一話 夕立と友達3
俺には、小学六年生まで友人がいた。
同級生や家の近くにいる同年代の子ではない。
夕立の時にだけ現れる五、六歳くらいの子だった。
性別は正直分からない。
話口調は古風と言えばいいのか、今時の子どもではなかった。
しかし、俺にとっては大切な一人の友達だった。
俺は、周りにいる同世代の子と仲良くすることが苦手だった。
一緒に遊びたくてもどう声をかけていいいのかを悩み、ようやく声をかける勇気を持てた時にはすでに帰る時間になっていた。
声をかけてもらっても、口籠ってしまい、相手を呆れさせた。
興味を持つものも何となく違っていて、他の子がロボットのバトルごっこをしている間、俺は組み立てることに夢中だった。
そして、せっかく作ったものでバトルさせるなんてとんでもないとも思っていた。
引っ込み思案というのか、何事にも消極的な性格で、今もそれは変わっていない。
その子は、そんな俺をいつも外に引っ張り出してくれた。
しかも、大雨の中――
『竜助! 今日は何をして遊ぼうぞ⁉』
夕立の時にだけ現れるその子。
いつからその子を遊ぶようになったのか、覚えていない。
「泥んこ遊び!」
その時だけは、口籠ってしまうはずの俺が大声で応えていた。
雨の中、庭に飛び出て、お団子を作ってはその子と投げ合っていた。
「雪合戦みたいだね!」
『ゆき? なんじゃ? それは?』
その子は雪を知らなかった。
夏の夕立の時にだけ姿を現しているから当然と言えば当然だった。
「白くて、冷たいんだよ」
『ほぉ、泥が白くて冷たいのか』
「あっ、いや、泥じゃなくて……うわっ⁉」
呆れる俺の顔に、その子はどうやって出したのか水泡をびしゃっと当てた。
元々大雨で濡れていた俺の顔はさらに濡れ、さっきまで顔に跳ねていた泥はすっかり洗い流された。
「君はどうしてそんなことができるの?」
『なぁに、我は水とも仲が良いのでな。力を貸してもらえるのだ』
「すっごい!」
『そうじゃろうそうじゃろう!』
俺が目を輝かせれば、その子は胸を張った。
「僕も水と仲良くなればできる?」
俺の真剣な問いに、無邪気な笑い声が応える。
『そろそろ帰らねば。竜助、今日も楽しかったぞ』
気付けば雨脚が弱くなっていた。
遠くの空に、稲光が逃げていく。
『また遊んでおくれな』
その子はそう言って、くるりと踵を返すと、消えてしまった。