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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
恋の始まり

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平和と揉めごと


 進級初日。もっと騒がれるかもしれないと思っていた予想を外し、一日は平和に過ぎていった。


 レセリカや、護衛として同じ授業受ける騎士科のリファレットに視線が集まらないというわけではない。

 当たり前のようにチラチラと見られるし、視線を向ければ慌てて逸らされるくらいはする。


 大騒ぎするほどの事態にならなかったのは、事前に知らされていたからだろう。そういった学園側の対応に、レセリカは心の中で深く感謝した。


 しかしこの平和は、レセリカやリファレットが目立つような行動を取らなかった、ということが大きな前提としてある。


 高位の貴族が一般科に来ると聞かされていた生徒たちは、実のところかなり緊張していた。面白半分で見物する者もいるが、多くの生徒は不安なのだ。


 いつか、一般生徒の中にいることが耐えられなくなる日が来るのではないか、変に目を付けられたりはしないか、と。


 だが、実際に目の前で見るレセリカはとても自然体で、一般科の授業を楽しんでいるかのような雰囲気を漂わせている。


 教師からの言葉にも丁寧に返事をするし、他の生徒たちを見る目も普通だ。

 美しすぎて怖い部分はあるのだが、目が合えば本当に僅かではあるものの小さく微笑んでくれる。


 そのおかげでレセリカは、少なくとも怖い人ではなさそうだ、という第一印象を生徒たちから持たれていた。


(フレデリック殿下とも別のクラスで安心したわ)


 去年は同じクラスだったため、授業が終わる度に素早く教室から立ち去ったり、友人たちに協力してもらったりと苦労をしたものだ。


 だが今年は五つあるクラスの端と端だったため、慌てる必要がない。もちろん学園側の配慮なのだが、成績順で決まるわけではないクラス分けにレセリカは心底安堵していた。


(でも、殿下がクラス内でどう過ごしているのかは気になるわね……)


 身分差に固執するタイプの彼が、全く問題を起こさないでいられるのかが気掛かりだ。


 まず間違いなく自分を追って一般科に来たであろうことが予想されるため、彼がここで問題を起こしたら、と思うとレセリカは責任を感じてしまうのだ。


 そんな心配が的中したとわかるのは、それから一週間後のことになる。


 ※


 レセリカはこの一週間で、かなりクラスに馴染んでいた。


 それもこれも、進級三日目に係決めをしたことがキッカケである。


 一般科は掃除や教材の準備など、決められた係によってそれぞれが仕事をしなければならない。

 しかし、当然そんなことをしたことがないレセリカはかなり戸惑った。


 クラスメイトたちは、常日頃から家の手伝いや人と協力して何かを行うことに慣れている。

 だが、レセリカには何が何やらわからない状態だ。このままでは、何もわからぬままクラスに迷惑をかけてしまうかもしれない。


 そう思ったレセリカは、一歩を踏み出すべく勇気を振り絞った。


「あ、あの。係活動がどういったものなのか、お、教えてもらえないかしら……? ごめんなさい、わからなくて」


 どの係を選ぼうかと友達同士で話し合っていた女生徒の輪に、レセリカは思い切って飛び込んでいく。


 女生徒たちは、あの公爵令嬢が自分たちに? という感動と、彼女にもわからないことがあるのか、という衝撃に暫し言葉を失った。

 しかし、困ったように眉尻を下げて頰を染めるレセリカを見て、心打たれぬ者などいようか。


 こうして彼女たちは、レセリカにあれこれと世話を焼いてくれるようになった。

 そしてそんなレセリカの姿を見て、他のクラスメイトたちの間でも、必要以上に怯える必要がないという認識が広がったのである。


 そんな折に聞こえてきたのが、フレデリックの噂だ。


「フレデリック殿下がいらっしゃるクラスで、揉めごとが起きているみたいよ……」

「係の仕事のことでしょ? 私たちがやるような仕事を、殿下に理解していただくのは難しいのかもしれないわね……」


 レセリカがクラスに馴染めたその係活動をキッカケに、フレデリックの方では問題が勃発していたようである。


 嫌な予感がしたレセリカは、ひとまずクラスの女生徒たちからその噂話を聞いてみることにした。


「係を決めること自体は特に問題もなかったらしいんです。それで、殿下は図書の係になったそうなんですけど……」

「この一般科校舎に置いてある本はどれもこれも汚いとか、内容が薄いとか……クラス内に置くには相応しくないから、自分の本を持ってくるとおっしゃって」


 そこまで聞いただけで、女生徒たちは不安そうな顔になっていく。レセリカもまた、わずかに眉根を寄せた。


「それって私物ってことでしょう? 殿下の私物をクラス内に置かれたって、畏れ多くて誰も読めないわよ……」

「そうよね? でも、自分とみんなは同じ立場なのだから気にしなくていいっておっしゃったそうよ。それどころか、ぜひ読んで感想を言ってもらいたいって。いくら貴重な書物を読ませてもらえるっていっても、おかしなことは言えないし……貴重な本ってだけですごく怖いわ」


 聞いているだけで頭の痛くなる話である。それは一般科の生徒たちにとって、プレッシャー以外のなにものでもない。


 後日、こっそりヒューイに真相を確認してもらったのだが、概ね間違いではないという。

 しかも、噂で聞いていたよりもっとクラスメイト全員を見下した態度だった、と聞いてレセリカは頭を抱えてしまった。


 責任を感じる反面、他クラスのことにまで口を出してはさらに大ごとになりかねない。

 むしろ、レセリカが出ていくことでフレデリックを喜ばせてしまう可能性もあった。


「様子を見ることしか出来ないのかしらね……」


 移動教室の際、隣を歩いてくれるリファレットにそっと相談をもちかける。

 リファレットもまた、その噂を耳にして色々と思うことがあるようだ。わずかに眉根を寄せたことで、いつも以上に迫力のある顔になっている。


「他の生徒と同じ扱いに不満を言わない、という点に関しては守っていますからね。係活動にも積極的ではありますし、善意のつもりで言っているようにも……まぁ、聞こえますし」


 それがまた厄介なのだ。明らかに見下しているのが見え見えなのに、あくまで善意を装っているのだから。


 やはり、平和なだけの日々は送れないらしい。

 レセリカのため息の回数は日に日に増えていくのであった。


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