが明るくなる向精神薬と同じ作用をもたらすウイルスを開発し、世界にばら撒くことであった。
私は精神科医として働きながらも、脳科学や微生物学を独学で学び、人類に希望をもたらすウイルスの開発に励んだ。何年もの時が過ぎ、研究室となった病院の一室では何千匹ものマウスが犠牲となった。そして、開発を始めて8年が過ぎた時、とうとう理想のウイルスが完成した。
このウイルスは脳内のドーパミン量を劇的に増やす作用があり、鬱状態のマウスを正常に戻し、それ以外のマウスは感染前より活動的になった。そして、このウイルスは感染力が強く、飛沫感染により同じゲージ内のマウスに瞬く間に感染した。さらに一度ウイルスに感染すると、ウイルスが体内からなくなっても脳への効果は残り続けた。マウスの脳を改変するウイルスの開発に成功した私は、次に人間で試すことにした。
さっそく私は、病院の敷地内に、人体実験用の建物を建設した。表向きは特別な措置が必要な患者のための病棟というとこにした。
許されないことをしているという自覚はあったので、万が一のために、病棟に隣接した危険物倉庫に細工を施し、いつでも火事に見せかけて焼却することができるようにした。そして、そうなったときでもウイルスの開発を進められるように、ウイルスの作り方を暗号化したノートを自宅の書斎に置いた。
私は重度の精神疾患により入院していた患者の一人を実験棟に移した。それから、看護師の一人に、その患者の世話をさせた。その看護師は山田という真面目で大人しい女性であった。山田には、患者は重度の感染症を患っているとして、感染対策を徹底させた。
ウイルスの効果は目覚ましく、その患者の症状は瞬く間に改善した。ほとんど何も言葉を発しなかった患者が、ウイルスに感染して数時間で「こんなに頭がクリアな日は初めてです。今までで一番幸福を感じています。」と言うほどであった。副作用で喉が渇くのか、患者は水を何度も欲しがった。
予想を超える効果に私は歓喜した。しかし、その晩に事件は起こった。
実験棟の様子を見に行った私が目にしたのは、山田がベッドの患者に馬乗りになり、首を絞めている光景であった。
私は慌てて山田を引き剥がそうとしたが、山田は私の手に噛みついてきた。私は暴れる山田の襟を締め上げて気絶させた。それから椅子に座らせてビニール紐で縛り上げ固定した。
その後、すぐに患者の状態を確認したが既に手遅れであった。
目を覚ました山田に、なぜこんなことをしたのかと聞いたところ篠原は虚空を見つめたまま答えた。
「彼女が何度も水を欲しがるので大変でした。でもぐっすり眠ってくれたみたいで良かったです。」
どうやら山田は、先ほど自分がしたことを理解していないらしい。
私は項垂れた。真面目な山田が、なぜこんなことをしたのか。最も有力な要因は、ウイルスの影響であろう。マウスでは問題がなかったウイルスが、人間の脳には悪い影響があったのかもしれない。この仮説はすぐに証明された。
「あなたは本当に傲慢ね」
死んだはずの零の声が聞こえて、顔を上げると山田が座っていた位置に零が座っていた。なるほど、ウイルスの影響で、幻聴と幻覚が見えるのか。私はさっき山田に噛まれた腕を見ながら思考を巡らせた。
私にも既に正常な世界が見えなくなっているらしい。どうするべきか明白であった。有害だと分かったウイルスを世に放つわけにはいかない。私は自分を守るために準備していた細工を発動した。これで私を含めて、実験棟ごと感染源は全て焼却される。
炎に囲まれながら、私は零の幻覚をじっと見つめた。零の幻覚は何も言わずに微笑んでいた。
やはり私は神ではなかった。ウイルスで人々を幸せにするという私の野望は叶わなかったが、そんなことはどうでも良かった。
最後に、最も私が見たい世界を見られたのだから。
~完結~
公式ネタバレ解説 ※ネタバレ注意
時系列順のできごと
1993年 日下部圭一と豊川零が出会う
2000年 日下部圭一と豊川零が医師免許取得、研修医になる。日下部圭一と豊川零(日下部零)が入籍する。
2002年 日下部圭一・零は零の父の病院で精神科医として働きはじめる。
2004年 日下部圭一と零の間に日下部修二が産まれる。
2007年 日下部圭一・零は二人で新しい病院を開業する。
2009年 日下部零が患者に殺害される。
2010年 日下部零殺人事件の初公判が行われ、被告は無罪判決となる。日下部圭一が未知のウイルスの開発を始める。
2018年1月 日下部圭一がウイルスの試作品を完成させる。
2018年11月 日下部圭一が特別措置病棟を建造する。
2018年12月 日下部圭一がウイルスを患者に投与する。患者の世話役の看護師がウイルスに感染し患者を殺害する。日下部圭一もウイルスに感染する。日下部はウイルスの感染を止めるために、病院に火を放つ。この火災による死者は3名(日下部圭一、看護師、患者(実際の死因は看護師に首を絞められたことによる窒息死))
2021年4月 日下部修二が大学に入学する。七瀬大地が警察官になる(警察学校に入る)。
2021年10月 七瀬が現場(交番)に配属される。
2022年3月 七瀬が暴力問題を起こしたことで異動となり、堂島武三のいる交番に配属される。
