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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
やり直しの始まり

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王太子と質問


 レセリカの要望はすぐに聞き入れられ、王太子とレセリカ、それから侍女が一人と開け放したドアの外に兵士一人を残し、全員が隣の部屋へと移動した。

 レセリカは二人で話す機会を得られたことよりも、渋るオージアスを引きずるように連れて行った国王の姿が目に焼き付いている。やはり仲が良いらしい。


 こうして侍女を除いて二人きりになったレセリカとセオフィラスは、所在なさげに無言のまま立ち尽くす。

 だが、それも数秒のこと。すぐにセオフィラスが変わらない笑顔でレセリカに話しかけた。


「立ったままだと疲れるでしょう。あちらに掛けて話しませんか?」

「は、はい」


 セオフィラスに手を取られ、レセリカはテーブル前のイスまでエスコートされる。セオフィラスにイスを引かれて腰かけると、セオフィラスも向かい側の椅子に座った。


「さて。この場では対等に話をしましょう。つまり、発言するのに許可は不要です。何でも思ったことを話してください」


 そして、すぐにニッコリと微笑みながらそう言った。表情の読めないその笑顔は崩れることがない。


(あの微笑みの仮面で、殿下は本心を隠しているのだわ。まさか、デビュー前からそうだったなんて)


 前の人生ではセオフィラスと関わる機会があまりなかったが、レセリカは彼がいつも同じ笑みを浮かべていることに気付いていた。きっとああして本心を隠し、自分の心を守っているのではないか、と。


 人間不信であるという話は前の人生でも有名で、滅多に心を開かないと言われていたセオフィラス。彼が素の顔を見せるのは国王と王妃、そして二歳年下の王女と、幼い頃から仲良くしてきた年の近い護衛候補が二人。もしかしたら他にもいたのかもしれないが、レセリカが知っているのはそのくらいだ。


 どれほどの重圧がかかっているのだろう、と心配したものだ。と同時に、自分が彼に気を許してもらえることはないだろう、とレセリカは諦めてもいた。

 それは今回も。人間関係を築くのが不得意であることをレセリカは自覚しているのだ。だからといって、今回も同じように諦めるかと言えばそうもいかない。


(殿下の暗殺を阻止するには、少しでも身近な存在になる必要があるもの)


 心を許してもらえないまでも、多少は話してもらえるくらいにはなっておきたい。レセリカの目標値はとても低かった。


「あの、殿下」

「ストップ。私たちは婚約者なのです。名前で呼ぶことにしませんか?」


 許しを得たのだから、と勇気を出して話しかけると早々に遮られてしまう。しかも、思いもよらぬ提案で。


 前の人生ではずっと殿下と呼んでいた。それが許されていた、というより名前で呼ぶことを許してもらえた覚えがない。

 まさか初対面の今、名前で呼ぶ許しを得るなんて思ってもみなかったのである。


 思い切って話したいと告げたのが良かったのか、そもそも新緑の宴に出席したのが良かったのか。いずれにせよ、この展開はレセリカにとってはとてもありがたい。

 レセリカは承知いたしました、というお堅い返事の後に名前を呼んだ。


「では、セオフィラス様」

「はい、レセリカ」


 そのまま話をしてしまおう、と思ったレセリカだったのだが。

 家族以外の男性に名前を呼ばれるのは初めてだったからか、反射的に顔を赤くしてしまう。自分でも予想外の己の反応に、レセリカは酷く戸惑った。


(こんなことなら、色んな方に名前を呼んでもらう練習をしてもらうべきだったわ……!)


 恐らくそういう問題ではないのだが、指摘するものはいない。

 恥ずかしくなってレセリカが目を伏せたと同時に、セオフィラスの方から咳払いが聞こえてくる。


「ああ、失礼しました。どうぞ、続けてください」


 セオフィラスもまたほんのりと頬が赤くなっていたが、自分で精一杯のレセリカは気付かない。そのまま目を伏せたまま、口を開いた。


「……此度は無理を言って申し訳ありません。殿……セオフィラス様は、話をすることを承諾していませんでしたのに」


 まずは、この場と時間を作ってくれたお詫びとお礼を。レセリカはつくづく真面目である。


「気にしないでください。驚きはしましたが、一度ちゃんとお話しすべきだと私も思っていましたので」


 セオフィラスも律儀に返事をし、微笑みを浮かべた。それから話の続きを促すと、黙ってレセリカを見つめる。

 レセリカは少々話すのを迷ったが、何のためにこの場を用意してもらったのかを思い出すと意を決して顔を上げて話し始めた。


「失礼な質問でしたら申し訳ありませんが……どうしても聞きたいことがあるのです」

「構いませんよ。言ってください」


 むしろ、失礼かもしれないと聞いてセオフィラスは楽しそうに目を細めている。ひょっとすると失礼な質問に気を悪くするかもしれない、とレセリカは内心で冷や汗をかいた。


「では。……セオフィラス様は、なぜ私を婚約者として選んでくださったのですか?」


 それは、ずっと気になっていたことだった。前の人生の時から。

 自分が最も都合の良い令嬢だったのだということはわかっている。それが理由だと言うのなら、それはそれで構わないのだ。


 ただ、レセリカはセオフィラスの意思が知りたかった。適当に選んだというのならそれを聞きたかったし、何か理由があるなら知りたいと思った。

 以前は、お互いがお互いに興味を持たなさすぎて何も知ることが出来なかった。だから、この機会にどうしてもこれだけは聞いておきたかったのである。たとえ失礼だと言われ、叱責されることになったとしても、だ。


「……なるほど。わかりました、お答えしましょう。ただし」


 セオフィラスはあっさりと了承した。


「代わりにレセリカも、私との婚約を引き受けてくれた理由を教えてください」


 だが、一筋縄ではいかないようだ。レセリカは冷や汗を流しながらも小さく頷き、承知いたしましたと静かに答えた。


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