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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
恋の始まり

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情報の対価


 二人で何か悪巧みでもしているのでは、と思ってしまうほどの笑みを浮かべた後、シィは足を組み直して顎に手を当てた。


「いいですねぇ。いくらでも支払うという姿勢が伝わってきます。ですが……元依頼人の情報を売るというのは今後の信用問題に繋がりますから。そう簡単に明かすわけにはまいりません」


 どの口が、とその場にいる誰もが思ったが、シィのこういった言葉に深い意味はない。いちいち反応するだけ気力の無駄となる。


「なかなか強欲だな。前金としてこれはどうだ?」


 さすがというべきか、シィの態度にもまったく動揺した様子を見せないオージアスは、ピンッという音を鳴らしながら指で硬貨を弾いた。


 シィはクルクルと回りながら飛んできたそれを片手でパシッと受け止める。そのまま手の中にある硬貨を見て、軽く目を見開いた。


「随分と行儀の悪いお貴族様ですね。大金貨をこんな風に渡す人など、裏の世界でしか見たことがありませんよ」


 大金貨、と聞いてレセリカも思わず目を丸くする。市場に出回ることはまずない、高額な取引をする時にだけ使われる貴重な金貨なのだから。

 そんな大金貨をむき出しで、しかも指で弾くなど到底考えられない行為だ。父親ながらつい正気を疑ってしまう。


 だからこそ、意表を突くことが出来た。オージアスは、駆け引きの場で優位に立つことを譲らない。続けられたシィの嫌味にも鼻で笑って返してやった。


「そうか。ならばお前の世界は狭いのだな。私の知る限り、貴族界隈でもそれなりにいるぞ? こんなものはお遊びだ。人生は楽しんだもの勝ちだからな」


 事実はどうかわからない。いや、大金貨をこんな風に投げるような貴族など実際はいないと言ってもいいだろう。

 だが、オージアスが言うと本当に存在する気がするのが不思議だ。


 暫し二人で睨み合うように挑戦的に笑い合った後、シィがいつも通りの微笑みに戻って口を開いた。


「貴方とは気が合いそうだ。そうですね、一度きりの人生です。楽しまなくては」


 大金貨を懐にしまい込んだシィは、腕を組んで軽く身を乗り出す。


「知りたいのは僕の前の依頼人、シンディー・バラージュとのことだけですか?」


 ようやく、依頼人がシンディーであったことを認めたようだ。先ほどまでは全く知らないという素振りを貫いていたというのに、とんだ変わり身の早さである。


「だけ、とは言い切れんな。知りたい情報がそこにあるとも限らん。こちらの質問には全て答えてもらいたい」


 そう言いながら、オージアスは追加で大金貨を二枚指で弾いた。シィはそちらに視線を向けずに難なく二枚とも受け止める。


「大金貨三枚で、ですか?」


 オージアスからは目をそらさずに、シィは告げた。どうやら大金貨三枚では足りないらしい。


「元素の一族が一つ、水の一族から依頼人の情報を得ようというのです。しかも質問には全て、だなんて尋問みたいではないですか。それなのに、金貨だけで足りると?」

「回りくどいのは好まない。ハッキリと言うがいい」


 どうやら、お金だけでは足りないと言っているようである。お金だけが依頼を受ける指標となっている水の一族としては珍しい言い分だ。


 表情を変えずに聞き返すオージアスに、シィはにっこりと笑う。


「情報には情報を。お金だけでは得られない、何か重大な情報を対価に望みます」


 シィの出した条件は、決して無理な条件というわけではない。元依頼人の情報を求めるこちらが無理を言っているくらいなのだ。同等の情報を求めるのは当たり前とも言える。


 だが、彼は元素の一族でなければ犯罪者。フローラ王女を死に至らしめた毒を用意した調本人なのだ。

 その相手に大金を払い、こちらの情報までも渡さねばならないのはなんとも歯痒い。


 しかし、それが水の一族と取引をするということ。


 レセリカが内心でどうするのかと心配し始めた時、部屋の片隅に控えていたダリアが一歩前に出て口を開いた。


「では、私ではどうですか?」

「ダリアっ!」


 まさか、火の一族であることを明かすつもりなのだろうか。

 レセリカは焦って思わず彼女の名を呼んだが、当の本人は僅かに微笑んでから再びシィに視線を向ける。迷いのない目に、レセリカは言葉を飲み込んだ。


「レセリカ嬢の侍女、ですか。貴女が何か?」

「知らないのも当然でしょうね。貴方は私のことを見たことがないでしょうから。アクエル」

「その呼び方は……」


 ダリアはプリムを外し、髪を解いてアクエルに近付く。結われていると気付かないが、髪を下ろした状態だとそれが真っ黒ではなく、赤みがかっていることに気付くだろう。


 軽く礼をしたダリアは、蠱惑的な笑みを浮かべながら自己紹介をし始めた。


「初めまして、というのもおかしいでしょうけれど。ダリア・レッドグレーブと申します。まぁ、今はその名は捨てていますけれど」

「レッドグレーブ……くくっ、はははは! これはいい。なるほど、なるほど」


 ダリアが火の一族だと気付いたシィは、声を上げて笑い出す。


 レセリカはギュッと胸の前で拳を握り、ハラハラしながら成り行きを見守ることしか出来ない。


「まさか有名なベッドフォード家が、レッドグレーブを子飼いにしているとはね。なるほど、確かに素晴らしい情報だ。ベッドフォード家が強いわけですね」

「私の存在だけでそう判断されては困ります。この名は、表には出していませんから」

「ああ、そうですよね。失礼いたしました。さながら、切り札と言ったところでしょうか。それでも、レセリカ嬢の護衛としてこれ以上相応しい人員はいないでしょう。只者ではないと思っていましたが……いやぁ、予想外でした」


 楽しそうなシィを見ていると、レセリカは不安で仕方なくなっていく。ダリアの秘密を他でもないシィに知られるなんて。


 いつかきっと、この情報は誰かに売られるのだろう。今こうして自分たちがシンディーの情報を買おうとしているように。


「思っていた以上の情報をいただけました。しかし、対価の貰い過ぎは水の一族の信条に反しますからね。ベッドフォード公爵。貴方がお望みの情報を何でもお話しましょう」


 だが、事態は好転したようだ。話してしまったものは仕方ない。


 今度は、こちらがシィから情報をもらう番である。


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