2022年4月 四ノ宮彩花、藤井清吾、岡部陸が日下部修二と同じ大学に入学し、3人はアウトドアサークルに入る。
2023年2月 日下部修二が父の書斎でウイルス(日下部修二は新薬と思っている)のレシピを発見し、再現しようと研究を始める。
2023年3月16日 日下部修二がウイルスの再現に成功し自身に投与する。
2023年3月17日2:30頃 ウイルスによる妄想により、日下部修二が堂島の勤務している交番に赴き、堂島を殺害する。堂島を殺害した直後、日下部修二は、両親が働いていた廃病院に向かう。
2023年3月19日16:30頃 四ノ宮、藤井、岡部が、岡部の車で、廃病院に肝試しに向かう。
2023年3月19日17:00頃 四ノ宮、藤井、岡部が、廃病院に到着する。
2023年3月19日17:15頃 四ノ宮、藤井、岡部が、錯乱した日下部修二に襲撃される。
岡部が日下部修二の腹部をナイフで刺し殺害する。日下部修二との戦闘により、四ノ宮と藤井が負傷し、藤井は意識を失う。また、藤井と岡部はウイルスに感染する。
2023年3月19日17:40頃 四ノ宮と気絶した藤井を背負った岡部が、岡部の車に到着する。岡部は、藤井を後部座席に寝かせる。四ノ宮は助手席に乗る。岡部が車の鍵がないことに気づき、鍵を探すために車から離れる。
2023年3月19日18:00頃 四ノ宮が自分の携帯が圏外となっていないことに気がつき警察に通報する。通報の途中で電波が悪くなり電話が切れる。その直後、目を覚ました藤井は、ウイルスによる幻覚のせいで四ノ宮を化け物と思い込み殺害する。実際には目を覚ましたが様子のおかしい藤井を心配した四ノ宮が手を差し伸べただけであった。藤井は車から離れる。
2023年3月19日18:05頃 鍵を見つけた岡部が車に戻り、死んでいる四ノ宮を発見するが、岡部はウイルスによる幻覚と幻聴で四ノ宮が生きていて話をしていると思い込む。
2023年3月19日18:15頃 車に戻った藤井と岡部が闘い、岡部が藤井を殺害する。ウイルスによる影響で、藤井は岡部が化け物に見えており、岡部は藤井への殺意が増幅されていた。岡部は藤井を殺害した後に、四ノ宮の遺体を車から引き摺り出す。ウイルスによる影響で、岡部は四ノ宮がまだ生きていると思っている。
2023年3月19日18:20 七瀬が岡部を発見し、現場の状況から岡部が堂島を殺害した犯人であると誤認する。七瀬は岡部に拳銃を発砲し殺害したあと、四ノ宮と藤井に救命措置を講じようとしたところ、二人が死んでいることを確認する。この際、七瀬にウイルスが感染する。
この物語の鍵となる設定
【日下部親子の開発・再現したウイルス】
空気感染、飛沫感染、接触感染により感染する感染力の高いウイルスである。
感染して数分で、脳内のドーパミンやアドレナリン量を増加させるとともに、扁桃体や前頭前野の一部の働きに影響を与える。うつ状態を改善する働きがある一方で、幻覚が見える、幻聴が聴こえる、衝動的になる、攻撃的になる、喉が渇
くなどの副作用がある。
副作用によって生じる幻覚などは、感染した者の信念や願望の影響を大きく受ける。つまり。「見たい世界だけ(自分にとって都合のよい世界だけ)見えるようになる」ウイルスである。
このウイルスに感染したことで、日下部圭一は「亡き妻が生きている世界」、
日下部修二は「父親が潔白である世界」、藤井清吾は「自分だけが正常な世界」、
岡部陸は「四ノ宮から愛される世界」、七瀬大地は「自分と堂島を蔑ろにした警察が悪である世界」で生きるようになる。
堂島と四ノ宮はウイルスが感染する前に死亡している。
その他のどうでもよい設定とか
・章のタイトルは、「人名+七つの大罪の罪名」で統一してみました。この設定に引っ張られて登場人物の性格が決まってしまったところがあります。
・章のタイトルの人名には、一、二、三、四、伍(伍)、六(陸)、七と時系列に並べたときの主人公順に数字が入っています。零(0)もそうです。特に意味はありません。
・私はバッドエンドが嫌いなのに、どうしてこうなった。
なぜ私がこの小説を書こうと思ったか。
私は元々、映画「シックスセンス」や「ファイトクラブ」などの人によって世界が違う見え方をするという物語が好きでした。しかし、その類い物語は、イカれた主人公の見ている世界と現実世界の2種類の世界しかないものが多く、私はもっと多くの人間が一つの世界を別の見方で見る作品があったら面白いのではないかと思って、この話の構想を思いつきました。現実世界でも、同じものを見ても人によって感想は違うわけで、まるでそれぞれが違う世界で生きているかのような面白さがありますよね。それを表現したいと思ったのです(本当は、もっと人が死なない話にしたかったのですが、私の力量では無理でした)。
話の登場人物やあらすじは1年前から決まっていたのですが、芥川龍之介の「羅生門」くらしか小説を読んだことがない私には文才がなく、物語を作ることは諦めていました。しかしChatGPTという文書作成ツールが出てきたことによって、拙いながら小説の形に仕上げて、この作品を公開することができました。
ありがとうございました。