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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
未来の始まり

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恋する貴方を思いながら


 いざプレゼントを渡そうを決めた時に限って、思うようにいかないものだ。


 あれから、レセリカはセオフィラスとすれ違う日々を過ごしていた。

 互いの従者を通じて簡単な伝言のやり取りは出来るのだが、いかんせん会う時間がまったく取れていない。

 そうはいっても、顔を見るくらいはしている。落ち着いて話す時間が取れないのだ。


「本当にごめんね。せっかくレセリカが卒業を祝ってくれるというのに、歯痒いよ」

「いえ、忙しいのはお互い様ですから……。その、お祝いが卒業後になってしまうのが申し訳ないのですけれど」

「それは構わないよ! ただ……それまでレセリカとの時間を過ごせないというのが何より辛いな」


 それだけでなく、次はレセリカが卒業するまでほとんど会えなくなる一年を過ごすのかと思うと余計に憂鬱だとセオフィラスは大きなため息を吐いた。


「で、ですが、私が卒業した後はずっと一緒に……あっ」


 婚約者として王城や王宮で過ごすことが増えるだろうことを言いたかったのだが、言っていてなんだか恥ずかしくなったレセリカは顔を真っ赤にしてしまう。


 そんなレセリカを愛おしそうに見つめたセオフィラスは、ふわりと微笑んだ。


「……そうだね。レセリカが卒業したらずっと一緒にいられる」

「は、はい……」

「それに、卒業記念パーティーではパートナーになってくれるでしょう? パーティーの後に、少し二人で話す時間を作ろう。その時にお祝いしてもらえる?」

「はい!」


 その日が楽しみで思わず笑顔で顔を上げると、優しい眼差しのセオフィラスと目が合う。


 たったそれだけのことなのに、レセリカは顔が熱くなった。

 きっとセオフィラスにも顔が赤くなっていることがバレバレになっていることだろう。


 最近は昔に比べて表情を取り繕うことが出来なくなってきている。セオフィラスの前だと特にだ。


(やっぱり……恋を、しているからなのかしら)


 それを抜きにしてもレセリカはかなり表情豊かになってきているのだが、恋する相手には特に弱いのも事実だった。


 真っ赤になったレセリカを前に、セオフィラスは名残惜しそうに目を細めると再び口を開いた。


「そろそろ行かないと。こうしてほんの少し立ち話をすることしか出来ないけれど……また見かけたら声をかけてもいいかな?」

「! は、はい! あの、私も声をおかけしていいですか?」

「もちろん!」


 見つめ合う二人はどこからどう見ても思い合っているのだが、まだレセリカからは思いを告げていない状態だ。


 もはや言わずともわかるのだが、レセリカは運命のあの日が終わったら告げると決めているし、セオフィラスは根気強く待ってくれている。


 ハッキリと言葉にして気持ちが通じ合うのは、あと少しだけおあずけだった。


 ※


 慌ただしく時間が過ぎ、あっという間に卒業式の日となった。


 この日は午前中に卒業生だけで式典を行い、夕方から記念パーティーが校内のホールで行われる予定だ。


 在校生は卒業生のパートナーとなった場合のみ参加することが出来る。

 セオフィラスのパートナーであるレセリカは、午後から身支度で忙しくなるというわけだ。


「人の多いところにはあまり行かないでもらいたいけど、そうも言ってらんねーもんな」

「キリがありませんからね。今後、レセリカ様もご卒業されたら人前に出ることも増えますし。なんですか? 弱音ですか?」

「違ぇし! 絶対に守るし!!」


 ダリアの手でヘアセットをしてもらいながら、いつもの従者二人の言い合いを聞く。

 だが実際、ヒューイの心配もわかるというものだ。ダリアの言い分もわかる。


「……悪いことを考える人がいなければいいのだけれど」


 結局のところはこれである。

 ポツリと告げたレセリカの声には諦めの色が混ざっていた。


 悪いことを考える人がいなければ世の中は平和だ。

 しかしそんな綺麗ごとは言っても仕方のないことである。


「人ってのはどんな生き物よりも貪欲だからなー。今ある幸せで満足出来ずにさらに欲しがるヤツってのはいなくならねぇさ」

「それはわかっているけれど……人に迷惑をかけるってわからないものかしら?」

「本気でわからないか、わかってても求めるかだろうな。後者はただの悪人だけど、前者はタチが悪い。下手したら良かれと思ってやってる可能性があるし」


 良かれと思って悪事を? と首を傾げかけたレセリカだったが、悪事と思っていないことはある、と思い直す。

 たとえばそれが正義のためだと信じていた場合。

 戦争の只中であれば殺人が賞賛されるのがいい例だ。


「世の中にはさ、相手が大切すぎて他の誰の目にも触れさせないように監禁するヤツとか、場合によっては殺すようなやべぇヤツもいるんだ。そういうヤツらは揃いも揃って、相手のためだってのたまうんだよ」


 ゾワッと背筋に悪寒が走る。

 まったくもって理解出来ない考えだが、世間を良く知るヒューイがそう言うのなら実際にいるのだろう。それがまた余計に怖かった。


「ウィンジェイド。これからパーティーだというのにレセリカ様を怖がらせるようなことを言わないでください。刺しますよ?」

「お前の方がよっぽど怖ぇよ!」


 確かに、パーティー前にする話ではなかった。だが、危機感は持てということなのだろう。

 レセリカは今の話を頭の片隅で覚えておくことにした。


「そうだわ、これを忘れないようにしないと」


 全ての準備を終えて控室に移動する前に、レセリカは引き出しに手をかけた。

 忘れてはならない、セオフィラスへのプレゼントだ。


 香水を箱にしまって小さな袋に入れれば、あとは渡すだけ。

 それだけなのになんだか緊張してしまう。


「……少しだけ」


 贈る前にもう一度、香りを確かめたくなった。

 蓋を少しだけ開けて鼻を寄せるだけだ。使うわけではない。


 中身を溢してしまわないよう、そっと蓋を開けた時、レセリカはわずかに違和感を覚えた。


(こんな香りだったかしら……?)


 爽やかな良い香りは確かにある。

 だがその中に以前は混ざっていなかったと記憶しているスパイシーな香りを感じたのだ。


「っ、待て、レセリカ! それ……なんか変だ!」


 鼻が良いのだろう、離れた位置にいたヒューイが香りの異変を察知した。確かに変だが、妙に慌てている。


 バッとこちらに手を伸ばして駆け寄るヒューイに、そんなに勢いよくこちらへ来たら香水を落としてしまうとレセリカは思った。


 そう、口に出したはずなのだ。


「うっ、……あ、ぁ」


 体の奥から熱い何かを感じて、レセリカは声を出せなかった。


 気付けばレセリカの手には血が付いており、それが自分の吐いた血だと気付くのに時間がかかった。


(何、が……?)


 苦しい。息が出来ない。

 ぐらりと身体が傾いたのを、ヒューイが慌てて抱き止める。


「窓を開けろ! 香水に近付くなよ!!」


 荒々しい声と風を朦朧とした意識の中で感じたレセリカは、その記憶を最後に意識を失った。


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