平穏な日常と嫉妬
お待たせいたしました!
最終章「未来の始まり」編スタートです。
週一更新になります。
平穏ながらも、忙しい学園生活。五年生の後半ともなれば将来を見据えた授業も増え、一般科に通うレセリカは町に出て職業体験をする機会も多くなっていた。
おかげでセオフィラスと共にいられる時間がここ最近は減ってきている。最終学年である彼の要望に応えるためにも、出来る限り一緒に過ごすようにはしているのだが……限界というものはあるのだ。
今日はその貴重な時間。久しぶりのランチタイムだ。
気持ちを自覚してからというもの、レセリカはセオフィラスの姿を見るだけで鼓動が速くなるのを感じていた。
それが表に出てしまわないよう、レセリカは意識してポーカーフェイスを作るようにしている。
おかげでせっかく柔らかくなってきた表情が、最近では元の冷徹令嬢に戻りつつあるのだが、本人は気付いていない。
「レセリカは、貸し馬車屋で職業体験をしているんだったね。体力を使う仕事だと聞いているけれど、大丈夫?」
「思っていた以上に力を使う仕事ではありました。でも、馬の世話は慣れていますから」
無表情でそつなく答えるレセリカに、セオフィラスはやや戸惑ったようにそうか、とだけ呟く。
レセリカの態度が昔のようになっていることに、セオフィラスも気付いているのだろう。そんな彼女の様子を見てどこか不安げだ。
「週末は、空いている?」
「そう、ですね……一日だけなら」
そのため、誘う言葉もどこか遠慮がちになってしまっている。しかし、わずかに動揺したように見えたレセリカに、セオフィラスはおや、と目を軽く見開いた。
「ごめんなさい。友達とお茶をする予定があって」
「構わないよ。そりゃあ友達だって、レセリカと一緒に過ごしたいだろうから」
レセリカの様子に違和感を覚えたセオフィラスは、少し試すような行動に出た。
態度が余所余所しいと感じてから、出来るだけ様子見をしていたので、あまり近付きすぎないようにしていたセオフィラス。
嫌われるのが怖いという気持ちがそうさせていたのだが、勝負に出ることにしたらしい。
少々お行儀が悪いが、向かい側に座るレセリカに近付くようにズイッとテーブルに身を乗り出した。
「その代わり、もう一日は私が時間をもらうからね?」
「は、はい。もちろん」
にっこりと微笑みながら告げると、レセリカの頬がほんのりと色づく。返事もどこかしどろもどろだ。
セオフィラスは満足したように一つ頷いた。相変わらず自分を少なからず好ましく思ってくれていることが確認出来たのだろう。
ただ、なぜ態度が変わってしまったのかというレセリカの心情まではわかっていないようだが。
もちろん、絶賛セオフィラスに恋をしているレセリカの心臓が破裂寸前であったことは本人にしかわからないことである。
※
一方、その友達は友達でセオフィラスに対して嫉妬心を抱いていた。
「学年が上がってからというもの、セオフィラス殿下にレセリカ様を取られ気味でちょっと寂しいですね……」
この日のお茶会は、レセリカとキャロル、ポーラの三人のみ。たまにはラティーシャたちを除いたこの三人で楽しみたいというキャロルの望みであった。
レセリカにとって学園で出来た初めての友達、ということに誇りを持っていたキャロルではあったが、ここ最近はセオフィラスに取られるという意識が強く出てしまっている。
「仕方ないですよ、キャロル様。殿下は最終学年ですし、最後の学園生活を愛しい婚約者と過ごしたいのでは?」
「うぅ、私だってレセリカ様と過ごしたいですぅ! 貴族のマナーについて、手取り足取り教えてもらいたいですぅ!!」
「そ、それは私もですけどっ! はぁ、でもこうしてレセリカ様とお喋り出来るのは癒しです……」
恐らく、キャロルはストレスが原因だろうとレセリカは考えていた。五年生の貴族科はより授業内容が難しく、厳しくなると聞いているからだ。
ポーラの騎士科もまた、ますます訓練が激しくなるのだとか。
二人とも日々の授業で心身ともに疲れているのだろう。一般科でのびのびと楽しく過ごしている自分がなんだか申し訳なく感じるレセリカである。
もちろん一般科とて授業は難しくなっているのだが、レセリカには問題にすらならない。レセリカもまた、スペックの高いご令嬢なのであった。
「本当にごめんなさい、キャロル、ポーラ」
「あ、謝らないでくださいっ! レセリカ様は何も悪くないのですから!」
自分があまり苦労していないためか、つい謝罪の言葉が出てしまったのだが、それに慌てて声を上げたのはポーラである。
テーブルに伏せてしまいそうなほど項垂れていた頭をガバッと起こしてレセリカを見つめている。
「そうですよ! 悪いのは独占しようとする殿下ですもん! ふ、不敬かもしれませんけど、レセリカ様を独り占めするのは絶対に許しませんよ、私はっ!」
ただキャロルは少々、過激になっているようだ。とはいえ、その様子が弟のロミオと重なって見えたレセリカはクスリと笑う。
「そう言ってもらえるのは嬉しいわ。ありがとう、キャロル」
「れ、レセリカ様ぁ……」
対応にも慣れたものだ。優しく微笑んでくれたレセリカに、キャロルは嬉しそうに涙ぐんだ。
「貴族科の授業、すごく頑張っていると聞いたわ。驚くべき速さで上達して、たった一年で成績上位に入るほどだ、って」
実際、キャロルはかなり努力をしたのだろう。幼い頃から教育を受けている者であっても、授業について行くのがやっとの生徒もいる中で、これは素晴らしいことである。
というより、もはや天才の域であるといえた。
実のところ、キャロルの成長速度は貴族科でも有名になっており、いつの間にか一目置かれる存在となっているのだ。
「レセリカ様の隣に立つイメージをするんです。そうすると、自然と出来るのですよ」
「キャロル様のレセリカ様への愛は本物ですねぇ……」
ただ本人は、それを努力だと思ってはいないようである。好きこそもののとはよく言うが、キャロルのそれは突き抜けているようだ。
ポーラが感心したようにほぅ、と息を吐いている。
「ポーラだって、良い成績だと聞いているわ。騎士科の女生徒の中ではトップを争うとか」
「え、えへへ。実は私も、レセリカ様をお守りしたいって思うとなんだか頑張れちゃうんです」
そんなポーラとて、人のことは言えない。元から剣の才能があったのと、努力家であることが成果に結びついているのだろう。最近では、体格も筋肉質になってきている。
二人とも頑張る動機はレセリカなのだが、それにしたって優秀である。
レセリカはそんな友人二人を心の底から頼もしく思うのであった。
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