18:リポグラム 使える字数制限をもうけて書いてみる
世の中には、文字に制限をかけた小説というのがあります。
それが、リポグラムです。
リポグラムは本来は海外の手法ですが、日本語に応用して考えます。
五十音のうち、ある特定の文字を使わずに文章を書くのです。
例として私の過去作を引用します。
『ことばあそび』 リポグラム
https://ncode.syosetu.com/n7438hl/2/
――引用――
『あす』のない世界
いつからだろう。世界が静止してしまったのは。
音がない。誰も何も言わない。植物の根や芽さえもどこにもない。……だってこの世界はもう終わっているのだから。
全部一人の愚かな人間のせい。その人間がボタンを押して世界が弾け、誰もいなくなった。
今日も真っ赤な夕陽が落ちて、寒い寒い夜がくる。
けれどふたたび太陽が昇っても、それはやってこない。
風が吹き、二度と動かぬ終焉の世界を見向きもせずに駆け抜けていく。
――引用終わり――
これは、『あ』と『す』や、それを含む言葉を一切使わずに書いた小説です。
今回は語るついでに一作やってみましょう。
リポグラムの作り方としては、まずテーマを決めます。
パッと思いついたのがこれ。
【『えがお』のなくなった〇〇】
これの場合、『え』と『が』と『お』の文字を使ってはならないわけです。
次は、五十音表を書きます。
今回に関しては濁音と清音、半濁音は別物と考えますので、その分も。ちなみに促音(『っ』のこと)や『ゃ』『ゅ』『ょ』は大きいのと同じということでカウントします。
そしてまずざっと文章を書き、『え』『が』『お』を抜いていくのです。
そしてあとは、五十音と濁音半濁音表を見ながら、『え』『が』『お』以外の全ての文字を使っているか確かめます。
『ぞ』とか『ぬ』とか『ぽ』『ぱ』などがかなり難しいところで、そこも最低一文字は文章のどこかに組み込みます。
そして、できたのがこれです。
『えがお』のなくなった息子
https://ncode.syosetu.com/n2336hp/
――引用――
【『えがお』のなくなった息子】
「どうして笑わないの?」
私の息子は、最近全然笑ってくれない。
昔はちょっとしたことで「ぶっ。ふふふっ」って吹き出して楽しそうにしていたのに、この頃はずっとむすっとしている。
「何かあったの?」
「別に何もないよ」
そっぽを向いて彼はそう言うけれど、私は信じられない。
だって、明らかに元気ないんだから。
高校で何かいじめなどあるのではと疑り、担任の先生と話をしてみた。
しかし、向こうは「いいや」と首を振る。
じゃあどうして息子はあんなに暗くて辛そうなの? ペラペラうるさいくらいに喋っていた口も、今はすっかり閉じてしまって。
抱いた疑念は胸に残り続けたが、どうすることもできない。
そんな日々は続いて、数ヶ月ぐらい経った頃、息子は校舎から飛んで自殺した。
鼻血やら目ん玉、内臓などは飛び散って、全身の骨を捻挫・骨折。非常に言葉にしづらい状況だったという。
突然だった。
彼の遺書によれば、好きな子にふられて、ショックを受けていたらしい。
私は全く知らなかった。
後日、その子と会った。彼女は「ごめんなさい」って何度も謝っていた。可愛い子だから、彼氏がいたので悪気なく断ってしまったのだろうとピンときた。可哀想だし許してあげた。
今でも息子は、写真の中で笑ってる。
けれど最後のそれを見たのは、彼が死ぬよりもうずっと昔のこと。記憶の中からどんどん失われゆくそれのことを、毎夜想起しては悲しくなる。
母子家庭だったから、私の全ては息子に捧げていたというのに。
慰めてくれる人もない。
何故言ってくれなかったのだろうと、私はずっと悩み続けている。
何か手を差し伸べられたかも知れない。なのに、愛する息子を守れなかったのだ。
この負の泥沼はいつまで続くのか。
もう限界だった。
首にロープを巻き付けて、ハンドミラーで首元を確認する。
そこに映る自分の表情を見ると、いつしか私の頬や目からもそれは失われていた。
もう私にその資格はないのだから、当然だ。
さあ、これで準備は整った。今から息子の元へ行こう。
もしもあの世があるならば、再び息子のそれを目にすることができますよう。
そう祈りつつ強く唇を噛み締めて、私は足場の段ボールをパッと蹴った。
――引用終わり――
本当はタイトルは、【『えがお』が消えた息子】にしたかったんですが、タイトルの中に『え』が入るのがよくないと思い、なくなったにしました。
とりあえず書いて、その後に確認・つけたし作業という感じなので、そこまで難しくはありません。
こういう縛りを設けると結構楽しいので興味のある方はぜひ挑戦してみてください!
追記:見直したつもりだったのに、『え』『が』『お』のうち、『が』が数カ所入り込んでいました。
ので、修正。
「どうして笑わないの?」
私の息子は、最近全然笑ってくれない。
昔はちょっとしたことで「ぶっ。ふふふっ」って吹き出して楽しそうにしていたのに、この頃はずっとむすっとしている。
「何かあったの?」
「別に何もないよ」
そっぽを向いて彼はそう言うけれど、私は信じられない。
だって、明らかに元気ないんだから。
高校で何かいじめなどあるのではと疑り、担任の先生と話をしてみた。
しかし、向こうは「いいや」と首を振る。
じゃあどうして息子はあんなに暗くて辛そうなの? ペラペラうるさいくらいに喋っていた口も、今はすっかり閉じてしまって。
抱いた疑念は胸に残り続けたものの、どうすることもできない。
そんな日々は続いて、数ヶ月ぐらい経った頃、息子は校舎から飛んで自殺した。
鼻血やら目ん玉、内臓などは飛び散って、全身の骨を捻挫・骨折。非常に言葉にしづらい状況だったという。
突然だった。
彼の遺書によれば、好きな子にふられて、ショックを受けていたらしい。
私は全く知らなかった。
後日、その子と会った。彼女は「ごめんなさい」って何度も謝っていた。可愛い子だから、彼氏持ちで悪気なく断ってしまったのだろうとピンときた。可哀想だし許してあげた。
今でも息子は、写真の中で笑ってる。
けれど最後のそれを見たのは、もうずっと昔のこと。頭の中からどんどん失われゆくそれのことを、毎夜想起しては悲しくなる。
母子家庭だったから、私の全ては息子に捧げていたというのに。
慰めてくれる人もない。
何故言ってくれなかったのだろうと、私はずっと悩み続けている。
何か手を差し伸べられたかも知れない。なのに、愛する息子を守れなかったのだ。
この負の泥沼はいつまで続くのか。彼の存在せぬ世界で何を求めたらいいのか。
もう限界だった。
首にロープを巻き付けて、ハンドミラーで首元を確認する。
そこに映る自分の表情を見ると、いつしか私の頬や目からもそれは失われていた。
もう私にその資格はないのだから、当然だ。
さあ、これで準備は整った。今から息子の元へ行こう。
もしもあの世で会ったなら、再び息子のそれを目にすることができますよう。
そう祈りつつ強く唇を噛み締めて、私は足場の段ボールをパッと蹴った。
申し訳ありませんでした。