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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
未来の始まり

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憤りと事件の確認


 セオフィラスは、まるで魂が抜け落ちたかのような状態で座っていた。


 目の前には青白い顔で眠っている婚約者がいる。

 その弱々しい姿を見る度に涙が込み上げてきそうになるのだ。


 セオフィラスは今日卒業式を終え、夕方からの記念パーティーを心待ちにしていた。

 やっと愛しい婚約者と会えるからだ。


 パートナーとして着飾ったレセリカはさぞ美しいだろう。新緑の宴の時以来のダンスも楽しみだった。


 それなのに。


 婚約者は、レセリカは倒れてしまった。

 何者かが仕込んだらしい毒によって。


 否が応でも幼い日のあの事件を思い出す。

 大好きだった姉が毒入りの焼き菓子を食べたせいで亡くなってしまった、忌々しい記憶を。


「どうしてまた毒なんだ……!」


 ギュッと拳を握りしめる。

 油断していると涙が滲んでしまうのを、奥歯を噛みしめることでなんとか耐えた。


 レセリカは生きている。


 吸い込んだ毒の量が少なかったこと、すぐに風の少年が換気をして毒の香水を密閉したこと。

 そして、レセリカの親友の証言のおかげですぐに毒を特定し、解毒剤を処方出来たこと。


 これらのおかげで、レセリカは命を繋ぎ止めた。

 あとは目覚めるのを待ち、後遺症などがないかを確認しなければならない。


 もし後遺症があったら……立場上、王太子妃として迎えるのが難しくなってしまうかもしれない。

 そうなったとしても、セオフィラスは絶対にレセリカを手放す気はなかった。


「セオフィラス。そろそろ……」

「……ああ」


 個室のドアが小さく開き、外からジェイルが声をかけてくる。

 セオフィラスは緩慢な動きでゆっくりとイスから立ち上がった。


「また来るよ、レセリカ」


 最後に返事のない愛しい彼女に微笑みかけ、セオフィラスはどうにか心を切り替える。

 ドアの方に向き直ると、レセリカの侍女であるダリアとヒューイが真顔で立っていた。


 彼女を守る二人にとって、今回のことは我慢ならないほど怒りに燃えていることだろう。

 そんな中、婚約者である自分と二人きりの時間を取ってくれたことをセオフィラスは心から感謝したいと思っていた。


 出来ることなら、セオフィラス相手といえど誰とも二人きりにはしたくなかっただろうに。


「殿下、姉上のことは僕が見ていますから。学園の保健医は優秀ですし、恐らくここから動くことはないでしょう。父も夜中には着くかと」


 従者二人とともに来ていたロミオが真剣な表情で淡々と告げた。

 彼もまた、あらゆる感情を飲み込んで冷静に対応しているのがわかる。


「そうだね。王宮からも医師を派遣したから。常に容態を見てもらえるよう話をつけておくよ」

「ありがとうございます……」


 セオフィラスの配慮に深々と頭を下げるロミオを見て軽く頷くと、セオフィラスは従者二人に向き直る。


「じゃあ、別室で話を聞こうか」


 ダリアとヒューイの二人は真っ直ぐこちらの目を見つめてきた。

 それを了承と受け取ったセオフィラスは、二人の隣を堂々と通り過ぎて別室に向かった。


 自分が先頭を歩き、そのすぐ後ろにジェイルとフィンレイが続く。

 さらに後ろからダリアとヒューイがついて来ているのが気配でわかった。


 それぞれが無言で歩を進め、部屋に到着してドアを閉めたところでようやくセオフィラスが口を開いた。


「……毒入りの香水だったね?」

「……ああ」


 すでに簡単な説明は聞いている。


 店でも一度、自室に持ち帰った後も念入りにレセリカとダリアとヒューイは香水に問題がなかったことを確認している。


 それからずっと香水はレセリカの寮室にある鏡台の引き出しにしまってあった。


 だというのに今日、セオフィラスに贈る前に今一度香りを確かめたところ……揮発した毒の成分がレセリカを襲ったのだ。


「ウィンジェイドは毒に耐性があるんだよね? ダリアはよく無事だったね」

「……私にも、耐性がありますから」


 セオフィラスは、半ば想像がついていた。

 ずっとこの侍女が優秀過ぎると思っていたのだ。

 レセリカやベッドフォード家を信じているからこそ、あえてなにも聞かずに今日まできた。


 しかしこうなってしまっては確認せざるを得ない。


「この際だからハッキリさせよう。ダリア、君は只者ではないよね」


 今ここで隠しごとをするのは互いにとって、いやダリアにとって良くない。

 確信を持ってそう問いかけると、ダリアもまた聞かれることを予想していたのかすぐに頷く。


「はい。私は元レッドグレーブです。レセリカ様がお生まれになる数年前に一族を逃げ出し、ベッドフォード家で働かせていただいております」


 薄々わかってはいたものの、本人の口からハッキリ語られると、やはりなんとも言えない気持ちになる。


(しかも、よりによって暗殺一族とも呼ばれる火の一族だったとはね。これは……よくない流れだ)


 つい最近、闘技大会で問題を起こしたのも火の一族だったため、ダリアの心証はどんどん悪くなってしまう。


「レセリカへの対応が迅速だったのも、君たち二人だったからこそかもしれないね」


 実際その通りだった。

 もし側にいたのが普通の従者だったら対応が遅れていた可能性が高い。


 そもそも、なぜ倒れたのかもわからなかっただろうし、三人とも毒で倒れて助からなかったということもあり得た。


 だが。


「香水に毒は入っていなかった。それなのに今日は入っていた。誰かが後から仕込んだということですよね?」


 セオフィラスが言い淀む気配を察知したのだろう、言葉を引き継ぐようにフィンレイが容赦なく問い詰めていく。


「学園のセキュリティは万全ですからね。レセリカ様の寮室には誰も立ち入れなかったはず。特にウィンジェイドの彼がいるのです。何人たりとも侵入者は許さない、でしょう?」

「当然だろ」


 フィンレイの問いかけに、ヒューイもすぐさま言葉を返す。

 返事を聞いて頷いたフィンレイは、特に口を挟む様子を見せないセオフィラスを一度横目で見てから再び口を開いた。


「それなら誰が毒を仕込めるでしょうか。レセリカ様の部屋に立ち入れるのは侍女とウィンジェイドだけ。主従関係を契約で結んでいるウィンジェイドには出来ません。……ダリアさん」


 ファンレイは、睨みつけるようにダリアを見た。


「貴女しかいないですよね?」


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