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第1話 少女

 ここはとある王国の隅にある森である。その森の奥には青い屋根の小さな家がひっそりと建っている。


 家の周りには様々な花が咲き誇り、庭には小さい畑があって野菜達が収穫を待ち侘びている。そして入り口に置いてある手作りの青いポストがこの家特有の目印となっている。


 毎日この青いポストがある家を目指して様々な人が訪れるのだが、いつ、どんな時間に訪れようとこの家の住人が現れることはない。



 数年前からこの家の家主は行方不明とされているのだ。ではなぜ今も花が咲き、畑には野菜が実っているかだって?


 それはこの家の家主である魔女が魔法を掛けたからさ。彼女はこの家が好きだったから、自分が住まなくなった今でも、こうして当時の状態を保てるよう魔法を掛けたのさ。



 その魔女はどこにいる? 亡くなった? 何だと思う?


 世間では行方不明となっているが、彼女はまだ生きている。魔女がそう簡単に死ぬ訳がないだろう。ほら、今でもあそこから見ているんだ。あそこに見えるだろう? 可愛らしい青い鳥がこちらを覗いているのが。


 彼女は人間の争い事に巻き込まれたり、囚われたりするうちに、人間と関わることに疲れてしまい自分の姿を鳥に変えてしまったのだ。


 鳥に変わったことは誰も知らない。彼女はやっとゆっくりとした生活を送ることが出来ていた。しかし、心優しい彼女は困っている人を放っておくことは出来ず、こうして近くで今も見守っているのだ。


 ほら、今日も一抹の望みをかけて魔女の家にやってくる人がいる。珍しい、子供のお客さんだ。まだ5歳くらいだろうか、可愛らしい女の子が泣きながらやってきた。




 トントン、トントン

「魔女さんあけてください、ママをたすけて」


 泣きそうな顔をして何度もドアを叩く少女。しかし当然のことながら主人のいないドアを叩いても返事はない。


 トントン、トン……

「魔女さん……」


 やがて返事が来ないことを受け入れたのか、少女は俯きながら帰っていく。


 彼女はきっとこの少女のことが気になってるはずだ。何せ彼女は子供が好きだった。少女のことを放って置けるはずがないだろう。


 ほら、言ってるそばから見てごらん。木の枝に止まりじっと少女を見つめていた鳥が羽ばたいた。きっと少女の後をつけ、困り事が何なのか確認しに行くんだ。




「お母さん、魔女さんに頼みに行ったけど……ダメだったよ。……ごめんね」


「そんな、ありがとうリリー。その気持ちだけで嬉しいわ。それに私はあなたが側に居てくれるだけで良いのよ」


 少女は魔女の家から30分程歩いた村に住んでいるようだ。ベッドには母親らしき人が寝ている。顔色は土のような色をしており、話している時も顔だけを少女に向けている。もしかしたらもう起き上がることが出来ないほど病状が悪化しているのかも知れない。


 魔女は少女の居る部屋が見える位置の小枝に止まると、じっと2人を観察する。母親の病状を見極めているのであろう。魔女は有名な薬師でもあった。お医者様ではないが、その症状から大体の病を特定することは出来る。鳥になる前も彼女の薬を求めて沢山の人があの青いポストの家に訪れていた。



「ピィ(あれは魔法薬じゃないと治らないわ)」


 あぁそうだろう。あれは体内で魔力が暴走した時に起こる病だ。魔女特性の魔法薬じゃなきゃ治らない。この世界の人は誰しもが魔力を持っていた。しかし長い年月の間に魔法よりも科学が発展し、今では魔力を使いこなせる魔女は少数派となった。


 元々魔法の習得にはかなりの時間と努力が必要だったのだ。誰でも気軽に何でも出来る科学の方が好まれた結果、魔力は持っているが使う場面がない場合、こういった体内での魔力暴走が起きてしまう。大体の人は魔力を使わなくても問題ないのだが、あの女性は魔力量が多かったのだろう。魔女の目を持ってすれば、体内に渦巻いている魔力が見えているはずだ。



「ピィ(お願い、薬を持ってきて頂戴)」


「ニャア……(分かったよ。全く放っておけば良いのにお人好しなんだから)」


 そう返事をしたのは彼女の使い魔で黒猫のノア。鳥になった彼女のことを今でもご主人として仕えている。夜になると太い木の枝に丸くなり、その身体の中に鳥になった彼女を包んで2人仲良く寝る姿は大変可愛らしい。


