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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
未来の始まり

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秘密の露見と重い罰


 己の失態を誰より先に悟ったのはヒューイだ。つい今しがた頭の後ろで手を組んで飄々としていたのに、瞬きの間にレセリカの前で跪いている。


「ごめん、レセリカ。俺、セオフィラスと二回ほど会ったことがあるんだ」


 レセリカは、頭を下げて打ち明けるヒューイを相変わらず青白い顔で見つめていた。

 胸中はとにかく複雑で、自分が何にショックを受けているのかさえわかっていないのだ。


「二回目の時、俺の主がレセリカだって言い当てられた」


 ヒューイの二つ目の告白に、レセリカは呼吸を止めた。

 隠しごとがバレていたことが申し訳なくもあり、恥ずかしくもある。それを自分の知らないところで二人が知っていたことに対して、裏切られたかのような悲しさと寂しさも。


(でも、最初から隠しごとをしていたのは私。二人を責められないわ)


 悪いことをしていたわけではない。セオフィラスとは、昔からお互いに隠しごとはあってもいいと話し合っていたのだから。


 いや、だからこそかもしれない。レセリカは今感じている負の感情を、どこに向ければいいのかわからなくなってしまった。


(私が、もっと早くに打ち明けていればよかっただけ。モタモタしていたのは私で、この結果も私の責任だわ)


 自分が、自分が、自分が。


 レセリカは真面目さゆえに、自らを追い込んでしまう。


(目の前が、暗く……)


 負の感情を、どうしても人に向けられない。それはレセリカのどうしようもないほどの優しさであり、弱点であった。


「っ、レセリカ!!」


 フラリと傾く身体を支えたのはセオフィラスだった。もちろん、一番近くにいたヒューイもすぐさま手を出せたが、彼の動きを見て咄嗟に手を引いたのである。

 風の従者は立場を弁えている。これは自分の役割ではないと。


 ヒューイは、音も立てずにセオフィラスとレセリカの二人から少しだけ離れた位置に移動した。


「息を吸って、レセリカ。呼吸をするんだ。ゆっくりでいい」

「セ、オ……」


 レセリカを支えながらゆっくりと片膝をついたセオフィラスは、心配そうに顔を覗き込んで優しく声をかける。

 その声に合わせてなんとか呼吸を整えたレセリカは、もう大丈夫ですと呟く。当然、とても大丈夫そうには見えない。


 セオフィラスは泣きそうな顔で俯いた。


「……ごめんね、レセリカ。いつ切り出そうかとは思っていたんだけれど。私がいつまでも黙っていたせいで、追い詰めてしまったね」


 奇しくも自分と同じように自らを責めているセオフィラスを見て、レセリカは目を丸くした。

 よく考えれば、彼だって知った時は動揺したはずだ。裏切られたと感じたかもしれない。


 それなのに、セオフィラスは変わらずレセリカに優しかった。彼の方がずっと出来た人間だ。


(それに比べて私は、ショックを受けて倒れるなんて。情けないわね)


 しっかりしなくては。レセリカは一度ギュッと目を閉じた後、真っ直ぐな視線をセオフィラスに向ける。


 彼だけではない、ヒューイだって裏切ることはしない。あり得ない。二人とも、レセリカを傷付けないようにと考えてくれていただけなのだ。


 冷静な思考を取り戻したレセリカは、すぐにそう理解し、受け止めた。


「……いえ、それは私も同じですから。黙っていてごめんなさい」


 力強い芯のある視線を受け、今度はセオフィラスが目を丸くする。それからすぐにふわりと微笑んだ。


「いいんだよ。言い出せないのも無理はないって、わかっているから」


 二人は柔らかく微笑み合う。もうそれだけで、互いが互いを気遣っていることを理解した。


 ゆっくりとレセリカを立たせたセオフィラスは、そのまま椅子へ座らせてくれた。フィンレイに温かいお茶の手配を頼むと、セオフィラスもまた椅子を運んでレセリカの近くに座ってくれる。


「少し落ち着いたかな? 無理はしなくていいから」

「もう平気です。取り乱してごめんなさい」

「それを言うなら、取り乱す原因を作った私と彼が全面的に悪いね。そうだろう? ウィンジェイド」


 セオフィラスに話を振られたヒューイは、不機嫌そうに彼を睨む。けれどそれは一瞬のこと。

 ヒューイはすぐにレセリカに視線を移し、申し訳なさそうに目を伏せた。


 レセリカは、やや怒ったような目をヒューイに向けている。

 今の自分はヒューイの主で、ここは毅然とした態度を見せるべきだとわかっているのだ。


「どうしてすぐに言わなかったの」

「そ、れは……」

「私は貴方の主でしょう? ヒューイ」


 有無を言わさぬ勢いで告げるレセリカに対し、ヒューイは再び膝をつく。深く頭を下げ、今までにないほど硬い声色で答えた。


「その通りです。いかなる罰も受けます」


 暫くの間、緊迫した空気が流れ、沈黙が続く。


 スッと目を細めたレセリカは、前の人生で呼ばれていた時以上に迫力のある冷徹令嬢の顔をしていた。


「じゃあ」


 ようやく口を開いたレセリカの声からは、感情が読めない。続けられる罰の内容を前に、ヒューイは覚悟を決めたように拳を握りしめている。


「今度ダリアと一緒に開くお茶会には、同席すること」

「…………はぇ?」


 解雇される以外の罰ならどんなものでも受けようという覚悟だったことだろう。

 しかし、レセリカから言われた罰は斜め上からの理解が及ばぬものだったらしい。


 ヒューイは許可される前にうっかり顔を上げて、変な声まで出してしまった。


「……それ、罰になるの? レセリカ」

「ええ。何度誘ってもお菓子だけ持ってどこかへ行ってしまうのだもの。ヒューイは生まれて初めて出来たお友達なのに、まだ一度もお茶会に参加してくれないのです」


 小さく頬を膨らませて言うレセリカは、いつになく子どもっぽい。


 呆気に取られてしまったのはヒューイだけではない。セオフィラスもまた、初めて見るレセリカの一面に目を丸くしていた。


「堅苦しい貴族式のお茶会を体験してもらいます。じゃないと、許さないから」


 ちなみに、レセリカは自分に出来る精一杯の罰を与えているつもりだ。

 なにぶん、誰かに対して怒りをぶつけることや、相手の嫌がることをしたことがないレセリカである。怒りも悲しみに変わってしまうタイプなので、本気で怒ったことはないかもしれない。


 要は、主人としてヒューイを叱るというのは、レセリカにとってかなり無理のある行為なのである。


 レセリカの中ではとても厳しくしたつもりで、内心では言いすぎてはいないかと心臓がバクバクだった。

 なお、無言のまま無表情で淡々と告げるだけで充分怖いのだが、本人は気付いていない。


「……優しすぎないか? 俺の主」

「返事は?」

「わ、わかりましたぁ……」


 ぽかん、とした様子でヒューイが呟くのも無理はない。だがレセリカには聞こえなかったようだ。一生懸命、目を吊り上げて返事を求めるレセリカは、ヒューイの言葉を聞くとゆっくりと頷いた。


 そんな一連の、あまりに可愛らしいレセリカの言動を間近で見ていたセオフィラスは、口元を抑えて震えながら悶えているのであった。


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