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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
恋の始まり

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就寝時間と吐露


 時間にして一時間ほどだっただろうか。シィは納得のいく対価、つまり情報を提供した後あっさりと屋敷を去っていった。

 またいつでも取引しましょう、という言葉と、相変わらず底が知れない笑顔とともに。


 体感としては何時間も過ごしていた気分だ。レセリカもロミオも精神的に疲れ果て、早々に自室へと戻ることとなった。


 オージアスはこの後、情報の整理や報告書をまとめたりとまだまだ仕事をするそうだ。

 シィへの対応や毅然とした態度といい、こういうところで公爵の凄さを感じる。


「なんかさー、結局アクエルの手の上って感じだったな。この騒動」


 レセリカの自室にて、ヒューイが窓枠に寄りかかりながらなんともいえない表情で呟く。レセリカも同意するように頷いた。


「面白くはありませんが、おかげで迅速に罪人を裁けたのは助かりましたね」


 ダリアもまた複雑な表情を浮かべ、助かった事実を嫌そうに口にした。


 実際、シィのおかげで今回の件に決着がついたのは確かだ。

 レセリカもヒューイに情報を集めてもらったりしたが、それさえもシィがわかりやすく撒いてくれていたのだから。


 もしシィが何もしていなかったら、ヒューイが得た情報も水の一族に関する部分だけがあやふやなままだっただろう。


「くっそー……水の情報が隠されてないことをもっと疑うべきだった」

「こちらにとっても好都合だったのですから、別にいいではないですか」

「それは結果論! もし罠だったらまんまと嵌まってただろ? 失態だ……」


 思った通りの情報が手に入ったことで油断した自分が悪い、とヒューイは頭を抱えている。


 確かに結果的には良かったが、してやられたのは間違いない。ヒューイの気持ちもわかるというものだ。


「でも、これで一応は安全になった、のよね」


 少しの間を置いてレセリカは呟いたが、ダリアからもヒューイからもハッキリとした返事はなかった。

 セオフィラスやレセリカの立場上、絶対に安全とは言い切れないからだ。


 何とも言えない沈黙が流れ、レセリカは少し長めのため息を吐いてからもう休みましょうと声をかけた。


「レセリカ様、私は少し席を外します。明日の準備をいたしますので」

「ええ、ありがとうダリア。お願いね」


 休日は今日で終わり、明日からは学校が始まる。今から学園に向かえば明日の授業にはギリギリ間に合うかもしれないが、急ぐのは危険でもある上、夜の間ずっと馬を走らせるのも色んな人に申し訳ない。


 そもそも、今はレセリカもロミオも疲労困憊だ。慌てずに予定通り、明日の朝一で学園に向かうのが良いということはレセリカにもわかっている。


(今日は早く休みたいけれど……なんだか寝付ける気がしないわ)


 あまりにも濃い話を聞いてしまった。加えて、レセリカにはまだ気になることがある。

 そのせいで、ベッドに横になっても色んなことを考えてしまうのだ。


 すでに明かりも消してしまっていたが、レセリカはベッドの上で上半身を起こした。


「……ヒューイ、まだいる?」


 そのまま静かに自分の護衛の名を呼ぶと、ヒューイはすぐに寝室へと姿を現す。キョロキョロと周囲を見渡しており、どこか落ち着きがなさそうだ。


「おう、いるぜ。でもあいつにバレたら……」

「もし見つかったら、一緒に怒られるわ」

「そうか? ならまぁ、いっか」


 あいつ、とは当然ダリアのことである。いくら護衛と言えど、レセリカの私室で二人きりになることを良しとしないのだ。


 レセリカもすでに子どもと呼ぶには微妙な年齢に成長しているのだし、二人ともダリアの言わんとすることは理解している。

 だが、この二人の間に主従関係以上のものはない。だからこそ、レセリカも気にせず呼んでしまうのだ。


 二人にあるのは「出来れば叱られたくはないので見つからないようにしたい」という子どものような感情だけである。


「どうしても気になることがあって、眠れなくて」


 やや俯きながらレセリカが言うと、ヒューイもその気持ちがわかるのか小さく頷きながら口を開く。


「王太子暗殺のこと、か?」

「……ええ」


 察しの良い従者で助かる。これは、一度人生をやり直しているという秘密を共有するヒューイにしか話せないことだった。


「きっと、前の人生では彼女の計画によってセオは暗殺されてしまったのだとは思う。だから、これでもう未来は変えられたんじゃないかって……思うのだけれど」


 レセリカはギュッと胸のあたりの服を握る。どうしてもざわつくのだ。嫌な予感が拭えない。


「なぜだか、これで終わりとは思えないの。暗殺されるその日が来るまで、安心出来ないのかもしれないわ。もしかしたら一生、安心出来る日なんて来ないのかも」


 王太子妃になる、と決めた時点で覚悟は決めていた。けれど、実際に身の危険があると実感する事件があるとやはり怖いし、落ち着かないものだ。


 一度酷い経験をして人生を終えた記憶がある分、運命の日が来るまでこの件が終わったと思えないのかもしれない。


 杞憂であればいい。それでも、シンディーの件は今のレセリカを安心させる材料にはなりえなかった。


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