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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
恋の始まり

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適任と隠しごと


 しばらくして、ハッと気付いたようにヒューイが手をぽんと打つ。


「あ。いるじゃん。適任が」


 どうしてこんなことに早く気付かなかったのだろう、と言わんばかりにヒューイは苦笑を浮かべている。


「お前の家族だよ。レセリカ、お前の家も地の一族の濃い血を受け継いでるってこと忘れてないか? まぁ、王族ほどではないけど、いけると思う」


 そんな彼が口にした提案に、レセリカやダリアもあっと思わず声を上げた。あまりにも身近過ぎて気付かなかったのだ。


 オージアス・ベッドフォード。冷徹公爵として名高い彼は本来、恐ろしく仕事の出来る文官である。


 しかも彼は外交も一部担っており、交渉事も得意で話を有利に運ぶ手腕も見事だという噂だ。

 曲者のシィ・アクエルを相手にしても、うまく渡り合える数少ない人物といえよう。


 余談だが、長男ロミオもその才能を受け継いでいる。

 レセリカの前ではひたすらかわいい弟でしかないが、その実かなり頭の切れる少年なのだ。


 まだ十二歳とはいえ、大人顔負けの交渉も笑顔でこなし、すでに一目置かれているほど。将来が有望すぎる跡取り息子である。


「お父様に……そうね。頼らせてもらおうかしら」


 父親ならダリアの正体も、ヒューイの存在も知っている。今さら他の元素の一族を前にしても動揺することはないだろうし、何より二人の存在を隠す必要がないのは大きい。


 そうと決まれば話は早い。ダリアは迅速にベッドフォードの屋敷と連絡を取り合い、場を整えるために動き始めた。


 そうして、ひと月後の学園が休みの日。ベッドフォード家にて、シィ・アクエルに依頼を申し込む約束を取り付けたのであった。


 ※


「もう、行動力がありすぎるな、レセリカは」

「す、すみません。でも、さすがにこのことをセオたちに任せるわけにはいかないと思って……」


 最終学年へと進級したセオフィラスは、学園生活最後の一年を出来るだけレセリカと共に過ごすことを優先させていた。


 本来ならば就職先のことを考えてこの学年はとにかく忙しい時期なのだが、彼には関係ない。

 もちろん、公務もすでにこなし始めているセオフィラスとてかなり忙しいことに変わりはないが、学園内では比較的余裕のある時間が多いのだ。


 人生が決まるとも言われるこの時期の、ピリピリとした雰囲気とは無縁であるセオフィラスにとって、学生としてレセリカと共に過ごせる最後のチャンスであった。


 そのため、このところは週に三日は二人で昼食を摂る時間を作っている。

 すでに友達もたくさんいるレセリカは、最終学年であるセオフィラスの希望を出来るだけ優先するようにしていた。


「気を遣ってくれたのでしょう? 正直なことを言えば……助かるけれど。毒を仕込んだ張本人を前にして、私も父上も母上も、冷静でいられる自信はないから」


 シィ・アクエルに依頼をするという形で情報を入手する。


 その計画が実行に移せる目途が立った日の昼食時、レセリカはこうしてセオフィラスに報告をしているというわけである。


 彼の心情を思えばなかなか言い出しにくいことではあったが、どのみち入手した情報は共有することになる。

 黙っていて後で知られた場合、きっと彼はショックを受けると判断し、先に伝えることにしたのだ。


 しかし、後には退けない段階になって報告するあたり、レセリカも強かである。


「相手が元素の一族だろうが関係ない。目の前にいたらすぐにでも首を飛ばしてしまいたいって今でも思っているよ」


 案の定、話を聞いただけでもセオフィラスの心は不安定に揺れている。いつもの笑みを浮かべてはいるが、目が笑っていなかった。


 この様子では、提案をした段階では止められたか、あるいは自分たちが、と名乗り出ていたかもしれない。

 全て決まってから報告するという自分の判断は正しかったと思わざるを得なかった。


(やっぱり、セオにも殺意があるのね。無理もないけれど……)


 国王と似た冷酷な部分が顔を見せたセオフィラスを見ていると、嫌でも処刑された記憶が蘇る。

 今はもう自分に向けられることはないだろうとわかってはいても、レセリカの心の傷が反応してしまうのだ。


 不安げに瞳を揺らすレセリカは、少し怯えてしまっていた。


「っ、ああ、ごめん。怖がらせたよね」

「い、いえ。無理もない話ですから……」


 わかっているのだ。立場上、冷酷にならなければならない時があることくらい。血の繋がった大切な家族を死に追いやった相手を絶対に許せない気持ちも。


 それでも、一度それらが自分に向けられた恐怖の経験は決して消えてはくれない。それが時々、レセリカを未だに苦しめるのだ。


「ねぇ、レセリカ」


 そして、それに気付かないセオフィラスではなかった。


「不安に思うことがあるなら、素直にそう言ってくれていいんだよ」


 これまで、お互いに隠しごとはあっても嘘は吐かない、をルールにしてきた二人。

 そのおかげで、レセリカはヒューイやダリアのことを言わずに済んでいるし、セオフィラスが未来で暗殺されてしまうことも、一度自分が処刑されていることも気兼ねなく隠していられた。


「レセリカは、私にいくつか隠しごとをしているよね? もちろん、構わないよ。言わなくてもいいし、無理に聞こうとは思ってない。けれど」


 近頃のレセリカは、何か変なのだ。


「それがレセリカを苦しめるのなら、私はいつだって、どんな話だって聞くし、受け入れるから。それを覚えていてほしい」


 セオフィラスはそっと両手でレセリカの手を取った。握られた手から伝わる彼のその体温が、優しい声が、レセリカの胸を締め付ける。


(隠しておくのが……とても、辛いわ)


 それでも、こんな荒唐無稽な話を伝えられるわけがない。


 ヒューイのことも、ダリアのことも、自分の辛いという感情だけで打ち明けるわけにはいかなかった。レセリカ一人の問題ではないのだから。


(……いいえ。私、怖いんだわ。セオに、嫌われるのが)


 それらは全て言い訳なのかもしれない。

 目の前で柔らかな微笑みを見せてくれる婚約者を前に、レセリカも弱々しく口角を上げて返すことしか出来なかった。


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