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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
未来の始まり

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動機と絶望

先週、うっかり公開しちゃっていたお話です。

ほんの1時間ほどの公開でしたがいいねしてくれていた方ありがとう、そしてごめんなさい!!!

失敗、失敗!!


 冷静に状況を整理した時から、レセリカは犯人の目星がついていた。ついてしまっていたのだ。


 どうしても信じたくはなかった。

 けれど考えれば考えるほど、そうとしか思えない結論が出るのだ。


 ただ、動機がわからない。


 キャロルは学園で出来た初めての友達で、今は親友といってもいい仲だ。


 信用していた。今も信用している。


 何より、レセリカを毒から救う協力をしてくれたのも他ならぬキャロルなのだから。


 レセリカは真っ直ぐキャロルを見つめながら問いかけ、彼女から否定の言葉が出てくるのを待った。


「……私は、レセリカ様の解毒薬を作るお手伝いをしたのですよ?」

「そうね。感謝しているわ。本当よ」


 キャロルの表情が読めない。あまりにも普段通りだからだ。


 だがそれが余計に、不気味だった。


 普通、信頼している人から犯人扱いされればもっと動揺するだろうに、キャロルはいたって変わらない。


 キャロルは相変わらずリラックスした状態で言葉を続けた。


「私が解毒薬を作ったのは、レセリカ様に生きていてほしいからです」

「……ええ。ありがとう」


 そこに嘘は感じられない。キャロルは本当にレセリカのことを思っているのだろう。これだけは信じられた。


 けれど、妙に胸騒ぎがする。

 レセリカはキャロルから視線を外すことなくジッと見つめ続けた。


「だって、まさかレセリカ様が毒を吸い込むなんて思わないじゃないですか」

「え……」


 それは、あまりにも「普通」だった。

 いつも通りだった。


 キャロルはレセリカの質問を、否定しなかったのだ。


 そういえば先ほどもキャロルは言っていた。

 『まさか、レセリカ様が毒を吸うなんて』『とても驚いた』と。


 つまりキャロルはただ言葉通り、レセリカが毒を吸うことになると思っていなかったのだろう。


 では誰を狙ったのか? 決まっている。


「……殿下を、狙ったの……?」


 否定してほしい。レセリカは今更だが心の中で祈った。


 しかし、その祈りは届かない。


「はい!」


 キャロルはいつもの明るい笑顔で肯定した。

 レセリカはもちろん、ポーラも絶句している。


「殿下に恨みはないです。とても素敵な方ですし、いずれ国王になられたら、きっと素晴らしい治世になるだろうと思っていますよ」

「それなら、なぜ……?」


 まったく理解が出来ない。レセリカは動揺を努めて悟られないように問いかけたが、どうしても声が震えてしまう。


 信じたくなかった推測は、今ここで真実になったのだ。


「私だって殿下には出来れば死んでほしくないです。でも、それくらいしか思いつかなくて……」

「な、何を……?」


 キャロルの目的がわからない。いわゆる動機が。


 恐る恐る訊ねはしたが、聞きたくない気持ちがレセリカを襲う。

 震えを抑えるように両手を抱き込み、胸の前で握りしめた。


「レセリカ様が、絶望した顔を浮かべる方法ですよ!」


 ドクン、と心臓が嫌な音を立てる。


 フラッとよろけたレセリカの身体は、ポーラが咄嗟に支えてくれた。

 しかし、肩を抱くポーラの手も小刻みに震えているのがわかる。


(ポーラだって突然のことに動揺しているのだわ。私が、しっかりしなくちゃ……!)


 レセリカは両足に力を込め、背筋を伸ばして立った。


「私、好きになった人には色んな顔を見せてもらいたいんです。レセリカ様の笑顔や、照れた顔や、幸せそうなお顔はたくさん見させていただきました。悲しそうなお顔も、少し怒ったお顔も。でも……絶望ってあんまりしないじゃないですか」


 ふと、思い出す。

 あれは、かなり昔のことだ。

 みんなでお茶会を楽しみながら恋愛話で盛り上がっていた時、キャロルはギャップが良いと語った。


『ちなみに私は、普段幸せそうにしている方が悲しいお顔を浮かべているのを見てみたいって思いますね』


 好きな人の顔は、全部見たいと。

 悲しそうな相手を、助けてあげたくなるのだ、と。


「今回の件は大失敗だったな、と残念に思っていたのですが……レセリカ様の苦しむお顔は見られました。それに、そんなレセリカ様を私の手で助けることが出来て私は満足ですよ!」


 レセリカが毒を吸い込むことは想定外だったようだが、結果としてキャロルはその状況を作り出すことに成功した。


(だからキャロルは、こんなにも喜んでいるというの……?)


 何もかもが理解出来ない。

 キャロルは、毒を仕込んだことについて一切悪いと思っていないのだ。


 ただ純粋に、レセリカの色んな顔が見たいだけ。

 それはどこまでも無邪気で、純粋で、残酷な感情でしかなかった。


「ご家族を狙うことも考えたのですよ? ロミオ様は狙いやすいですし。けれど、最近のレセリカ様を見ていたら殿下が最も効果的かなって」


 家族も狙われていたことに、レセリカの身体はますます震える。


 考えないわけではなかったが、王太子であるセオフィラスの身の安全を気にするあまり、少々失念していた自覚はあった。


 それだけに、ロミオが無事で本当に良かったと心から思う。

 キャロルのほんの少しの気まぐれで、大事な弟が死んでいたかもしれないのは本当に恐ろしいことだった。


「最愛の人であり、王太子が死んだらきっと絶望してくださると思っていたのですけれど……失敗しちゃいましたね。犯人の濡れ衣も着せられたら最高のシチュエーションだったのに。本当に残念です」


 ちょっとしたゲームで負けたかのような軽さ。

 キャロルは人差し指で頬を掻きながら、今度は恍惚とした表情を浮かべた。


「でも、死にそうなレセリカ様のお顔も素敵でした。辛そうなお顔をしていても、とてもお美しくて……きっと絶望の顔も変わらず美しいのでしょうね。見たかったです」


 酷く残念そうに、眉尻を下げて微笑むキャロルの表情はよく見る姿のはずなのに、今は全く違って見える。


「なんで、そんな……助けてくれたじゃない。それなのに、私が苦しむ姿が見たかったというの?」


 恐ろしくて仕方なかった。

 こうしてキャロルに確認する直前まで、何があっても彼女の親友でいたいと思っていたのに。


 こうも簡単に、彼女への思いが崩れてしまうのかと愕然としてしまう。

 それほど、キャロルのことが理解出来ず、一切の共感が出来ない。


 今、キャロルに対する感情はただただ「恐怖」しかなかった。


「そりゃあ……絶望したお顔を見る前に死んでしまったら、もう一生見られないじゃないですか。でも、それさえ確認出来たら次は死に顔を見たいなって思ってます」


 あまりのことに理解が追い付かず、ポーラも呆然としたまま脱力してしまっている。


 レセリカもついに立っていられなくなり、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。


 今のレセリカが浮かべる表情は、キャロルが望む「絶望」そのものだった。


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― 新着の感想 ―
ひ、ひえー。゜(`ω´)゜。こわいよー!ちゃんと伏線はられてたー!
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