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新宿の風

作者: 西園寺歩

なんで新宿歌舞伎町が好きなんだろう。

新宿駅東口。少し歩いて役所通りへ出る。役所の向かいにあるカラオケ屋。少し前にはパチンコ屋だったテナントがうどん屋に変わってから何年過ぎただろうか。すぐ潰れると思っていたら、意外と賑わっている。

場所は歌舞伎町。鼻にぬける風の匂いは、全く爽やかさのかけらもない。でもどこか懐かしい。目に入る風景は、とても綺麗とは言えない。でも何か惹きつけられる。人たちは何かを抱えている。だから、心の卑しさの波動が共鳴し、町全体が迎え入れてくれる。

流れる人の波を見ていると思い出が蘇る。時は学生の頃。フリータイムのカラオケ500円を目当てに、朝一番から店の前で待っている。

「お兄さん、ちょっといいですか。」

ふと声が聞こえてきた。ある友人が以前モデルのスカウトをうけた話を思い出して、ハッと顔をあげる。帽子をかぶって、いかにもシティボーイ&ガールの身なりをした2人組が笑いかけながら目を合わせてきた。とあるモンスターゲームの世界では、目があったらバトルの合図というが、実際問題、頭の中ではモデルからタレントへの道が瞬時に描き出された。

「こういうものなんですけど。」


きた。決まり文句。決定だ、明日からモデルデビューを果たす。親になんて言おう。友達にどう話そう。


見せられたものは、ホリプロコムの名刺でもスターダストプロモーションの名刺でもなく、ごく一般の警察という証であった。


おかしいよ。こういうものなんですけど、は大玉スカウトのセリフだろ。治安を維持する職種が勿体ぶるなよ。


聞くところによると、何らかの事情で帰るあてがない学生がこの地域で多いとのことだ。特段、事情も抱えておらず、歌を歌いたいだけだったのでその場は見逃された。ほんの10分の出来事が今となって鮮明に思い出される。


西武新宿駅。降りて少し歩くと、あごだしで有名なラーメン屋がある。トビウオの出汁を使用したスープが美味しい。そのスープの香りを嗅ぐと思い出す。

時は大学生。仲良し3人組で集まって語らいあっていたら、イケてるイケすかない男が突如話しかけてきた。

「ここで会ったのも何かの縁だし、カフェに行かない?」


イケすかない野郎だ。こっちで楽しくしてる状況を見て、話を折ってまで侵入してくるか。その心変わってるね。


3人のうち社交的担当が、持ち前の社交性を活かして話を深掘りし、カフェへとむかう。カフェで特に話すこともなく、奢ってくれるわけでもなく、ただ気まずい時間が流れた。

「おれ、ナンパの師匠がいて、その人の講義うけてるんだよね。話を聞くと、なるほどなってなるし、効果もテキメンなんだよね。」


イケすかない野郎だ。聞いてねぇよ。お前がいつどこでだれをナンパしようが関係ねぇんだ。そしてどんだけの美女を落とそうが羨ましくもないんだよ、、嘘ついたかもしれん。羨ましいよ。そうなれば。心を開くことの難しさ、顔の整い、声質諸々そう簡単に克服できるわけじゃない。それでも挑む姿は少しカッコいいよ。


ナンパについて小一時間ほど聞いて、極意や真髄について解説してもらった。一気に仲良くなったと思ったのか、次に男はこう話す。

「新宿に美味しいラーメンがあるんだけど、よかったら今から行かない?」


イケすかない野郎だ。人を巻き込みすぎだろ。まだ食べ物の好みも語ったことのない人と、謎のラーメンを食すのは危険が過ぎる。行動力が煽り運転してるんだよ。そこは見習わなきゃいけないのか。


あごだしラーメン屋に着いた。魚介のエキスが体を癒していく。美味しい、それ以外の言葉が出てこない。体が癒された後、喜びを表現する。


いけすかない野郎だ。反論をさせてくれよ。もうまったく、いけすかない。


新宿の風が思い出させてくる。


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