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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
陰謀の始まり

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優先順位と決断


 ヒューイは苛立っていた。

 理由はもちろん、面談で聞かされたシィの発言の全てだ。己の大切な主人の心を悩ませたことにも苛立つし、結局ヤツの依頼内容がレセリカも関わることだとわかったためだ。


 あれら全てが嘘だった、という可能性もある。だが、ヒューイの目から見てシィは嘘など一度も吐いていなかった。


(あのレッドグレーブの男と同じことを言いやがった)


 ギリッと拳を握りしめる。

 依頼内容が「つまらない」と彼らは言った。偶然なのか必然なのかはわからないが、奇しくも二人の厄介な元素の一族の男が同じ理由を抱えたまま依頼をこなしていたのだ。


(つまらないなら殺しの線は低い。少なくとも、レッドグレーブのあの男が王太子を襲うことはねぇ。が、アクエルは……あの手紙(・・・・)をどうしたか、によるな)


 ここ最近、ずっとシィに張り付いていたことでヒューイはとある事実を知ることとなった。

 それは本当に一瞬の出来事で、些細な一言だった。だがそれこそがとても重要な一言だったのだ。


 シィが学園で借りている自室に戻った際、一度だけ宛先不明の手紙を受け取っていたことがあった。

 内容まではわからなかったが、シィがその手紙を読んだ直後に珍しく苛立ったようにポツリと呟いたのだ。


『この僕に、六年前と同じ手を使えと言うのですか。……懲りていないのですね』と。


 水の一族はプライドの高い者が多いという噂だ。実際、その傾向は見られる。そんな彼らは一度使った手は使わないことでも有名だった。

 懲りない、という言葉から、手紙の送り主はシィが過去に依頼を受けた人物と同一人物であることがわかる。しかも、その時は失敗したのだろうことが窺えた。


 手紙の主は十中八九、今の依頼主。その人物がシィに手紙で同じ指示を出したのだろう。

 同じ手を使わないという美学を汚された上、それは過去に失敗となった手法。それはシィにとってかなりの屈辱であったはずだ。

 だからこそ苛立ちが抑えきれず、愚痴を口に出してしまったのかもしれない。


 そうなると、シィがその手紙にあった指示に従う可能性は低いと思うだろう。だが、金銭が絡むと話は別。

 水の一族は満足のいく報酬さえもらえれば、出来ることであるならばどんな依頼でもこなすのだから。例えそれが、己のプライドを傷つける内容であっても。優先されるのはおそらく報酬なのだから。


 主人に従順な風の一族である自分には到底理解出来ないし、破天荒な火の一族にだって理解出来ないだろう。


(っつーか。六年前で失敗っつったら、あの事件しかねぇよな)


 ともあれ、重要なのはその事件のことだ。ヒューイはすぐにピンときた。


 ────フローラ王女毒殺事件。


 六年前の悲劇であり、今もなおセオフィラスのトラウマとなっている痛ましい事件のことである。


 あれは本来、フローラ王女を狙ったものではなかったはずだった。彼女は落とさなくていい命を落としてしまっただけなのだ。

 パーティーに出席していた誰かを害するためのものだったのが、手違いで幼い王女と王子が突発的に開いた小さなお茶会の菓子として運ばれたため、起きてしまった不運な事件である。


(あの事件にも関わってやがったってことだよな。驚きはねぇが……その人物が今、この学園にいるってのはキナ臭すぎる)


 フローラ王女を死に至らせた毒を準備した水の一族は、シィ・アクエルだったのだ。


 ただ、シィは地の一族である王族を害することは出来ない。言われるがまま用意した毒入りの菓子を、指定された場所に置いたか誰かに渡したかしただけだろう。

 それでも、犯人を特定する手がかりとなることは確かだった。


(あの手紙にあった指示がもし、学園にいる誰かの暗殺だったら。そして、その依頼をアクエルが新たに受けてしまったとしたら)


 今の依頼をつまらないと言ったシィなら、たとえ気に食わなかったとしてもやりがいがあって報酬も増える依頼を受ける可能性は高い。

 手紙の内容も、これまでの推測から察するに毒の調達や受け渡しである可能性が高かった。


 ヒューイは悩んだ。この事実をレセリカに告げるべきか否かを。


 告げるべきなのだろうとは思う。だが、心優しい主人のことだ。きっと胸を痛めるだろうし、セオフィラスに告げるべきか酷く悩むことが容易に想像出来た。


 それが、ヒューイをさらに苛立たせているのだ。


(っつーか、レセリカは王太子を守るために必死だってのに、のんびり守られるだけってなんだよ。王太子こそが知っておくべきなんじゃねーの?)


 何も知らないまま、ただ守られようとしている王太子に対して不満が爆発しそうなのだ。

 そして何も知られないまま、レセリカが害されてしまうのが恐ろしくてたまらなかった。もちろん、そんなことにはならないよう、絶対に守る気ではいるのだが。


(王子なら、姫を守れっての。……レセリカが知ったら、怒るだろうなぁ。最悪、解雇かも)


 レセリカがなんとしても王太子や従者である自分を守りたがるのと同じで、ヒューイはなんとしてもレセリカを守りたいのだ。

 たとえ、レセリカからの信用を失うことになったとしても。


(風の一族として、主を優先させる。これだけは譲れねぇ)


 シィがヒントとして告げた「つまらない依頼」がどんなものかは知らないが、レセリカが対象の一人であるとわかった以上、打てる手は全て打っておきたかった。

 例の手紙の依頼だって、不安要素しかないない状況だ。


 主人の身に危険が迫っているかもしれない。


「行くか。王子サマのとこに」


 まさか自分が貴族、そして王族の前に姿を表す日が来るとは。人生とはわからないものである。


 ヒューイは自嘲気味に笑いながら、風と共に目的の場所へと向かう。セオフィラスの、自室へと。


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