再会と護衛たち
オリエンテーションの一日目。今日は朝から共に校内を巡る組み分けが発表された。指定された教室に向かい、同じ番号の人物を探すことになっている。
「レセリカ」
「! セオフィラス様」
向かった先の教室で、真っ先にレセリカを見付けたのはセオフィラスだった。
両隣には二人の男子生徒がおり、おそらく彼らがセオフィラスの幼馴染で護衛なのだろうと予想がつく。
「久しぶりだね。元気そうでなによりだよ」
いつも通りの笑顔を浮かべているセオフィラスは、それだけで周囲の女子生徒から熱い視線を注がれていた。本人はレセリカしか見ておらず、周囲のことはまるで気にした様子がない。
「はい、お久しぶりです。セオフィラス様もお変わりありませんか?」
一方で、美少女レセリカも男子生徒の視線を集めていた。表情こそあまり変わらないが、凛とした佇まいとその美しさはどうしても人の目を惹きつける。
それが、セオフィラスにはあまり面白くなかったようだ。自分に向けられた目は気にしないわりに、レセリカに注がれる他の男の視線は許せないらしい。
セオフィラスは口元だけ笑みを深めてもう一歩レセリカに近付き、そっと彼女の手を取った。
「もちろん。ただ、レセリカに会えなくてつまらなかったな」
そのまま手の甲に軽くキスを落とすと、レセリカに向かって柔らかく微笑む。周囲で女子生徒のキャアという悲鳴が小声で響き渡った。器用なものである。
「殿下ー? あまり人前でいちゃつくのはやめてもらえません?」
「どうして? 挨拶をしただけだろう。それに、レセリカは私の婚約者なのだから特に問題もないよね?」
突然のことにレセリカが硬直している間に、体格のいい焦げ茶色の髪と目を持つ男子生徒が呆れたように口を挟んできた。
しかし、セオフィラスはどこ吹く風だ。まったく気にした様子はない。むしろレセリカの反応を見て満足そうである。
「刺激が強すぎるんすよ。あと男たちに殺気を飛ばさないでくれ……」
体格のいい男子生徒の声でレセリカはようやく再起動を果たす。ハッとなって顔を上げた時、ちょうど彼と目が合った。
「失礼しました、レセリカ様。俺は三年のジェイル・ヴィシャスです。殿下の護衛を担当しています。まぁ、まだ仮なんですけどね。将来のために、学園で修行しているようなものです」
男子生徒、ジェイルは片目を閉じて冗談めかしたように名乗る。全体的に軽い印象をうけるのだが、胸に手を当てて礼をする彼の所作は堂に入ったもので、育ちの良さを感じさせた。
ジェイルが挨拶を終えたのを見計らい、セオフィラスの隣に立っていたもう一人の男子生徒も一歩前へと出てくる。淡い金髪をサラリと揺らすどこか儚げな少年だ。
「僕は二年のフィンレイ・バクスターです。同じく立場は殿下の護衛になります。レセリカ様とは今後、顔を合わせることも多いでしょう。どうぞよろしくお願いしますね」
話し方がゆっくりで人を落ち着かせる雰囲気を持つフィンレイは、顔立ちもおっとりとしているからかあまり護衛という雰囲気がない。しかし、護衛に任命されているのだからかなり優秀なのだろうことはわかる。
レセリカに武の心得はないためあまり詳しくはわからないが、実際に彼の佇まいには隙がないように思えた。
そこまで聞き終えてようやく気付く。彼らは貴族としてのマナーを守らず、自分たちから名乗ってくれていたということに。
本来なら立場が上のレセリカが声をかけて初めて自己紹介をするのだ。しかし、彼らはそれをしなかった。これは意図的なものだろうとレセリカは推測する。
つまり、学園のルールに則っているのだろう。話しかける順序に身分も上級生も下級生も関係ないのだ、と暗に示してくれたのだ。
