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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
やり直しの始まり

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質問タイムと動揺


 その後は、令嬢たちの緊張も少しだけ和らいだようだ。

 香りのいい紅茶とフワフワのスポンジケーキやクッキーを前に、お喋りに花を咲かせ始めた。


 令嬢とはいえまだ子ども。美味しいお菓子の前では素が出るというものである。常に冷静で隙のないレセリカが例外なのだ。


「あの、レセリカ様は普段どんなことをして過ごしてらっしゃるのですか?」

「普段……空いている時間のことよね? そうね、本を読んだり、弟と散歩に出かけたりするわ」


 甘いお菓子にさらにリラックスしたのか、令嬢たちは順番にレセリカに質問をし始めた。特に巻き髪のアリシアが積極的で、緊張しながらも好奇心を抑えられないといった様子である。


「弟さんが? そういえば、新緑の宴でエスコートをしていらしたわ!」

「レセリカ様に、よく似て素敵な方でしたわねぇ」

「うっ、私もお会いしたかったです……」


 両手を合わせて思い出したようにアリシアが言うと、ケイティがほのぼのと紅茶を持ち上げながら同意を示し、キャロルは不参加だったため残念そうに項垂れた。


 とても自然な会話が出来て、レセリカは感動を覚える。自分もこうして、同年代の令嬢と楽しくお喋りが出来るのが嬉しかったのだ。

 今日はいつもより紅茶も香り豊かに感じる。単純に良い茶葉を使っているだとか、中庭に咲く花の香りもあるからという理由もあるのだが、それを抜きにしても美味しいと思えた。


 令嬢たちも、レセリカが近寄りがたい雰囲気があるだけで意外となんでも答えてくれるというのがわかり、安堵したようだ。その後も他愛ない質問をしたり、自分の話をしたりと楽しい雰囲気が続く。


 そうして談笑すること数十分ほど。これまで会話にあまり参加してこなかったラティーシャがついに自ら話題を振った。

 わずかに頬を膨らませた様子が絶妙に可愛らしく見える。


「もうっ、みんな。先ほどから当たり障りない話ばかり。本当はもっと気になっていることがあるでしょう?」


 ラティーシャがそう言うと、令嬢たちは揃ってウッと口ごもる。お互いに目配せをし合い、聞いていいものかどうか様子を窺っている。

 その雰囲気だけで大体の内容を察したレセリカは、持ち上げていたカップを置く。きっと彼女たちは口を開かないだろう。ここはラティーシャの本心を探るいい機会かもしれない、と口を開いた。


「何かしら?」


 小さく首を傾げてラティーシャを見ると、彼女はフワリと花が咲いたように笑った後、申し訳なさそうに眉尻を下げた。


「不躾な質問になってしまうのですけれど……」

「構わないわ。今日はお喋りを楽しむ日だもの。答えられないことなら、そう言うわ」


 不躾な質問、と聞いてレセリカは内心で身構える。やはりあの話題だとわかったからだ。

 もちろん表には出さない。スムーズに返事をしてみせたレセリカにラティーシャはわずかに驚きを見せたが、ではお言葉に甘えてと前置きを入れて口を開いた。


「殿下のことを、どう思っていらっしゃるのかなって」


 きゃあ、という令嬢たちの色めき立つ歓声が中庭に響く。どうやら、他の令嬢たちも気になっていたようだ。

 まだ子どもとはいえ、いや子どもだからこそ恋に夢見る乙女たちの好奇心は抑えられない。ラティーシャが切り出してくれたことで、他の令嬢たちもどうなのですか? と目をキラキラさせて聞く体勢をとっている。


 質問の内容は予想通りのものだ。お茶会ではよく聞かれることでもある。ダリアにも「これは絶対に聞かれると思います」と言われていたことだし、答えの用意も出来ていた。


 ただ、予想以上に令嬢たちが食いついたのでレセリカは一瞬だけたじろぐ。それからすぐに気を取り直して、これまで返してきた通りの返答を口にした。


「そうね。とても志が高くて、努力家でいらっしゃると思うわ」

「んもー、そういうことじゃありませんわよ、レセリカ様っ」


 しかし、ラティーシャからは不満げな答えが飛ぶ。レセリカの言葉にやや食い気味だ。


「レセリカ様が、殿下のことをどう思っているのかという話です。一人の殿方として! だって、婚約者なのでしょう? あんなに素敵な方ですもの。お心を寄せていらっしゃるのですか?」


 やけに必死である。これまでのどこか余裕のある無邪気な様子から一変して、とても真剣な雰囲気だ。

 しかし今のレセリカはそんなラティーシャの変化に気付かない。なぜなら、これまでされたことのない返しをされたことで少々動揺してしまったからである。


「こ、心を寄せて……!?」


 困ったような表情で頬を染めるレセリカ。恋など自分には無縁だと思っていたからか、そもそもセオフィラスをそういった対象として考えたことがなかったのだ。

 婚約者だとはわかってはいるものの、恋愛に結びついていない。わりと重症な鈍感さである。


「い、いえ。まだ、そんな風には見られていないわ。新緑の宴で初めてお会いしたのだもの」


 だからこそ、気恥ずかしいと感じるのだろう。目を逸らし、頬を赤くしながら小さな声で答えた。


 一方、令嬢たちは照れたように答えるレセリカの可愛さに心を射抜かれていた。普段とのギャップにときめいてしまったらしい。


「あんなに素敵なのに!?」


 ラティーシャだけは、信じられないといった様子で食い下がっている。ただ、その意見には同意しているようで、令嬢三人もうんうんと頷いていた。


「ええ、素敵だとは思っているわ。けれど、お互いのことをまだ知らないでしょう? 殿下とは少しずつ、互いに歩み寄っていきましょうとお話をさせていただいたわ。それだけよ」


 最後に誤魔化す様に紅茶を口にするレセリカに対し、ラティーシャは呆然としていた。他の令嬢たちはほうっ、と息を吐いてうっとりとした表情を浮かべている。


「ゆっくりと愛を育んでいくのですね……! ああ、素敵っ!」

「レセリカ様、ぜひまたお話を聞かせてくださいまし!」

「わ、私も! お二人の恋物語に興味がありますっ!」


 王太子と公爵令嬢。それも美男美女の素敵な恋物語が繰り広げられるのだという期待感が彼女たちの中で高まっているようだ。

 現実には物語のようにいくとは限らないし、前の人生でも恋には無縁で生きてきた。


 そのため、レセリカは向けられる期待の眼差しに居た堪れなさを感じるのだった。


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