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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
やり直しの始まり

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問答と本音


 ピリッと空気が変わったのがわかった。最初から姿勢を美しく保っていたレセリカは、お腹にグッと力を込める。


 こういう時こそ、冷静に。自分に言い聞かせてスッと頭の中を冷やしていく。レセリカはいつだってこうして様々な場面を乗り切ってきたのだ。


「お答えしても構いませんが……答えたことで、レセリカは幻滅してしまうかもしれません」


 案の定、セオフィラスはにこやかに微笑んだまま、なかなかに際どいことを言う。この王太子はやはり切れ者だ。自分は恐らく試されている、とレセリカは確信した。

 穏やかだからと油断してはあっさりと手の上で転がされてしまうことだろう。


 以前までの自分なら、どう答えれば角が立たないかをいつも考えていた。手の上で転がされようと、相手は王太子。それなら自分は良い駒として振舞うだけなのだから。

 けれど今は違う。相手を知ろうと考え始めたレセリカは素直に言葉を受け止め、正直に物を言おうと決意していた。


 それによって不快にさせてしまったとしても、今なら子どもの言うことだからと大目に見てもらえるだろうとの打算もあった。


(それに……人を信じられないのなら、嘘を吐かれたらきっと嫌よね)


 そして、純粋にセオフィラスを気遣ってもいた。


 レセリカがしっかりと頷いたのを確認したセオフィラスはわかりました、と微笑みを深くして淀みなく答えていく。


「誰でも良かったのですよ。それだけです。本来なら貴女のお噂を聞いて決めた、ですとか、お美しいからと答えた方がよいのでしょうけど」


 その声色には挑戦的な気配を感じる。嫌味と言っても差し支えないだろう。レセリカもそのことに気付いてはいたが、むしろホッとしていた。返事自体は納得出来るものだったからだ。そして、予想通りでもあったからである。


 口元に微笑みを作ったまま、セオフィラスは黙ってレセリカの反応を待っている。

 余裕さえ感じるその様子に、おそらくこの言葉でレセリカが怒ったとしても眉尻を下げて当たり障りなく謝るのだろう。本心では微塵も反省などしていないのに。


 要は、セオフィラスはレセリカに嫌われてもなんの問題もないのだ。それを隠そうともしない態度からも明らかである。レセリカはそう分析した。


 ならば、自分も遠慮する必要はないだろう。なにせ先に挑発をしてきたのは王太子なのだから。

 それに、今は二人で会話をする場としてこの時間を与えられている。多少こちらが失礼なことを言ったとしても、謝罪の一つで許されるはずだ。


 それでも、この王太子のように真っ直ぐ伝えるのには勇気がいる。内心ではかなり緊張していたが、表情も姿勢も変わらないレセリカからはおそらくセオフィラスも察せてはいないだろう。


「そう言ってもらえて安心いたしました。私も同じです。お断りする必要がなかったものですから」


 真っ直ぐセオフィラスの目を見つめ返しながら堂々と告げるレセリカに、セオフィラスは驚いたように目を丸くした。

 しかし、その反応に不快感は見えない。純粋に驚いている様子である。


 実際、セオフィラスは心底驚いていた。通常、このように返せば怒り出すのが普通であったし、彼もよくそれを見てきたからである。

 むしろ、安心したようにさえ見えるレセリカの反応は、セオフィラスの目にはとても新鮮に映ったようだった。


「……レセリカは、私のことを知っていましたか?」


 驚いた様子のまま、セオフィラスはいくつか質問を口にした。レセリカはそのすべてに正直に答えていく。


「それはもちろん。お姿と、お噂を少し耳にした程度ではありますが」

「実際に会ってみて、どう感じましたか?」

「とても落ち着いてらっしゃいます。ご聡明な方という話は事実だと」

「ああ、そうじゃなくて。いや、それでもいいのですが。その」


 これまで、余裕のある笑みを絶やさなかったセオフィラスがここで少し気まずげに目を逸らす。それが珍しくてレセリカは不思議そうに小首を傾げた。


「見た目、の話です。私の姿を見て、何を思いましたか?」


 そして、まったく予想もしていなかった質問にそのまま停止した。

 しかし、セオフィラスはいたって真面目だ。それどころか、これまでになく真剣な眼差しである。この質問が彼にとってとても重要なことだとでも言うように。


(ど、どうしましょう。見た目? これは、どういった意図の質問なのかしら)


 しかし、レセリカには質問の意味が理解出来なかった。大切なことを聞かれている雰囲気は察しているのだが、意図がわからない。とはいえ、何も答えないわけにもいかない。

 少々パニックに陥ったレセリカが数瞬の間に考え、素直に思ったことを、と焦って出した答えがこれだ。


「……目が、青い、です」

「……」


 言った後でしまった、とレセリカは気付く。いくらなんでもこの答えはない。言葉を覚えたての幼児のようではないか。

 顔がみるみる内に赤くなっていく。ついに居た堪れなくなって、レセリカは俯いた。


「あ、あの、申し訳ありません。自分でもおかしなことを言ったとは思うのですけれど。殿下の質問の意図を正しく理解出来ていなかったと思います」


 それから、観念したように小さな声で本音を告げた。最初から質問の意図を聞き返せばよかったと、レセリカは耳まで熱くなるのを感じながら後悔する。


 一方、セオフィラスは先ほどよりも呆気に取られたように目を見開いてそんなレセリカを見ていた。が、数秒後には口元に笑みを浮かべていた。


 それはこれまでのような作られた笑みではなく、自然に浮かんだものであった。


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