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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
未来の始まり

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缶詰と伝言


 大会の後、レセリカはセオフィラスとなかなか会うことが叶わなかった。

 あんな事件があった後なのだ、それも仕方のないことと言えた。


 レセリカはセオフィラスの婚約者であるが、まだ身内ではない。

 もちろん、今のレセリカのことを疑う者はいないが、利用してセオフィラスを狙う者がいる可能性はあった。


 そのため、レセリカの守りも厳重になっており、おいそれと身動きが取れないのである。

 授業にも出られず、寮室に缶詰め状態だ。


 学園のセキュリティーは万全とはいえ、さすがに人同士の距離が近くなる一般科の授業を受けさせるわけにはいかなかった。


 セオフィラスのことが心配で、気が気ではない様子のレセリカのために、立ち上がってくれたのはヒューイとロミオだった。


 体術の部の運営を手伝う生徒の一人だったロミオは、事件のことを後で知り、その場でレセリカを守れなかったことをとても悔しがっていたのだ。


「殿下のことは僕が調べてきます。ウィンドと違って大したことは掴めないでしょうが……父上にも手紙で聞いているところです」


 ヒューイは現在、片時もレセリカの側を離れようとしない。今は情報収集よりも主の身の安全を守ることが最優先だからだ。

 そのため、ロミオが出来る範囲で情報を集め、女子寮に近付けないロミオからヒューイへと伝言する形を取ってくれたのである。


 確かにオージアスなら、重要な情報を聞いているかもしれない。ただ、それを子どもたちに伝えてくれるかは疑問だ。


 本人の話を聞くまでは噂も鵜呑みには出来ない。

 せめてジェイルやフィンレイのどちらかに話を聞ければ良いのですけど、と苦笑していたロミオを思い出し、レセリカはギュッと胸の前で両手を組んでいた。


「今日も伝言をありがとう。ヒューイ」

「いや、この程度しか出来なくてごめん。でも、本当はロミオから伝言を預かるのに離れるのも嫌なんだぜ」


 片時も離れたくない、というヒューイの言葉は決して大げさではない。

 大会会場に現れたクライブの姿を目の当たりにしたのだから。


(ほんの一瞬で、事件は起こるのね)


 身の危険はいつ訪れるのかわからない。

 いつまで気を張ればいいのかわからない。


 気が遠くなりそうな状況ではあったが、レセリカは絶対にめげる気はなかった。


(断罪されて、罵倒されて、処刑されたことを思えばなんてことないわ。あの辛さは絶対に忘れない。絶対に繰り返さない。セオを、死なせない……!)


 ※


 不安な日々を過ごすある日、ロミオがようやくセオフィラスからの伝言を預かってきた。

 それを託されたヒューイは、レセリカを安心させるためにとすぐさま報告をする。


 事の次第を聞いたレセリカは、複雑そうな表情で腕を組んだ。


「そう、わざとだったのね……ダリアとヒューイが言っていたのと同じね」

「正直、クライブがそんな依頼を受けるとは考えにくいですが……」


 恐らくセオフィラスの推測は合っているだろうと思われる。

 だが、クライブの為人(ひととなり)を考えると納得しづらいというのが本音だ。


「まだ推測の段階だしな。実際はどうか知らねーけど……オレはそこまであり得ないとは思わねーぜ」


 ただ、ヒューイだけは理解出来るようだ。

 アイツは会った時からずっと、何かを求めている様子だったから、とのこと。


「自由、ってのがそれだよ。たぶん」

「自由……」


 ヒューイの話を聞いて、ダリアがポツリと繰り返す。それを聞いて、レセリカも少しだけわかった気がした。


 もしかするとクライブも、ダリアと同じように火の一族から抜け出したかったのかもしれない、と。


「自由になるために、依頼を引き受けた……? だとしても、それがどうして自由に繋がるのかわからないわね」

「まーな。さすがにそこまでは。ただ、依頼主との間で何か約束でもしてたんじゃねーの?」


 恐らく、今後もそこまでの真相はわからぬままだろう。なんともハッキリとしない事件だ。


「でも、本当に彼のことは警戒しなくていいのかしら?」

「あー、それなんだけど。一応の脅威は去ったから、そろそろ調査に行けるかなって。あの野郎の性格からして、依頼主が誰だったかを簡単に掴めるように証拠を残してると思うんだよな」

「ああ、それは一理ありますね」


 曰く、クライブは気に入らなかった仕事の後は、依頼遂行後に依頼主が誰だったか、どんな計画だったかなどの痕跡をわざとらしく残すのだという。

 依頼主への嫌がらせというやつだ。


「じゃあ、頼もうかしら」

「レセリカ様には私がついていますから。正直、ウィンジェイドなどいなくても問題ないのですがね」


 レセリカがヒューイに頼んだことで、嬉しそうになったのが気に食わなかったのだろう。ダリアがわざとらしく嫌味をぶつけている。


 おかげで二人の間では火花が散っていたが、レセリカはいつもの光景だとしか思っていない。

 未だに、これが二人なりのコミュニケーションだと思っているのだ。


 あながち間違いではないのだが、互いに少しの好意も向けていないところはわかってもらえないようである。


「でも! まだ油断は出来ねーからな! まじですぐ戻って来るけど、オレが戻るまでもう少しだけ部屋から出んなよ!」

「わ、わかったわ。ありがとう、ヒューイ。お願いね」

「おう!」


 立ち去る前、ヒューイは再び念を押す。過保護な発言に困りつつも素直に頷くと、ヒューイはホッとしたように歯を見せて笑った。


 主人である自分が無事であること。

 それがヒューイにとっても安心で、力を発揮出来るのだと、レセリカはもう知っているのだ。


「少し勉強するわ。ダリア、頭がすっきりするお茶をお願い出来る?」

「はい、お任せください」


 ここのところずっと部屋から出られないレセリカであったが、きっとあと少しで出られると信じている。


 引き出しを少し開け、セオフィラスに渡す香水を見て微笑んだレセリカは、ノートを開いて思考を切り替えるのであった。


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