 ……話が少しそれてしまったが、ノアはこのように鳥になった彼女の代わりに人助けを手伝うことも多い。返事をしたノアは、魔女の家まで一走りして、ネコ用の扉から室内に入る。


 魔力暴走用の魔法薬を口に挟むと、もう一度少女の家まで一走りだ。少女の足では30分の道のりも、ノアの足なら5分でついてしまう。何せ魔女の使い魔なのだ、ノアは可愛い見た目とは裏腹にとても優秀なのである。



 少女の家に近づくと、大きくジャンプして窓枠に乗るノア。足で窓をノックすると中にいた少女が気づき、窓を開けてくれる。


「ネコさん……? どうしたの? 何か持ってる……?」


「リリーどうかしたの?」


 横になっていた母親が気づき、少女に声を掛けるが、少女はノアをどう扱っていいか分からない様子だ。ノアも魔女とは意思疎通が出来るが、普通の人間とは喋れないので困った様子。


「ニャア」

 そう鳴くと魔法瓶を少女に差し出すように顔を突き出す。


「くれるの? 受け取って良いの?」


 コクコクと首を縦に振るノアを見て少女が受け取る。


「ママ、ネコさんが何か持ってきてくれたの!」


「何? 見せて頂戴……これは魔法薬じゃないかしら……。この瓶に貼ってある印は魔女のマークだった気がするわ」


「魔法薬……!? じゃあママの病気もこれで治るのね?」


「治るかは分からないけど……勝手に飲んでしまって大丈夫なのかしら?」


 魔法薬には気づいた母親だが、飲むことには少し躊躇している様子だ。猫が持ってきた怪しい薬を何の迷いもなく飲む人は居ないだろう。さぁ、魔女はどうするのだろうか……?


 木の枝から様子を見ていた青い鳥は羽ばたいてノアの隣に立つ。


「次は鳥さんが来てくれたのね? 青い鳥って珍しいねママ!」


「青い鳥……? あら本当、とても綺麗な鳥さんね」


 そう少女達が微笑んでいると、彼女は親子の周りをくるくる飛ぶ。そして魔法薬の瓶の上まで来ると、彼女の羽ばたく羽からキラキラと光の粉が降り注いでは消えていく。


「ママ! 見て!! 鳥さんがキラキラしてるよ!!」


「これは……? 魔女様の魔法みたい……?」


「きっと魔女さんがこの鳥さんを連れてきてくれたんだよ! ママこの薬飲んで! きっと病気を治してくれるよ! 鳥さんもお薬ママに飲んで欲しいよね?」


 そう少女に問いかけられると、「ピィ」と元気よく返事が聞こえる。


「そうかも知れないわね。ありがとう鳥さん、ネコさん。魔女様にもよろしくね」


 そう母親がお礼を言い、少女が手伝いながら少しずつ魔法薬を飲む。するとみるみるうちに彼女の顔色が土色から元の色白の肌に戻っていく。


「どうママ?」


「信じられないわ! 体がすごく軽いの! 怠さも亡なくなったわ! ありがとうリリー!!」


 そう言って母親は少女を抱きしめて、少女も泣きながら2人で抱擁を交わす。


「ママ! 良かった……本当に良かった……」


「リリー、愛してるわ」


「鳥さん達にお礼を言わなきゃ!! 鳥さん達ありが……あれ?」

 


「どうしたの?」


「もう鳥さん達が居なくなっちゃったみたい」


「お家に帰っちゃったのかしらね。今度会ったらお礼を言わなくっちゃいけないわね」


「うん!」


 もうそこには魔女達の姿はなかった。彼女達は静かに暮らしたいのだ。彼女達は本当に困っている人の前にのみ時折姿を表す。




「ねぇ、知ってる? 青い鳥が現れると幸せになれるらしいよ」


「私も聞いた! 母親の病気が治ったとか!」


「あと好きな人と結ばれるとか」


「最近青い鳥を見ようと空を見上げる人が多いらしいよ」


「私も探してみよーー!」


 静かに暮らしたい魔女……しかしそんな彼女の思いとは裏腹に"幸せの青い鳥"の話が街には広まるのであった。


 これはお人好しな魔女が、静かに暮らそうと願いつつ、困っている人を幸せにしていくお話。

 さぁ次はどんな訪問者が来るのだろうか。


ご覧頂きありがとうございます。

1話毎の読みきりにしようと思っているので、ネタが思いつき次第ののんびり更新にする予定です。

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