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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
恋の始まり

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未来で犯した罪


 ダリアはずっと自由になりたかった。


 火の一族としての掟は全て窮屈で、いかにバレないよう集落の外へ出て行くか。それだけをいつも考えていた。


 少しでも監視の目から離れるために、自分に出来ることはなんでもやった。

 優秀な者は監視から外れやすいし、遠方まで行く依頼をこなすことも出来る。言われた依頼さえちゃんと遂行すれば、その期間は自由でいられるのだ。


 ダリアは飲み込みも早く、人を殺す術や逃げる術、人を騙す術など全てをあっという間に習得した。

 一族にとって彼女は希望の星であり、将来を期待されるまでの存在になった。


 同じく、一族として優秀な能力を持っていたクライブもまた、将来を期待されていた。


 ダリアよりも遥かに年下で、まだ子どもだったクライブが彼女の婚約者と定められるのは、当然の流れだったのだ。


 しかしクライブは幼い頃から問題児だった。

 一族の誰よりも殺しというものを楽しむような狂人。その才能は当時の長よりも優れていると噂されるほど。


 ダリアは、絶対にクライブと結婚したくはなかった。彼が嫌だとか、そういった単純な話ではない。

 結婚などしたら子を産むことになって、もう二度と自由にはなれない。それだけは絶対に避けたかったのである。


 かくして、ダリアは集落を抜け出した。

 見張りの者二名と追っ手を三名殺めて。


 おかげで火の一族の裏切り者として手配され、今度は命を狙われることとなったのだ。


 だが、ダリアは幸せだった。命を狙われるということは、もう二度とあの集落に戻らなくてもいいということなのだから。


 だが、さすがのダリアも実力者揃いの火の一族に集団で襲い掛かられれば無事では済まない。

 彼女は一度、瀕死にまで追い込まれたことがあった。


「貴女……大丈夫?」

「っ!?」


 たくさんの火傷に、血だらけでボロボロな状態。自分がどこで倒れているのかもわかっていなかった。


 あるのは、絶対に死んでやるものかという生存本能のみ。そのため、ダリアは突然かけられた声を聞いて咄嗟にナイフを向けた。


「怖がらないで。私は貴女を害する気なんてないから。ほら、見るからに弱そうでしょ?」

「……」


 それが、レセリカの母リリカ・ベッドフォードとの出会いだった。


 その後、リリカに引き取られたダリアはベッドフォード家の侍女となる。

 もちろん当初は反抗したし、あろうことかリリカや当主であるオージアスの暗殺も試みた。


 だが、出来なかったのだ。リリカは、ダリアがナイフを己や主人に向けても微動だにせず、ただ真っ直ぐダリアを見つめて微笑むのだから。


「私は貴女に、自由に世界を見せてあげることは出来ないと思う。でも、知らなかった世界を見せてあげることは出来るわ。私の娘と息子はとてもかわいいでしょう?」


 絆されたのだろう、と今では思っている。


 それがいつ、どのタイミングで受け入れたのかは、ダリアにもよくわからなかった。


 いつしかリリカは、ダリアにとって命の恩人であり、かけがえのない存在となっていた。


 心から愛する存在となっていたのだ。


 昔のことを思い出しながら、ダリアは目を閉じて口の中で静かに叫ぶ。


「レセリカ様のことは、絶対に私が守ります。どんな手を使ってでも。どうか、見守っていてください、リリカさま……!」


 血塗られた道を歩んだ自分には、明るい未来はない。


 時を巻き戻し、なかったことになったとはいえ、自分は未来で(・・・)ヒューイとシィを殺したのだ。


 そして、何者かに暗殺されたセオフィラスの血を盗んだ。


 セオフィラスが暗殺されたことを最初に知ったのは、他ならぬダリアだった。それは本当に偶然のことで、予想外の出来事だった。


 ————時を巻き戻す秘術を行うためには、元素の一族四人の大量の血が必要だ。


 死体を見た瞬間、ダリアはそう思った。


 レセリカが世間から疎まれているこの現状、もしかしたらこの罪を彼女が着せられるかもしれない。

 リリカの忘れ形見の一人である、大切な存在。何に変えても守る、それはダリアが自分で自分に課した使命だ。


 咄嗟の判断で、ダリアはすでにこと切れていたセオフィラスの首を切り裂き、大量の血を入手した。それは無意識の行動だったのだ。


 そして迎えたあの日。レセリカの首が飛ばされた瞬間、ダリアはもう迷わなかった。


 一族の集落を飛び出した時と同じように、無感情のままシィを殺し、ヒューイを殺した。

 当時のダリアは二人と面識がなかったため、殺すのに躊躇いはなかった。


「禁忌の秘術なんてものが、本当にあるのかはわからないけれど」


 三人の血を集めたダリアは、最後にベッドフォード家へと戻って来ていた。

 なぜこの場所に来たのかはわからないが、終わるならここがいいと無意識に思ったのかもしれない。


 集めた血を床に撒き、最後に自分の首に躊躇なくナイフを滑らせる。


 鮮血が舞い、ゆらりと身体が傾くのを感じながらダリアは願ったのだ。


 どうか、レセリカ様が幸せになれる未来を、と。


(まさか、レセリカ様にも記憶が残るだなんて思ってもみませんでしたが)


 結果的に、時を戻る秘術は成功した。レセリカの記憶が残っていると気付いた時は戸惑ったが、だからこそ二度目の人生は幸せに向かって歩み始めている。


 しかし、ダリアにはわかっていた。いくらやり直そうとも、自分はもう二度と光の下を歩ける立場にないと。


 その分、二度目の人生でもレセリカの幸せを邪魔する者は容赦なく排除するつもりである。


 そして、レセリカの幸せを見届けた後には……。


 ダリアはゆっくりと深呼吸を繰り返す。


 それから再び目を開けた時には、いつものダリアの顔に戻っていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] くるしくなる。。少しだけ微笑んだなら、、とキュってきちゃって、こっから(T_T)
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