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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
恋の始まり

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教会と子どもたち


 休日の街歩きでも、レセリカはやはり注目を集めていた。

 だがすでに一度授業で歩いていたことで、噂がある程度広まっていたのだろう。制服を着ていたこともあって、そこまで騒ぎになるようなことはなかったのが幸いだ。


 ポーラが一番前を歩き、そのすぐ後ろにレセリカとキャロルが歩く。さらに後ろからダリアが付いていくという形だ。

 未熟なポーラも、前方からの異変には気付けるだろうというダリアの判断である。


 とはいえ、いくら後ろを歩いていようがどこから何かを仕掛けられようが、ダリアは誰よりも早く全てを防ぐ自信はあるのだが。

 それに、姿は見せないもののヒューイもレセリカを常に見守っている。万が一、何かがあったとしても必ずレセリカを守れる態勢は出来ていた。


 今日の訪問については事前にダリアによって教会に連絡がいっており、驚いた様子ではあったが二つ返事で了承してくれたとレセリカは聞いている。

 ダリア曰く、責任者のシスターテレサはまだ若く、穏やかでありながらどこか厳しさも併せ持つ人物だったという。


 外からの訪問者には優しく丁寧で、こちらの訪問を聞いてとても感激していたそうだ。それを聞いてレセリカは少なくとも嫌がられてはいなさそうだとホッとした。


 街に入り、話をしながら歩くこと数分。人通りが少なくなり、どこか不安に駆られ始めた頃、教会の建物が目に入ってきた。

 殺風景な景色がどこか物悲しく見え、人がなかなか訪れないのはこういう周囲の雰囲気もあるのではないかとレセリカは考える。


「……おひめさま?」

「え?」


 教会前は少し開けた空間となっており、そこでまだ十歳にも満たない子どもたちが遊んでいた。

 その中の一人、おそらく四歳くらいだろうか。女の子がレセリカをじっと見つめ続けた後にそんなことを呟いた。


 戸惑いの声を上げたレセリカだったが、すかさず間に入って来たのはキャロルであった。生き生きとした表情である。


「いずれお姫様になる方ではありますよ! お綺麗でしょう?」

「うん! すっごくきれい! うわぁぁ、本物のおひめさま、はじめてーっ!」


 女の子が感動したように声を上げると、周囲で遊んでいた子どもたちも何ごとかと一斉に集まってくる。

 小さな子どもたちと触れ合うことに慣れていないレセリカは戸惑ったように視線を子どもたち向けることしか出来ない。


 だが、ポーラやキャロルは人と関わる機会が多い場所で育ったからか、あっという間に子どもたちと仲良く会話を始めていた。それをちょっぴり羨ましく思うレセリカである。


 子どもたちの騒ぎ声を聞きつけたのか、教会から二人の女性が出てきた。二人はレセリカたちに気付くと慌てたようにこちらに駆け寄ってくる。


「こら、あなたたち。お客様を困らせてはいけませんよ」


 三十代半ばほどの女性が注意する声は決して大声ではなかったが、とても良く通る芯の通った声だった。

 彼女がたった一言そう告げただけで、子どもたち全員がピタッと動きを止める。


 その間に、もう一人の二十歳前後の女性がレセリカたちに頭を下げて口を開いた。


「あの、お約束していた方、ですよね? お騒がせしてしまって申し訳ありません。失礼はありませんでしたか?」


 そう告げる彼女の表情はとても不安げだ。無理もない。レセリカはただの貴族ではなく、教会の後ろ盾となってくれたベッドフォード家の娘なのだから。何か粗相をして援助を打ち切られては困ってしまうのだ。


「失礼なんてないわ。かわいい子たちに褒めてもらえたもの」


 レセリカとしては、あまり畏まらないでもらいたいと思っている。

 当然、立場上こちらの方が上に立つことにはなるのだが、今後も長く良い関係を築きたいと思っているのだ。


 努めて穏やかに、友好的に思ってもらえるよう、レセリカは頑張って口角を上げて伝えた。その甲斐もあってか、挨拶をしてくれた女性も、子どもたちに注意をした女性もホッとしたように肩の力を抜いたのがわかる。


「ベッドフォード家が長女、レセリカと申します。急なことなのに訪問を許してくれたこと、感謝します」


 二人が落ち着いたのを見て、レセリカは改めて挨拶を口にした。それを受けて、恐らく教会の責任者であろう三十代半ばの女性が一歩前に進み出てくる。


「いいえ、こちらこそ。レセリカ様にお越しいただけるだなんて、光栄ですわ」


 シスターはおっとりと微笑み、穏やかな声でそう答えた。公爵家の娘が相手でも堂々たる振舞いである。それでいて物腰も柔らかい彼女に、レセリカは好感を抱いた。


「シスターローザ。子どもたちを見ていてくれる? 私はこの方たちを応接室へご案内しますから」

「はい、わかりました。後ほど、お茶をお持ちしますね。さぁ、子どもたち。ご本を読んであげますから、お部屋へ戻りましょうね」


 ローザと呼ばれたシスターが声をかけると、子どもたちの間には不満を漏らす声と喜ぶ声が半々聞こえてきた。

 だが、不服そうな子も含めて全員が素直に彼女の指示に従って移動を始めている。とても良い子たちのようだ。


「あの、おひめさま……?」

「私、かしら?」


 去り際、最初に声をかけてくれた幼い女の子がおずおずとレセリカに声をかけてくる。レセリカは僅かに屈み、女の子に出来るだけ視線を合わせた。


「えっと、また、あえますか?」


 上目づかいで問われた可愛らしい質問に、レセリカの胸がほんわかと温かくなっていく。


「ええ。また来させてもらうわね。その時は、私ともお話ししてもらえたら嬉しいわ」

「わ、ぁ……! うん! わたし、まってるね!」


 嬉しそうに手を振りながら去って行く女の子を見送りながら、レセリカも自然と柔らかな微笑みを浮かべてしまうのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 『ふぅ…、どうやら敵はいないみたいですね』 『そのようです。では、こちらは…』 シュバッ! 『あ!わたくしの【ぶらっでぃ・くらっしゃー】!』 『もう必要ありませんでしょう?…というより、その…
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