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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
未来の始まり

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試合開始と昼休憩


 試合会場は異様な熱気に包まれていた。


 レセリカの座る観客席は一階にある。

 教員待機席や救護スペースから数メートル離れた場所にある奥まった席だ。


 ここからなら二階席にある通常の観客席からも見えないし、レセリカからも観客席は見えない。

 同時に試合の様子も少し見にくいのだが、安全には変えられないとこの場所での観戦となった。


 どのみち、近くで見たところでレセリカには何がどうなったのかなど見極めることも出来ない。

 ただ頑張っている姿を見て心の中で応援できればそれで良いのだ。


 今日は近くにジェイルとダリアもいる。二人ならこの場所からでも戦況を見極められるし、丁寧に実況もしてくれるだろう。


「本当に野次が飛んでいるのね。まだ試合も始まっていないのに」

「申し訳ありません。ご気分を悪くされましたか?」

「あっ、そういう意味じゃないの。改めて実感しただけ。言葉はその、良くないけれど、楽しんでいるのは伝わるもの。平気よ」


 ダリアの心配顔に、レセリカの方が慌ててしまう。余計なことを言ってはすぐに会場から連れ出されてしまいそうだ。

 せっかくの観戦、レセリカは最後までセオフィラスを応援したい。

 大事に育てられてきたレセリカにとって、聞くに堪えない野次の数々にはどうしても驚いてしまうだけだ。


 試合は滞りなく進んだ。人数が多いので最初の方は会場を五つに区切って同時に試合が行われるという。

 決勝戦だけは全員で観戦出来るよう、休憩を挟んだ後に会場の中央で行うそうだ。


「あ、またセオフィラスの試合ですね。見えますか? レセリカ様」

「ええ。……あっ、もう終わってしまったわ」

「ははっ! いつも以上に気合い入ってるなー、セオフィラスのヤツ。レセリカ様効果ですね」


 すでに三回戦なのだが、セオフィラスの試合は全てあっという間に終わってしまう。

 ジェイル曰く、別に相手が弱いわけではないという。セオフィラスが圧倒的に強いのだ。


(セオが強いらしいことは知っていたけれど、こんなにすごかったのね)


 それを目の当たりにしたレセリカは、ドキドキと心臓が高鳴るのを感じる。

 もちろん、上には上がいることもわかっている。ジェイルやリファレットはもっと強いことも。


「戦うのを始めて見たけれど、とてもカッコいいわ」

「……それ、試合が終わったら本人に言ってやってください。めちゃくちゃ喜ぶと思うんで」


 ジェイルに言われて、思っていたことを口に出していたらしいことに気付いたレセリカは、思い切り顔を赤くしてしまう。

 とても恥ずかしいことだが、彼が喜ぶというのなら勇気を出して言ってみよう。

 レセリカは密かに覚悟を決めた。


 お昼の時間をやや過ぎたところで、ようやく予選が終わった。昼食の休憩を挟み、次はいよいよ決勝戦である。


 試合をするのは当然、セオフィラス対リファレットだ。

 二人とも難なく予選を勝ち上がっており、観客も盛り上がっている。


 ちなみに大会では上位四名が成績優秀者とされ、卒業を控えている者であれば就職先を優遇される。

 五年生までの生徒だった場合は、最終学年で試験の免除もしてもらえるそうだ。

 ただ、毎年だいたい六年生で上位が埋まる。今年もそうだった。


 高学年になってからずっと優勝を掻っ攫っているジェイルやフィンレイが優秀すぎるのだ。

 体術の部では今、フィンレイも決勝戦を控えているのだろう。


 当然、同じように上位を譲らなかったセオフィラスやリファレットも相当な実力を持っていることがわかる。


「思っていた以上にやるじゃん、セオフィラス」

「! ヒューイ」


 観客席でダリアが軽食を準備していると、どこからともなく現れたヒューイがパンを一つひょいっとつまみ食いしてきた。

 ダリアの視線が冷たいが、いつものことである。


「いつもニコニコしててさ、どんなもんだろうと思ってたけど。なんかあった時にレセリカの盾くらいにはなるか」

「王太子殿下を盾にするわけないでしょう……」


 ケラケラと笑うヒューイに対し、レセリカは呆れ顔だ。むしろレセリカの方が盾にならなければならないというのに。


「あれ、護衛の一人は?」

「ジェイルならセオの下に行ったわ。フィンレイも今は大会に出ているから、昼食の準備をするって」

「なるほど。だからここに来る前の道にやたら騎士が並んでたのか」


 どうやらジェイルは、自分が席を外す代わりに騎士を配置してくれたらしい。

 こちらにはダリアとヒューイがいるとわかっているのに手配してくれる気遣いに感謝だ。


 ただヒューイにとってはそれさえも無意味らしいのがなんとも複雑である。まるで騎士などいなかったかのようにあっさり突破して来ているのだから。


「安心しろよ、レセリカ。あの厳重さだったら風の一族じゃない限り突破は難しいと思うぜ。手段を選ばなければその限りじゃねーけど」

「手段を選ばなければ?」


 レセリカの心配が伝わったのか、ヒューイがフォローと言えないようなフォローを口にする。しかも少々、不穏だ。


「そう。例えば最初から騎士に変装して潜むのが水の手法に多いかな。あ、念のため言っておくけどいなかったぜ!」


 ちゃんと確認もしてくれているらしい。そのことにホッと息をつく。


「火の方が厄介だ。侍女ならわかるだろ?」

「……ええ、そうですね」


 ヒューイが眉を顰めてそう言うと、ダリアもまた嫌そうに顔を歪ませた。


「奴らは隠れるとか潜むとか、そういった面倒なことはしないでしょう。やるならおそらく……」


 そこまで告げたところで、昼食の時間を終えるアナウンスが響いた。どうやらもうすぐ決勝戦が始まるらしい。


「まぁ、何があっても大丈夫ですよ。レセリカ様の身の安全は私が保障します」


 ダリアはそう話を切り上げると、手際よく昼食後の片付けを済ませていく。


 心配はいらないとわかっていても、そんな話を聞くと心が騒ぐものだ。

 レセリカは何ごともなく試合が終わることを祈った。


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