それを普段は立場が下の者から切り出すのはなかなか勇気のいることだったろうに。伊達に殿下の護衛を務めていないといったところか。
この短いやり取りでここまでを読み取ったレセリカは、彼らを好ましいと感じた。一瞬でそこまで考えられるレセリカもかなり優秀である。
二人の意図に応えるように、レセリカも小さくカーテシーをしてから口を開いた。
「初めまして。レセリカ・ベッドフォードです。ここでは後輩になりますから、ご指導のほど……」
「いいんだよ、レセリカ。君には私が教えるから」
自分も学園のルールに従う、という意図を乗せたレセリカの言葉はセオフィラスによって遮られてしまった。笑顔ではあるものの、どことなく不満そうに見える。
自分が気分を害してしまっただろうか、とレセリカは不安になった。
「おやおや。独占欲がお強いことでー」
「あ、レセリカ様はお気になさらず。殿下が勝手に拗ねているだけっすから。殿下が。勝手に」
そんなレセリカをフォローするように、フィンレイが肩をすくめ、ジェイルが朗らかに笑った。
レセリカはますます理解が出来ずに首を傾げるばかりだ。とはいえ、どうやら自分のせいではないらしいことがわかったので胸を撫で下ろす。
「ま、挨拶はこのくらいにしましょう。殿下もレセリカ様も、同じ番号の方を探さないと」
「私とジェイルは同じチームだ。残りのメンバーはお前が探してきてくれるんだろう?」
「殿下ったらー。もう。人使いがあ、ら、い、ぞっ」
「やめろ、ジェイル。気持ち悪い」
人差し指でセオフィラスの頬をツン、とつつくジェイルに冷めた目を向けるセオフィラス。本当に気心知れた間柄なのだというのが見て取れて、レセリカは誰にも気付かれずに小さく微笑む。
(幼馴染と言っていらしたものね。なんだか、羨ましいわ)
いまだはっきり友達と言える相手が、ヒューイという従者のみのレセリカにとっては憧れの関係である。思わずジッと見つめてしまうのは仕方のないことであった。
そんな彼女の視線に気付いたジェイルは、レセリカが別の疑問を抱いていると勘違いをしたようだ。悪戯っぽく笑いながら説明を口にする。
「特例ってやつです。他の生徒と出来るだけ変わらないようにと配慮はしているのですが。さすがに一人にはさせられないので」
そう言われて初めてレセリカも気付く。
そういえば、このチーム分けはくじで決まる。セオフィラスとジェイルが同じチームになる確率はかなり低かったはずなのだ。
しかし言われて納得である。いくら他の生徒と同じように過ごそうと思っても、譲れない部分はどうしても出てくる。どちらか一人でも一緒でないと、護衛の意味がなくなってしまうのだから仕方ないだろう。
むしろ、その方がレセリカとしても安心出来た。
「そうだ、レセリカは何番だったの?」
思い出したように聞かれ、レセリカは自分の番号を見せる。十八と書かれた紙を見て、セオフィラスはわかりやすく残念そうに眉尻を下げた。彼の持つ紙には二十三と書かれている。
「残念。違うチームのようだ。同じ教室だからもしかしてとも思ったのだけれど」
レセリカも同じ気持ちだった。けれど、そこまでのショックは受けていない。レセリカは自分だけがこっそり期待していたわけではなかったと知れて嬉しかったのだ。
「ん? 十八? わぁ、嬉しい偶然ですね。レセリカ様、僕と同じチームですよ。どうぞよろしくお願いします」
そんな二人の間にヒョコッと顔を覗かせたのは、セオフィラスの護衛の一人、フィンレイであった。今知り合ったばかりとはいえ、彼なら信頼出来る。レセリカは心底安堵した。
「フィンレイ……」
「いやいやぁ、そんな目で睨まないでくれません? 何もずるいことなんてしていないんですから」
ただ、当然ながらセオフィラスはまたしても機嫌を損ねてしまったようであった。




