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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
未来の始まり

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馬と秘密の露見


 店主から馬を借りたレセリカは、自分の護衛として共に来てくれている二人に目を向けた。その視線を受け止めた二人は小さく微笑んでいる。レセリカの意図をすぐに察したのだろう。

 最初に口を開いたのはジェイルであった。


「もちろん、俺も馬でついて行きますよ。費用なら心配しないでください。セオフィラスに払ってもらうんで」

「じぇ、ジェイル……!」

「あはは! 冗談ですよ! ただ経費になるだけです」


 軽い調子で笑うジェイルに、レセリカは困り顔だ。とはいえ、こちらが何を言ってもジェイルはついてくるのだろう。困った顔のまま頷くことで答えることとなった。


「私も行きますよ。自費で」

「ダリアっ! もうっ」

「冗談です」


 だが続けられたダリアの冗談には思わずレセリカも声を上げてしまった。

 ダリアはレセリカ付きの侍女であり、言うなればレセリカ側が雇っている立場だ。かかる費用はベッドフォード家が支払うに決まっているのである。


 そんな二人のやり取りを見て、ジェイルは楽しそうに声を上げて笑った。


 貸し馬車屋は当然、街の外れに位置しているため外に出るのが楽だ。三人はそれぞれ馬を連れて街の外に出ると、慣れたようにひらりと馬に乗る。

 レセリカを先頭にして両サイドから護衛の二人がついてくる形だ。


「やっぱり、ダリアさんも馬に乗れるんですねぇ」

「護衛でもありますから、当然です」

「うーん、底知れないなぁ。その実力」


 さりげなくジェイルがダリアのことを探ってくるのだが、ダリアは気にした風もなくしれっと返事をするだけだ。

 その会話を聞いているレセリカはヒヤヒヤしてしまうのだが。もしかしたら、すでに勘付いているのではとさえ思う。


 いや、セオフィラス付きの護衛なのだ。わかっていてもおかしくはない。むしろその可能性の方が高い気がしてきた。


(いつか伝えたいとは思っていたけれど……早くセオに伝えるべきなのかもしれないわね)


 とはいえ、今は両サイドにいる二人の絶妙な雰囲気がなんとも耐えがたい。


 せっかく広い草原が少し先に見えている。レセリカは気分を変えるためにも少しだけスピードを速めることにした。


 馬で駆けながら風を感じるのは清々しい。速度を上げたことで護衛の二人もお喋りは止めてくれたようで何よりである。

 本当はもう少し速く走りたいところではあるが、馬を疲れさせてはならないためこれが限度だろう。


 それに、街から出たとはいえ街道は近い。安全のためにもこれ以上スピードを出してはいけないことくらいわかっていた。


(実家の馬が恋しくなってしまうわね)


 愛馬とともに思い切り草原を駆けたいと思いを馳せるが、王都にいる間は無理である。今こうして乗せてもらえただけで十分ありがたい話だというのに、人というのは欲深い。


 そう考えてレセリカが内心で反省していた、その時だった。


「レセリカ様っ!」


 突然ダリアが叫んだかと思うと、急に馬が嘶き、暴れ始めたのだ。まるで、何かに怯えているかのように。

 そのままものすごいスピードで走り出した馬に、レセリカは振り落とされないように身体を馬に密着させた。


「……っ」


 馬が暴れ出した時の対処法も心得ている。だが、こうして実際に暴れる馬に乗るのは初めてだ。レセリカは必死でしがみつくことしか出来ないでいた。


「レセリカ様っ、くっ……」


 ダリアやジェイルもすぐに駆け付けようとしてくれているが、彼らの乗る馬も同じような状態らしい。


(もう、ダメ……!)


 レセリカが耐え切れず馬から振り落とされそうになったその瞬間、強く温かな風がレセリカを包み込んだ。


 この風には覚えがある。突如感じる浮遊感の後、誰かに抱き上げられるのを感じた。


「……これは不可抗力だよな? さすがにレセリカが怪我するのを黙って見過ごせないし」


 耳元で聞こえてきた声に、レセリカはギュッと閉じていた瞼をゆるりと開ける。


「ギリギリまで姿を隠しとくってのも心臓に悪いわー。でもごめん。こうなるならもっと早くに助けりゃ良かったよな。怖かったろ」

「ヒューイ……」


 飄々としながらも、どこか緊張した面持ちのヒューイはレセリカを抱き上げた状態でふわりと草原に着地した。


 暴れていた馬があっという間に遠ざかっていくのを視界の隅で捉えながら、レセリカはしばし呆然としてしまう。


 それからヒューイの言った言葉を呑み込むと、ようやく慌てたように辺りを見回した。


 こうなるならもっと早くに……それはつまり。


 周囲に遮るものはない。

 つまり、ヒューイはジェイルの前に姿を現してしまったことになる。


「お前は誰だっ!? レセリカ様を離せ!」


 案の定、見たことのない突然現れた男に、ジェイルは素早く暴れ馬から飛び降りて剣を抜く。

 確かに、事情を知らなければレセリカを抱き上げているヒューイは人攫いに見えるかもしれなかった。


 いつの間にかダリアも着地しており、興奮した馬が三頭バラバラに遠ざかっていく。


 もはや何から説明すればいいのかわからない。

 混乱しているのもあって、レセリカはすぐに口を開くことが出来ないのであった。


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