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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
やり直しの始まり

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移動と侍女


 フロックハート家の領地に向かうには馬車で丸一日かかる。午後のお茶会に出席するためには行きと帰りに一泊ずつベッドフォード家の別荘に泊まる必要があった。

 自分の領地からほとんど出たことがないレセリカにとって、今回は初めての外泊だ。前の人生でも遠出は数えるほどだった。

 向かう場所が場所なだけに、純粋に楽しむことは出来ないが、レセリカは内心でほんの少しだけワクワクしている。


「姉上、やっぱり僕も付いて行きましょうか……?」

「いいえ、ロミオ。貴方にはやるべきことがあるでしょう? そんなに心配しなくても大丈夫よ」


 ちなみに、出かける前は弟がギリギリまで一緒に行こうとしてきたが、レセリカ専属の侍女兼護衛のダリアがいるからと説得することになったのは余談である。


 もちろん、あの風の少年も一緒である。ただ当然ながら彼の存在は、家族はもちろん使用人にも秘密なので共に行動は出来ない。

 というより、レセリカも彼が今どこにいるのか把握していなかった。


(移動中は一切姿を見なかったけれど……本当について来ているのかしら)


 むしろ不安になるくらいである。


「馬車ぁ? あー、オレはいいよ。大丈夫だって。ちゃんとすぐに目の前に出て来られる位置にずっといるからさー」


 心配して聞いてはみたものの、このように返されてしまってはそれ以上何も言えない。軽い口調とは裏腹に、絶対に馬車には乗らないという意思のようなものも感じた。よほど嫌だったのだろう。


(というより、最初から貴族を信用していない感じよね)


 貴族嫌いなのか、苦手意識があるのかもしれない。余計に無理強いは出来ないとレセリカは思っていた。


 とはいえ、本当にどうやってついて来ているのかは謎である。馬車のスピードに合わせて走っているとでもいうのだろうか。それも、御者や護衛に見つからないように?

 無理ではないかと思うのだが、考えても答えは出てこない。レセリカは思考を放棄した。


 別荘で一泊して朝早くに出発し、もうすぐフロックハート家に着くという頃。いつの間にか外は広大な畑が広がる景色となっていた。

 どこまでも広がるその景色に、レセリカは息を呑む。フロックハート領は農業が有名だとは聞いていたが、実際に目にするとまた違う。


(作物を育てるのは大変だと聞いているけど、一度体験してみたいものだわ)


 レセリカの目が僅かに輝いている。勉強のためというより好奇心が疼くのだろう。

 ただ惜しむらくは、この領地の主とあまり友好的な関係を築けなさそうなところである。小さくため息を吐き、レセリカは馬車の背もたれに寄りかかった。


「レセリカ様、もう少しで着きますよ。昨日から移動ばかりでお疲れではありませんか?」

「大丈夫よ、ダリア。貴女こそ大丈夫?」

「ええ! ダリアは丈夫なことが取り柄ですから!」


 明るく笑うダリアの笑みにレセリカはホッと肩の力を抜いた。

 ニコニコしていることの多い彼女はレセリカにとって母親のような存在だ。年齢はまだ十代後半であり、母というには若すぎるのだが。彼女の仕事ぶりは素晴らしく、いつだって優しくて温かい。


 あまり表情の変わらない不愛想なレセリカ相手でも嫌な顔一つせず、むしろ気持ちを汲み取って先回りしてくれる。おそらく、誰よりもレセリカのことを理解してくれており、一番の味方であると断言出来た。


(お父様やロミオもそうだけれど……でも、ダリアは別ね)


 今回の付き添いだって、ダリアが一緒だからこそ許されたようなものだった。そうでなければまだ子どものレセリカを評判もよくわからない伯爵家へお茶会になど向かわせられなかっただろう。

 ただ、彼女については不思議も多い。ファミリーネームを聞いても自分はただのダリアだと言って教えてはくれないし、レセリカの護衛も担うほど戦うことに慣れている。


 考えれば考えるほど訳ありである。前の人生ではあまり疑問に思うこともなかったけれど、今ならそのスペックの高さに疑問も持ってしまう。

 けれど、レセリカは詮索する気などなかった。他ならぬダリアが何も言おうとはしないのだ。ならばそれでいいと思っていた。

 ダリアはダリアだし、何があっても味方でいてくれる家族。そう、本当の家族だと思っているのだから。


(いつか秘密を明かされる時が来たのなら、どんな事情があったとしてもそれを受け止めるだけだわ)


 自分と一緒に処刑されるつもりだったダリア。最期までレセリカは悪くないと声を張り上げてくれた。レセリカはあの恩を絶対に忘れないと誓っている。

 だからこそ、たとえダリアの過去があまり人には言えないようなものだったとしても、今目の前にいる彼女だけを信じていつまでも味方でいようと思っているのだ。


「どうかしましたか? レセリカ様」

「……いいえ。ダリアの笑顔は見ていて安心するなって、そう思っただけよ」

「えっ、笑顔、ですか? ちょ、ちょっと照れますね……!」


 恥ずかしそうに笑ってお礼を言う彼女を見ていたら、そんなに酷い過去なんてなさそうにも思えるのだが。

 人生は何が起こるかわからない。真面目に王太子妃になる勉強をしていただけなのに、処刑されたりもするのだから。


 お屋敷が見えてきました、というダリアの声でレセリカは窓の外を見る。広大な畑の所々に民家が見え、小さな町が広がっていた。風がフワリと運んでくる土と緑の香りがレセリカの鼻腔をくすぐる。


 その町の小高い丘の上にお屋敷はあった。淡いピンク色の屋根が可愛らしく、令嬢ラティーシャのふんわりとした髪を想起させる。


 レセリカは戦地へ赴くような覚悟を決め、表情を引き締めるのだった。


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