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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
未来の始まり

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緊急事態と顔見知り


 学生たちが平等に勉学に励めるよう、学園では貴族と平民の身分差は関係ないと規則で謳っている。

 そうは言っても気にするものが大半で、ほとんどの学生は最低限のマナーを守るだとか、お互いにあまり関わらないようにと気を配っている。


 だが、レセリカが一般科へと進んだおかげでかなりその壁が緩和されつつあった。もちろん、一部の生徒だけであるし、貴族の誰もがこうではないと皆が理解している。


 それでも新しい風を吹かせたレセリカは、平民たちからかなりの支持を集めていた。

 貴族たちからも概ね好印象を抱かれてはいるのだが……そこはあまり多くは語るまい。


 このように、意識は改変されつつあるが、王族となると話は別になってくる。さすがに学園側も特別待遇をせざるを得ない部分がどうしても出てくるからだ。

 特にセオフィラスは幼少期に暗殺されかけたことがあるため、色々と気を遣わざるを得ない。


 自習室も彼だけは特別に一室、専用で与えられていた。セオフィラス本人は居た堪れない気持ちであるようだが、好意を受け取らなければそれはそれで学園側が両親(国王と王妃)との板挟みになってしまい、かわいそうなことになるのだ。


 すでにセオフィラスは最終学年。卒業も間近の十五歳だ。自分で自分の身を守れるくらいに腕は立つし、優秀な護衛だってついている。


 とはいえ、この特別対応もあと少しだ。なんだかんだといって特別自習室は静かで、資料もあり、勉強は捗ったし、周囲の視線を気にしないで済んだためかなり助かったのは事実であった。


「フィンレイ、そろそろ戻ろうか」

「ん、今日はずいぶん早いですね」

「まぁね。そろそろレセリカが校外学習から帰る頃だろうから」

「なるほど。偶然を装って会うつもりですか」


 当然であった。あと少しで学園生活が終わってしまうのだから。学生同士でレセリカと過ごせる貴重な時間を、少しでも確保しようと必死なのである。


「大切な婚約者だからね」

「言いたいことは色々ありますが……まぁ、お二人が幸せそうで何より、っ!?」


 手荷物を片付けながら会話を続けていた二人であったが、起こるはずのない突風が室内に吹き荒れたことで警戒態勢に入った。

 フィンレイは咄嗟に、セオフィラスを庇うように前に出る。そのまま注意深く風の中心部を凝視していた。


 突風は数秒ほどで収まった。だが、収まるとともに室内には二人の人物が現れていた。


「っ、レセリカ……!? それに君は」

「セオフィラス、下がって!」


 ここはセオフィラス専用の自習室。当然、ドアにも窓にも鍵がかかっていて誰かが侵入う出来るはずもないのだ。


 フィンレイとて見知らぬ男がレセリカを抱きかかえていることは一瞬で見て取れたが、不審人物を前に主人を無防備に晒すわけにはいかない。

 グイッとセオフィラスの腕を引き、頑として前に出させなかった。護衛として十分な働きである。


 しかし、そんな緊張感漂う雰囲気の中、急に現れた男であるヒューイはどこ吹く風でレセリカをそっと下ろした。

 レセリカはヒューイに向かって軽くお礼を言うと、すぐにセオフィラスの下に駆け寄る。


「セオ……」

「レセリカ……! どうしたの、何があった!?」


 セオフィラスは両肩に手を置いてレセリカを引き寄せる。その顔には心配の色がありありと浮かんでいた。

 なんとか事情を説明しようと頭を働かせたレセリカだったが、今しがた起きたことが自分でもまだ脳内整理出来ておらず、うまく言葉が出てこない。


 その様子が恐怖に怯えているように見えたのか、セオフィラスはそのままギュッとレセリカを抱き締めた。

 突然のことに驚き、一気に顔を赤くしてしまうレセリカだったが、同時にホッと体の力が抜けていくのを感じる。


(平気だと思っていたけれど……私、怖がっていたのね)


 こういう時くらい、ほんの少しくらい甘えてもいいだろうか。

 そう思ったレセリカは、目の前にあるセオフィラスの胸元に少しだけ頬を摺り寄せた。彼の心音が心なしか速く聞こえてくる。


 心配させてしまったことに申し訳なさを感じ、レセリカは小さな声で「大丈夫です」と告げた。


「怪我はない?」

「オレがレセリカに怪我させるわけねーだろ」


 優しく身体を離し、レセリカを上から下まで見ながら告げるセオフィラスに対し、不機嫌そうに告げたのはヒューイである。最も近くにいる従者兼護衛としてのプライドが傷付いたのだろう。


 セオフィラスに対して不遜な態度を取るヒューイに対し、フィンレイは相変わらず睨みつけたままだ。もしかすると、ますます心証が悪くなっているかもしれない。

 そんなフィンレイを片手で制しながら、セオフィラスが視線を向けると、ヒューイは軽くため息を吐きながら頭の後ろで手を組んだ。


「まぁ、緊急事態ってやつ」

「……そうだろうね。君が姿を現しているのだから」


 言葉の軽さとは裏腹に、ヒューイの表情は硬い。それだけで、ことの重大さがわかるというものだ。


「セオフィラス、誰なんですかこの男は……いえ、なんとなく想像はつきますが信じられないというか」

「君の予想通りだと思うよ、フィンレイ。とにかく、彼に対して警戒する必要はないとだけ言っておくよ」


 セオフィラスの言葉を聞いて、ようやく肩の力を抜いたフィンレイだったが、向ける視線は冷たいままだ。

 普段おっとりと優しそうに見える人物だけに、フィンレイの纏う雰囲気は誰よりも怖いかもしれない。


 だが、今のレセリカはそういったことにも気が回らなかった。

 なぜ、目の前でヒューイが当たり前のようにセオフィラスと話しているのか。それもまるで、会ったことがあるかのように。


「知って、いるの……?」


 震える声で呟いた一言に、セオフィラスとヒューイが同時に振り向く。


 レセリカは、真っ青な顔で今にも泣きそうな顔を浮かべていた。


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