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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
未来の始まり

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母娘と謝罪


 ラティーシャが泣き腫らした目で帰って来た日、フロックハート家は大騒ぎであった。


 予定にない帰宅、大泣きしたらしい愛する娘。

 一体何があったのかと両親が心配になるのも当然である。特に娘を溺愛する父の狼狽えぶりは酷かった。


「い、一体誰に泣かされたというのだ! 言ってみなさいラティーシャ! お父様がなんでもして……」

「落ち着いてくださいまし、あなた。まずは話を聞くことからでしょう」

「あ、ああ……そう、だな」


 彼を宥めてくれたのは母親だ。

 相変わらず妻にも弱いフロックハート伯である。


「突然、連絡もなく帰ってきて申し訳ありませんでしたわ。でも、きちんと学園には申請を出していますから、その辺りはご心配なく。それと、嫌な思いをして帰って来たわけでもありませんわ。早とちりはやめてくださいませ」

「お、おぉ、そうか……」


 なんだか妙に大人っぽく冷静な態度のラティーシャに、父親はもちろん母親も驚いたように目を丸くしている。

 学園生活で、随分と娘も成長したようだ。母親の目がやんわりと細められた。


「先にお母様とお話したいの。お父様にもちゃんとお伝えしますわ。でも……」

「あら、女同士の話ね? 当然、あなたは待てますわよね?」

「ぐっ、しかし」


 父の顔には娘が心配でたまらないといった様子がありありと浮かんでいた。

 そのことにはラティーシャも気付いていたが、さすがに父親と相談するには気恥ずかしい内容だ。ラティーシャは年頃の乙女なのである。


「いけませんの? でしたら私も今度、あなたと旧友との男同士の話にも割って入ってよろしくて?」

「わ、わかった! 待つ! 待つぞ!」


 その辺りの心情をきちんと理解しているのは同じ女である母親だ。やはり頼りになる。特に父の扱いに関しては。


 こうして、父親が名残り惜しそうに見送るのを背中で感じつつ、ラティーシャは母と共に自室へと向かった。


「ありがとう、お母様」

「いいのよ。私も……貴女に話しておかなければならないことがあるもの」


 部屋に入ってドアを閉めると、ラティーシャはまず母への感謝を口にした。


 一方で、母親もどこか申し訳なさそうに微笑みながらそんなことを言う。

 ラティーシャには、母がそんな顔をする理由がわからなかった。


「まずは貴女の話から聞かせてちょうだい」

「……わかりましたわ」


 母娘は椅子ではなく、ラティーシャのベッドに並んで座った。

 肩を抱き寄せるようにしてくれた母に、なんだか昔を思い出す。


 そのおかげだろうか、驚くほど素直に最近起きたことについて語ることが出来た。


 母親は王宮に呼ばれた、という辺りでとても驚いていたが、ラティーシャが話し終わるまでずっと黙ったまま聞いてくれた。


「……ということが、ありましたの。私は、ずっと新しい婚約者について考えておりましたわ。でも、そこでリファレットの名前が出てきて……その」

「混乱した?」


 最後に、うまく気持ちを言葉に出来ない様子のラティーシャを助けるように、ようやく母親が口を挟んでくる。

 ラティーシャは黙り込んだままコクリと頷いた。


 すると、母親は彼女の頭を優しく撫でながらそうなのね、と呟く。

 それからしばらく黙ったまま娘の頭を抱き寄せていた母は、少しだけ身体を離してゆっくりと口を開いた。


「貴女の悩みに答える前に、少しだけ私の謝罪を聞いてもらいたいの」

「お母さまの、謝罪……?」


 言葉の意味が分からず首を傾げて母の顔を覗き込むと、母はどこか苦しそうに口元だけで笑った。


「……実はね、ラティーシャ。貴女とアディントンの息子リファレットとの婚約は……シンディー様からの命令だったのよ」

「え」


 フロックハート夫人は、シンディーの行く末を知っている。同郷の縁戚というよしみで、伝えられたのだ。


 もちろん、このことは娘であるラティーシャには伝えられていない。

 シンディーのことは、いつの間にか隠居生活を送るようになったとしか思っていないのだ。


 だが、あれほど野心に溢れたシンディーが大人しくなるとも思っていなかった。

 突然、家族全員が隠居するだなんて、よほどのことがあったに違いない。


 詳しいことはわからないが、ラティーシャはきっとシンディーたちがなにか罪を犯して罰せられたのだろうと予想していた。


 そんな罰せられたシンディーから、自分の母が命令されていたとは。

 その事実に背筋が凍る思いがした。


「彼女が貴女たちを婚約させることで何をしようとしていたのかは知らないわ。けれど、何か良からぬことを企んでいることには気付いていたの。それでも、私は了承したわ。貴女の気持ちなんて考えもせず、リファレットと必ず婚約させてみせると約束したのよ」


 当時、ラティーシャはセオフィラスのことしか見ていなかった。リファレットは好みとはかけ離れていたし、絶対に結婚などしたくなかったのだ。


 父から話を聞かされた時、どうして勝手に決めるのかと腹が立った。

 それを窘めて学園での猶予を与えてくれたのは母ではないか。


『追われる女になりなさい』


そう言った母はカッコよくて、自分の味方だと思っていたのに。


 母は最初から、ラティーシャがセオフィラスを落とせるとは思っていなかったのだ。

 それどころか、嫌がる婚約を無理に通そうと思っていたのは父ではなく、母の方だったなんて。


「貴女の信用を裏切る行為よね。わかっているわ。後悔しているの。許してもらえるとは思っていないけれど、謝らせてほしいのよ。……ごめんなさい、ラティーシャ」


 いつでも凛々しくて自信に満ち溢れた、美しい自慢の母。

 そんな母が今、目の前で泣き出してしまいそうな顔を浮かべて謝罪している。


 ラティーシャは何も言うことが出来ず、唇を噛んだ。


冷徹令嬢の2巻が発売されます!

発売日は9月6日!あと少しですね〜!


ラティーシャが活躍()する2巻もぜひお手元にお迎えいただけると嬉しいです。


詳しくは近いうちに活動報告でお知らせいたします!


また、下スクロールで白い制服のかわいい書影が見られます♡

タイトルをクリックで書籍情報も確認できますのでぜひ!

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