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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
未来の始まり

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調査報告と犯人


「さっきの話に戻すけど。オレ、アクエルに会ってきたんだよ」

「えっ」


 ヒューイの爆弾発言に、レセリカだけでなくオージアスもロミオも驚きの声を上げた。


「毒のことは毒のプロに聞くのが一番だろ」

「で、でも対価は」

「もちろん支払った。レセリカがいつも使い道のない報酬をくれてただろ? いくら断っても無理矢理オレに支払い続けてたやつ。それを使わせてもらった」


 知らない間にアクエルと接触していただけではなく、支払いまで済ませていたことにレセリカは愕然とした。


 水の一族への依頼はかなり高額になったはずだ。

 ヒューイが出したというなら、これまでレセリカが払った金額を全て使うくらい必要だっただろう。


「こちらで払うわ!」

「なんでだよ。生活に必要な物は全て用意してくれてんだろ? 食事だっていっつも豪華だし。オレにそれ以上はいらねーの! やっと手離すことが出来てホッとしてるくらいなんだ。もう支払うなよ」

「でも」

「あー、もー。じゃあ、必要な時はありがたくもらう! これ以上は引き下がらないからなっ」


 報酬をもらいすぎで文句を言われるとは。

 そもそも、ベッドフォード家で雇っている他の者よりも、ヒューイに渡す金額は少なかったというのに。

 それだって、嫌がるのを説き伏せてどうにか渡していたのだ。


 ただ、ヒューイにとっては「主人を守るのは生活の一部」という感覚なので、生活しているだけでお金が貰えるということに納得がいかないのだろう。

 要するに価値観の違いである。


「それはいいから、話の続きを聞けって。その毒についての情報が、犯人特定の手掛かりになるんじゃねーかって思ってるんだよ」


 ひとまず報酬の件は保留である。

 レセリカも頭を切り替えて真剣に頷いた。


「オレにはわかんねぇけど。レセリカやそこの二人ならなんかわかるんじゃねぇかと思ってさ」

「……聞かせてもらうわ」


 せっかく対価まで支払って情報を得てきてくれたのだ。絶対に無駄にしたくない。

 レセリカは気合いを入れ直す。


「今回、香水に仕込まれた毒は少し特殊なものらしい。アクエルの一族ですら知っている者と知らない者がいるって」

「毒のプロが知らない、ってこと?」

「あの男は知っていたみたいだけどな。んで、これを使うのは基本的に犯人がアリバイを作る時に使うそうだ」


 あの男とは当然シィのことだろう。

 据わった目でそう告げるヒューイに、レセリカやオージアス、ロミオも同じようにスッと感情が消える。


 やはりダリアは嵌められたのだ。

 もちろん、犯人がダリアを嵌めようと思ったかはわからない。

 もしかしたらそれはレセリカだったかもしれないし、他の誰かだった可能性もある。


 いずれにせよ犯人は、自分ではない誰かに罪をなすりつけようとしたということだ。


「毒としての効果が発揮されるのに、精製してから数十日単位で時間がかかるんだとよ」

「つまり、毒を仕込んだその時点ではまだ毒ではなかったということですね? 姉上が香水を手に入れた時にはすでに仕込まれていた可能性が高いですね……」


 だとすると、香水を買った店に問題があるのではないか。

 しかし、レセリカの購入した香水と同じものはたくさんの客に売られており、すでに世の中に出回っているが特に事件は起きていない。


「私が買ったものにだけ仕込まれていたか、購入後に仕込まれたか、ということね」

「それなんだけど……もう一つ、アクエルから教えてもらったことがあって」


 ヒューイの話を聞き、レセリカは次第にその表情を曇らせていく。


(まさか……でも、感情に流されては、ダメ……)


