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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
未来の始まり

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ある公爵令嬢の話を


 ダリアがついてこないとはいえ、護衛がいないわけではない。ヒューイはいつも通り姿を隠してついてきてくれるし、セオフィラスには当然ながらジェイルとフィンレイが来てくれるだろう。

 その他にも、町の人に紛れて騎士たちが所々に配置されているはずだ。立場を思えばそれも当然のことである。


(でも、告白をする時は人払いをお願いしないとね。あまり聞かれては良くないし……何より、恥ずかしいもの)


 ダリアのおかげで少し落ち着いたとはいえ、どうしてもそのことを思うと動悸がしてしまう。

 レセリカは移動中に火照った頬を両手で覆った。少し熱い。待ち合わせ場所につく前には落ち着けたいところだ。


「レセリカ!」


 待ち合わせ場所には、すでにセオフィラスが待っていた。レセリカの姿を見つけると嬉しそうに破顔し、名前を呼んでくれる。


 最後に会った時よりも背がかなり伸びたように見える。声ももう一段階低くなっただろうか。その変化がどうにもくすぐったい。


「セオ、待たせてしまいましたか?」

「いいや。私が早く来すぎたんだよ。レセリカだって、約束の時間より早く来てくれたね」


 よくあるやり取りだというのに、なぜだかちゃんと顔を見られない。久しぶりだからか、セオフィラスが成長したからか。

 レセリカはそっと目を逸らしつつも、思ったことを正直に伝えた。


「は、早く、お会いしたかったので……」

「レセリカ……」


 セオフィラスの顔が一瞬で赤く染まる。ただ、俯いてしまっているレセリカはそれに気付けずにいた。


 セオフィラスは愛おしそうにレセリカを見つめたまま彼女の頬に手を伸ばす。そっと頬に触れた指先に驚いたレセリカはパッと顔を上げた。


「あまり可愛いことを言われると困るよ。このまま城に連れ帰りたくなってしまう」

「っ!」


 今度はレセリカの顔がボッと赤くなってしまった。まるで顔に火が点いたかのように熱い。

 これから出かけるというのに先が思いやられる。しかも、今日は思いを告げようと思っているのにこのままではよろしくない。


 レセリカはどうにか呼吸を整え、冷静を装いながら話を少し逸らした。


「セ、セオは、また背が伸びましたね。私も大きくなったと思ったのですけれど」

「ああ、少し前に急に伸びたんだよ。私は他の者より成長期が遅くにきたみたいで」


 少し前はぐんぐん背が伸びてきているロミオよりも低かったと思ったのだが、今は抜かしているように思える。見上げた首の角度からレセリカはそう予想した。


(急に男性らしくなって……どうしよう、ドキドキしてしまうわ)


 ロミオの変化には素直に成長を喜べたというのに、セオフィラスが相手だとそうもいかない。

 恋とは、本当に心をかき乱すものらしい。レセリカは必死で素数を数えた。父にそっくりである。


「じゃあ行こうか」

「……はい」


 そっと差し出してくれた手に自身の手を乗せ、レセリカはエスコートされながら馬車に乗り込んだ。

 向かい側にセオフィラスが座り、ドアが閉められる。内部は二人きりだ。


(初めて植物園に行った時を思い出すわね)


 こうしたお出かけは久しぶりだが、あの時以来、というわけではない。それなのに、なぜだかあの日を思い出すのが不思議だ。

 レセリカがそう懐かしんでいると、セオフィラスも同じことを思っていたらしい、クスッと笑って口を開いた。


「初めて出かけた時を思い出すな」

「あ……今、私も同じことを思っていました」

「そうなの? ふふ、気が合うね。でもどうしてだろう。こうして出かけるのは二度目ってわけでもないのにね」


 あの時と今の共通点はなんだろう、とレセリカは考える。すると、一つの可能性が思い浮かんだ。


「緊張、しているからかも」

「え?」


 どうやら声に出していたらしい。レセリカは慌てて口を押えた。


(……でも、話すなら今がチャンスかもしれないわ)


 馬車の外に出たら、二人きりでいられる時間はほとんど取れないだろう。それなら、話すのは移動中が一番いい。

 そのことに気付いたレセリカの心拍数は一気に上昇する。話そうと決めてはいたが、ここまで急にそのチャンスが訪れるとは。


 ドクドクと破裂せんばかりに心臓が鳴る。けれど、きっと一瞬だ。話し始めてしまえばきっと、心も落ち着く。


 ダリアに勇気づけられた言葉を思い出しながら、レセリカは姿勢を正した。


「……今日は、セオに聞いてもらいたい話が、あって」

「! ……うん」

「他の人には、聞かれたくなくて。その、信じてもらえるかもわからないのですが」


 たどたどしい言葉遣いに、震える声。それを察せないセオフィラスではない。

 レセリカ、と優しく声をかけたセオフィラスは、ふわりと優しい微笑みを浮かべていた。


「大丈夫。絶対に、信じるから」


 真っ直ぐ見つめてくる空色の瞳はどこまでも誠実で、レセリカの緊張した心を解してくれる。

 レセリカはほぅと安堵の息を吐くと、肩の力を抜いて話し始めた。


 かつて冷徹令嬢と呼ばれ、人々に信じてもらえず処刑された哀れな公爵令嬢の話を。

 そして、やり直すチャンスを与えられ、今度は後悔しない生き方をした公爵令嬢の話を。

 大好きな人を無事に守れて、とても幸せな公爵令嬢の話を。


 その公爵令嬢が、もうずっとセオフィラスに恋をしているのだという話を。


新年あけましておめでとうございます。

冷徹令嬢は次で最終回になります。

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