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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
恋の始まり

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質疑応答となくなった依頼


 オージアスはまず、シンディーがシィにどんな依頼をしたのかを訊ねた。

 シィは、先ほどまでとは打って変わって事細かに説明を始める。


「彼女からの依頼はとてもくだらなくて、つまらないものでしたよ。最初は王弟の印を盗むという少しだけスリルある依頼だったのですがね。それを終えた後は、フレデリック殿下とレセリカさんの仲を取り持つ、という実にくだらない依頼でした」

「……」


 ある程度の予想はしていたものの、改めて聞かされると微妙な心境になる。ベッドフォード家の全員が今、同じ気持ちで黙り込んでいた。


 ちなみに、シンディーは息子であるフレデリックにも言い含めていたという。そのため、学園では出来るだけフレデリックの頼みも聞いてやってほしいと言われていたのだそうだ。


「何が悲しくてワガママ殿下のお守りを、と思いましたけどね。たったそれだけで高額報酬が得られるのだから、と自分を鼓舞して頑張りました」


 わざとらしく大きなため息を吐きながら告げるシィの気持ちには共感など出来ないが、彼が心の底からうんざりしていたらしいことは伝わった。


 ちなみに、学園の温室にレセリカを向かわせるよう仕向けたのも、フレデリックの頼みだったそうだ。


 それを聞いて、レセリカは眉根を寄せる。


「私がお尋ねした時は……殿下を呼んではいないとおっしゃっていましたよね?」

「ええ、呼んではいませんからね。占いは本当ですし、僕は嘘など吐きませんよ」


 確かに嘘ではないが、騙された気分である。レセリカはキュッと口を引き結んだ。


「それと同時に、僕はアディントン伯爵からもつまらない依頼を受けていましてね」

「アディントン伯爵、だと?」

「ええ」


 予想外の名前にオージアスが片眉を上げた。レセリカも驚いている。

 ここでアディントン伯爵の名前が出たこともそうだが、何よりシィが、本当にこちらの知りたいことを全て教える気なのがわかって意外だったのだ。


「彼からは、息子のリファレットさんとセオフィラス殿下を近付けるように、という依頼でした。ああ、気になさることはないですよ。アディントン伯爵は、シンディー・バラージュに頼まれて僕に依頼していたので。実質、どちらもあの女の依頼であるのと同じです」


 つまりシィがここで伯爵のことを告げたのは、シンディーからの依頼という認識だったからだ。


 そうはいっても、こちらが聞いてもいないことまで明かすとは律儀なことだ。それほどダリアの情報が大きかったということなのかもしれないが。


「なぜ、そんな回りくどいことを」

「それは、同じ人物からの依頼を同時に二つ以上は受けないというルールが僕にあるからです。ふふっ、空っぽな頭を捻り出して考えた策だったのでしょう。僕としては儲かるので別に構いませんからね。ただ、つまらな過ぎる依頼にうんざりはしましたけど」


 シィはシンディーの話をし始めてから、時折こうして表情を無くす。いつもにこやかな仮面を張り付けている彼にしては珍しいことだ。よほどストレスだったのだろう。


(一度、私にも聞いてほしいだけだと話したことがあったわね……)


 あの時は一体どんな裏があるのかと思ったものだが、実際は本当にただ聞いてほしかっただけだったのかもしれない。


「依頼が遂行出来なかった時のための対策なのですよ。一つは成功、もう一つが失敗した時、依頼料を無しにされてはたまらないでしょう? 最初からそういう契約にしてもいいんですけれどね。そういう輩は調子に乗っていくつも重複して依頼してくるので、面倒なのです」


 おそらくだが、過去にそうして踏み倒された経験でもあるのだろう。彼に限ってそれを許したとは思えないが。


 とにかく、そういった面倒ごとを避けるためにルールを設けたのは理解した。


「僕としてはどちらの依頼も、成功だろうが失敗だろうがもはやどっちでも良かったんですけどね。前金だけでいいかな、と思うくらいには辟易していたので。ですが、アディントン伯爵の依頼は意外な方法で成功になって驚きました。レセリカさんの護衛を引き受けるという形で、ね。ただあの女の依頼は達成出来ませんでした。最後まで貴女は、フレデリック殿下に靡きませんでしたから」


 つまり、シィはシンディーからの依頼は達成出来なかった、ということになる。


 それから依頼内容から察するに、シィは学園でほとんど危険なことはしていないように思えた。


「ならば、シンディーの依頼で毒を扱うことはなかった、ということか」

「ええ。僕はあの学園に毒を持ち込むことは一度たりともありませんでしたよ。……依頼はされましたけどね」


 シィはハッキリと「毒を持ち込んでいない」と断言した。


 そのまま信じるのもどうかとは思うが、彼が嘘は吐かないのは間違いないだろう。学園内に毒は持ち込まれていないと考えて良さそうだ。


 だが、付け加えられた言葉にはピクリと反応してしまう。オージアスもまた、話を続けろとシィに目だけで促している。


「追加依頼ですよ、あの女からの。依頼の重複は承諾出来ませんから、今の依頼が成功した後で、という約束で一度は引き受けました。が、結果はお話しした通りです」


 つまり、追加依頼は受けていないことになる。だが、気になるのはその内容だ。


 オージアスがそう質問を投げると、シィはそれについても包み隠さず話してくれた。


「毒の仕込みですよ。食器、ハンカチーフ、衣類、香水……指定されたそれらに仕込むように、と」


 あまりにも当たり前のことのように話すシィを見て、レセリカはギュッと自分の腕を抱き締めた。


 人に死をもたらす毒だというのに、それを微塵も気にしていないところに恐怖を感じたのだ。


 もし、レセリカがフレデリックを受け入れるような言動をしていたら。

 どう考えてもあり得ないことではあるが、そう判断されるような、情けをかける行動を取っていたら。


 依頼は達成されたと判断され、シィは次の依頼で毒を仕込んでいたかもしれない。そう思うと余計に恐ろしさで震えそうになる。


「……それは、誰を狙ったものだ?」

「さぁ? 少なくとも、僕がそれを知らされたら毒の仕込みを遂行出来なくなる相手でしょうね」


 それはつまり、地の一族の誰かであるということだ。


 水の一族は、地の一族を害することが出来ないのだから。


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