 確証はない。

 だが、状況から考えた時に犯人の心当たりが一人、浮かび上がってしまったのだ。


「姉上? どうされましたか? あっ、もしかしてご気分が優れないのですか!?」


 一人黙って考え込んでしまったことで、ロミオが心配の声を上げる。

 事実、体調は万全ではないし、人の悪意を想像してしまって気分は優れない。


 だがここで倒れている場合ではないのだ。

 ちっとも落ち着ける状態ではなく、混乱しっぱなしだが犯人を許すわけにはいかないのだから。


「考えごとをしていただけよ。……ちょっと、犯人の動機がわからなくて」

「えっ、それって……目星がついているということですか? だ、誰なのですか、姉上をこんな目に遭わせたのはっ!」


 ロミオだけでなく、オージアスもヒューイも身を乗り出してきたので、レセリカは僅かにたじろいだ。


 まだハッキリとしない段階なので言うべきか迷ったが、一人で抱え込むのはもうやめたレセリカは、意を決してある人物の名を口にした。


「えっ、でもそれって……」


 戸惑うように声を上げたのはロミオだ。レセリカだって、同じ気持ちである。


「言いたいことはわかるわ。でも……冷静に考えたら、それしか考えられなくて」


 そう言いながら俯くレセリカに、誰もが押し黙った。

 おそらく、誰もがレセリカの意見に納得してしまったからだろう。


「だから、動機を探りたいと思うの。もし違ったら本当に申し訳ないことになるのだけれど……ヒューイ。探ってきてもらえないかしら」

「い、いいのか?」

「証拠もないのに、無実かもしれない人のことを探るのは良くないわ。でも、もし無実ならそれも証明になる……と、言い聞かせているだけかしらね」


 暗く沈んだ表情を浮かべるレセリカに対し、ヒューイは力強く頷いた。


「必要だと思うぜ。もし本当にそいつが犯人だったら、今後の安全にもつながるんだ。攻撃しに行くわけでもねーんだし、あんまり気にしすぎんなよ。王太子妃としては優しすぎるくらいなんじゃねーの?」

「ウィンドの言う通りですよ、姉上! 情報を得るために手を尽くすのは、上に立つ者として当然です」

「ありがとう、二人とも。そうね、しっかりしないと」


 心身ともに誰も傷付かない方法などないのだ。すでにレセリカも倒れたし、色んな人の心が傷ついている。


 疑わしいというだけでダリアも捕まってしまったことを考えれば、無実の仲間を助けるためにも甘い考えは捨てなければならない。


 レセリカは再び顔を上げると、今度はまっすぐオージアスを見つめた。


「お父様。香水に含まれていた毒の性質について陛下に報告をしていただけませんか。そうしたらダリアも……」

「ああ、容疑者の一人として残ることも考えられるが……その毒を使っている以上、自分が疑われるような仕込み方はすまいと判断されるだろう。少なくとも待遇は改善されるはずだ」

「お願いいたします、お父様」


 最初から、ダリアが犯人ではないだろうことはみなが思っていたことだ。

 それに、他ならぬオージアスが申し出てくれるというのはこれ以上ないほど頼もしい。


 すぐに釈放されないにしても、ダリアの置かれた状況が少しでも改善されるなら今はそれでよかった。


「じゃ、オレは早速行ってくる。ロミオ、レセリカを守れよ」

「当然です。この命にかえてもお守りしますよ」


 二人の会話に慌てたのはレセリカだ。ギョッとしてすぐ口を挟む。


「命にかえてはダメよ! 貴方は次期ベッドフォード家当主になるのよ?」

「言葉の綾というものですよ、姉上。騎士もたくさんいますし、大丈夫ですよ」


 クスクスと笑うロミオに、レセリカはホッと肩の力を抜く。

 だが、もしもの時は本当に身を挺して守って来そうで不安は残る。


「それに、もうじき殿下も護衛を引き連れてお見舞いにくるのではないでしょうか。気が気ではなかったようですし、姉上が目覚めたことも耳に入っているはずです」


 ロミオの言葉に、レセリカの頬がほんのりと赤く染まる。

 セオフィラスに会えるのは素直に嬉しいが、今はゆっくり休めるよう寝巻きのままだ。

 こんな姿を見られるのは少し恥ずかしかった。


「ご安心ください! 扉越しにお話ししてもらいますから、お姿を見られる心配はありませんよ!」


 レセリカの心情を察したらしいロミオが胸を張ってそう言ってくれたが、それがありがたいような残念なような、複雑な気持ちになるレセリカであった。


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