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悪役にされた冷徹令嬢は王太子を守りたい~やり直し人生で我慢をやめたら溺愛され始めた様子~  作者: 阿井りいあ
陰謀の始まり

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相談と社交界の噂


 シィに直接聞いてみようと決意はしたものの、これが意外と上手くいかない。レセリカは少々頭を悩ませていた。


 授業でわからないところを聞く、というのもレセリカの優秀さのせいで逆に不自然となるし、それ以外に一対一で話す機会もない。


 担任となったのだから簡単だろうと思っていたのに、なかなか時間が作れないことに気付いたのだ。何か相談内容があればいいのだが、それも思いつかなかった。


「あら、ため息ですの? 珍しいじゃありませんか」

「ラティーシャ」


 授業の合間の休み時間に、こっそりとため息を吐いたのをどうやらラティーシャに見られていたらしい。意外と彼女はレセリカのことをよく見ている。

 レセリカが顔を上げると、ラティーシャはフイッと横を向きつつ腕を組んで言葉を続ける。


「な、何か悩みがおありなのかしら? べ、別に無理に聞きたいというわけではありませんわよ! 貴女がそんな様子じゃ、こちらの調子が狂ってしまうだけですから!」


 素直ではないラティーシャである。

 実際はここ最近のレセリカが少し元気がないように見えて心配していたというのに。

 ただ、レセリカはちゃんとラティーシャが心配してくれているのだということに気付いた。


 せっかくなので、レセリカは話せる範囲で相談してみようと決意する。人に頼ることを決めた彼女に躊躇いはないのだ。


「悩みというほどのものではないのかもしれないけれど。ちょっと気になることはあるわ」


 それからレセリカは、ある人に聞いてみたいことがあるがなかなかタイミングが掴めないこと、そもそも聞いてもいいのかも迷っているのだということを伝えた。


「気になることを言われたのだけれど、その意図がわからなくて。私が見落としているだけなのかもしれないけれど……」


 レセリカが俯きながらそう話すと、ラティーシャは片眉を下げて変な物でも見るような目でレセリカを見た。


「なぜ聞くことを躊躇っていらっしゃるの? それほど良くない内容なのかしら?」


 言われてみれば、別に質問自体は問題ではないように思う。

 なぜ先日、クラスメイトに伝言まで頼んで温室に望むものがあると言ったのか。そして、レセリカが何を望んでいると考えているのかを聞くだけだ。


 そもそも、不思議なことをしてきたのはあちらで、レセリカが疑問に思ってもおかしくはないのだから。もしかしたら、聞かれるのを待っている可能性だってある。むしろ、そう考えた方が納得がいく気がした。


「問題は、ないと思うわ」

「なら聞けばよろしいでしょう? わからないことは聞く、常識ですわ! 他者の思考など、一人で考えていたって答えなんか出ませんわよ。何を悩んでいらっしゃるのかと思えばそんなことでしたの。そんな考え方だから貴女は人付き合いが下手っぴなのですわ!」


 かなりズバズバと言われたレセリカだったが、実際その通りなのですんなり受け取った。なるほど、自分に足りていないのはそういう部分なのかと納得までしている。


「その通りね。そうするわ。ありがとう」

「……相変わらず嫌味が通じない方ですわね。私が嫌な女みたいじゃありませんのっ! 調子が狂いますわ!」


 側で控えていたダリアは、事実ラティーシャは嫌な女の部類であると喉まで声が出かかったがなんとか耐えた。これでも彼女の態度はかなり改善されてきているのだ。


「早速、放課後に聞きに行ってみるわ」

「それがいいですわ。それよりもレセリカ様、ビッグニュースがありますの」


 どうやらラティーシャの本題はこちらのようだ。本当はそのビッグニュースについて話をしたかったのだろう。ただ、元気のないレセリカを見て彼女なりに遠慮したのかもしれない。これも成長である。


「まだ内緒の話ですわよ? 実は……来週からこのクラスにフレデリック殿下がいらっしゃるんですって!」

「えっ」


 まさかここでフレデリックの話題が出てくるとは。驚いたレセリカを見てどうやら初耳だと思ったのだろう、ラティーシャは嬉しそうに両手の指先を合わせながら嬉々として話し始めた。


「友人たちの間ではこの話で持ち切りでしてよ! だって、これまで公の場にもお姿を見せなかったのだもの。きっとセオフィラス殿下のように素敵な方なのでしょうね……も、もちろん私はセオフィラス殿下が一番素敵だと思っておりますけれど!」


 すでに生徒間でも噂になっているとは。この情報の出所が気になるところだ。


 考えられるのは、フレデリック自らその噂を流したということ。セオフィラスとの話を盗み聞きされたという線は考えにくいのだから。


「でも、少し心配でもありますの」

「心配?」


 思考に耽っていると、ラティーシャがわずかに眉を顰めて声のトーンを落とした。


「実は以前、お父様とお母さまの会話を聞いてしまったの。ぬ、盗み聞きではありませんわよ? 偶然、偶然通りかかった時に聞こえてきたものですから」


 そこまで告げて、ラティーシャは今一度周囲に誰もいないかを確認した。それほどまでに聞かれてはならない内容なのだろうか。そしてそれを自分が聞いてもいいものなのかと心配になったが、話題が話題だ。些細なことでも聞いておきたい。


「……なんでも、母君であるシンディー様がフレデリック殿下を王位に就かせたがっている、とか」

「!」


 おそらくそうだろうと予想していたことの信憑性が増して、レセリカは大きく目を見開いた。

 まさか、夫人たちの間でも噂になるほどとは。いや、彼女たちの方がそういった情報をキャッチしやすいのかもしれないが。


「でも、これはお母様がお父様に詰め寄ってそうおっしゃっていただけですの! 真偽のほどはわかりませんわ! でも……」


 驚いたレセリカに対し、ラティーシャは慌てて付け加えた。それからさらに声のトーンを落として話を続ける。


「火のないところに、と言いますでしょ? お母様がそう考える理由があるのだと思いますの。話が話だけに、無視は出来ませんわよね?」


 確かにその通りだ。疑わしい何かがあったからこそ、夫人も切り出したのだろう。ラティーシャの勘は鋭かった。


「というわけですので私、その件について少し調べてみようと思っていますの」

「し、調べるって……危険だわ」

「もちろん承知の上ですわ。けれど、危険なことをするつもりはありませんの。休みに入ったら毎回お母様のお茶会にご一緒させてもらっていますから、その際にそれとなく噂を聞いてまいります。それだけですわ」


 そして行動力もある。話を聞いてくるだけならあまり危険もないだろうが、話題がとにかく危険すぎる。


 レセリカの心配が伝わったのだろう。ラティーシャはサッと肩にかかった髪を払いながら不敵に微笑んだ。


「私、こういうことは得意ですの。まぁ、何かわかったらレセリカ様にも教えてあげないこともありませんわ」


 最後にそれだけを伝えると、ラティーシャは次の授業が始まりますから、と自分の席へと戻ってきた。

 いまだに心配の気持ちは消えないが、実際フロックハート家夫人の横の繋がりは広いことも知っている。


(少し、様子を見ても良いかもしれないわね……)


 不安と希望が入り混じった複雑な心境で、レセリカも次の授業の準備をするのだった。


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