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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
未来の始まり

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街歩きとお揃い


 週末、予定通りレセリカはポーラとキャロルと共に街へ出かけることとなった。


 ダリアやセオフィラスは、思っていた通り最初は渋った。レセリカの身を案じたからだ。

 だが、事実としてレセリカの元気がずっとなかったのも見ている。


 その結果、レセリカに甘い二人は守りを万全にするなら、と心配しながらも許可してくれたのだ。

 そもそも、出かけるのに学園の許可は必要でも彼らの許可は必要ないのだが。


「せっかくですからレセリカ様、今日は思いっきり買い物を楽しみましょう!」


 ポーラから話を聞いているのだろう。キャロルはいつも以上に明るい声でレセリカに笑いかけている。

 その気遣いと優しさが、今のレセリカにはよく沁みた。


「レセリカ様、私がずっとお側についていますからね! 安心して楽しんでください」

「ありがとう、ダリア。心強いわ」


 もちろん、レセリカの守りは万全だ。ダリアはもちろんのこと、ジェイルや他の騎士たちも町の至る所に配置されているらしい。


 中でも特に、ヒューイが心強かった。

 街の外に出るというのなら危険だが、町中を歩くくらいなら問題ないと豪語したのだ。


「町はもはや庭だぜ? 裏通りや細道、抜け道だって全部知ってる。昔の知り合いにも声をかけて警戒させるし、何よりオレがずっと見張ってる。どこにいてもレセリカの位置は把握出来るし、絶対に大丈夫だ!」


 セオフィラスたちの前で堂々と胸を張るヒューイの姿に、全員が苦笑を浮かべてしまうほどだった。

 当然、呆れからではない。そこまで言い切るだけの実力があると理解しているからこそ、笑ってしまったのである。


 ヒューイはいつも通り、姿を隠しながらの護衛だ。セオフィラスたちの前に姿を現したものの、キャロルやポーラはまだその存在を知らないのだから。


 レセリカは今後も、彼女たちによほどの危険がない限りは明かさないようにするつもりである。

 ヒューイは本来、人に顔を知られるのは避けたいと願っているため、出来るだけそれを守りたいと思っているのだ。


 そんな万全の守りの中、レセリカたちは女三人で和気あいあいとお喋りを楽しみながら街歩きを楽しんでいた。

 一見すると、いつも通りだ。身近に控えているのはダリアのみで、少し離れた位置にジェイルがついてきているのは学園でも見慣れた光景である。


「あ、レセリカ様! りんご飴の屋台です! 食べませんか? 案外、いけますよっ!」

「店主に頼めば、一口サイズに切ってもらえます。私が頼んできますね! キャロル様はレセリカ様とあちらのベンチでお待ちください!」


 おかげで、キャロルとポーラも変に緊張することなく、いつも通り接してくれている。このいつも通りが、今のレセリカの心を癒してくれていた。


 少しして、ポーラがりんご飴を持って戻って来る。レセリカがそれを受け取ると、柔らかな風が頬を撫でた。このりんご飴は食べても大丈夫だと言うヒューイの合図だ。

 毒の有無を確認しなければならないことに、レセリカは少々複雑な気持ちだ。加えて、セオフィラスはいつもこんな思いをしているのだろうかと思うと、より切なくなってしまう。


「……おいしいわ」

「良かったです! ふふっ、私は思い切って齧りついちゃってますよー!」

「ポーラったら、口の周りがベタベタになっているのですよ! すでに!」


 けれど、二人の明るさに再び感情が浮上する。護衛たちに負担をかけてしまったことは申し訳ないが、レセリカは今日町に出かけられてよかったと改めて思った。


 三人は当てもなく町をぶらついた。今日は特に目的を決めず、気になったお店に立ち寄りながらのんびり過ごそうと決めていたのだ。

 レセリカとしては、とても新鮮な体験である。買うものもないのに、町を歩くなんて散歩と何が違うのだろうと思っていたからこそ余計に。


(こんなに楽しいものだったのね。もっと経験しておけばよかったわ)


 高級店が並ぶ貴族向けの通りではなく、庶民向けの商店街は面白いものがたくさんあった。

 食べ物以外の露店も、一般科の授業でよく見かけてはいたが、こうしてじっくり見る機会は今回が初めてだ。


「わ、かわいい……! せっかくだからみんなお揃いで、って。レセリカ様はこんなの、身に着けたりしないですよね。ごめんなさい」


 ふと、ポーラがアクセサリーを売っている露店で足を止めた。その中にあるカラフルな紐で作られたブレスレットが気に入ったようだ。


「お揃い……」


 確かに、レセリカには普段の服装から考えて見てもデザイン的にあまり似合わないように思える。しかし、そんなことはどうでもよかった。

 レセリカには「友達とお揃い」とい響きがとても魅力的に思えたのである。


「あ、レセリカ様、ポーラ。こちらならどうです? これなら、レセリカ様がお持ちの扇子に付けても良いのではないでしょうか!」


 慌てるポーラの横からひょいと顔を覗き込ませたキャロルが、別の商品を指差してそんな提案をしてくれた。

 キャロルが選んだのは、ポーラが選んだものと同じカラフルな紐で作られているブレスレットではあったが、他の物より細く、間にクズ石とよばれる小さなガラス玉がアクセントとして編み込まれていた。


 ちゃんとした商品として使えないものを利用して、ここまで素敵な飾りを作れるとは。レセリカの目はキラキラと輝いている。


「お、お客さん方、うちはありがてぇが、その……そちらのとんでもなくお綺麗な貴族のお嬢様に似合うような商品とは言えねぇですよ……? いや、商品に自信はあるけどよぉ……」


 次第に、店主の方がおどおどとし始めた。

 しかし今のレセリカにそちらを気にする暇などない。

 ポーラのお揃いという提案と、キャロルの扇子に付けるという提案に大賛成だったからだ。


「キャロルとポーラが良ければ、三人でお揃いのものを持ちたいわ。良かったら、みんなでお互いに選び合わない?」

「いいんですか!?」

「やった! ではまずレセリカ様のから選びましょ! ポーラ、どれにしましょうか!」


 わっと盛り上がる三人を前に、店主は呆気に取られるばかりである。

 だが次第に、キャッキャと楽しそうな娘三人を前に頬を緩め、店主は最終的には割り引きまでしてくれた。


 キャロルとポーラの二人は腕に着け、レセリカは早速、扇子に付ける。


 黄色い紐に編み込まれたレセリカの瞳と同じ淡い紫色のクズ石が、これまでに見たどんな宝石よりも美しく輝いて見えた。


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