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一話 夕立と友達10

「ッ……ぃでぇ⁉」


 跳ね起きれば、眼前にあった本の背表紙に顔面を強打した。


「ッぃ……てぇ……」

「いきなり起きるからだ、龍神君」

「竜助です!」


 本が退くと、今度は先輩の顔があった。


「えっ……えぇ⁉」

「ちょっ……危ないだろう?」


 再度跳ね起きれば、膝枕をしてくれていた先輩が呆れ顔で俺を見た後、本を鞄に入れて、縁側から立ち上がった。

 雨が、止んでいた。

 雨音や雷鳴の代わりに、蝉の大合唱が辺りに響いている。


「あまり長居をすると、誰かに通報されかねない。その子も君にきちんと憑いたようだし、帰るぞ」

「その子……あっ、リュウ!」


 見渡せば、そこは無造作に生えた草木に覆われていた庭。

 俺が住んでいた頃の面影は、すっかり消え失せていた。


「あれ……? さっきまで……」

「いつまで思い出の中にいるのだ? 行くぞ」

「あっ、ちょっと! 先輩!」


 外に誰もいないことを確認し、俺達はさっと外に出て門を閉めた。

 と、同時に、隣からかかる声がある。


「君達、そこは今誰も住んじゃあいないよ」

「えっ? あ、すみません!」


 俺が反射的に謝り、声のする方を向くと、丁度隣の家から出てきた年配の男性と目が合った。


「あれ? 竜助君か?」

「田代のおじさん!」


 田代のおばさんの夫で、俺が家にお邪魔している時はアイスやお菓子をよくくれた。

 当時よりも痩せたように見え、どことなく疲れているようにも思えた。

 が、張りのある大きな声は変わらなかった。


「すっかり大きくなって。おぉ、彼女と一緒か?」

「ちっ、……」

「お友達です」


 間髪入れずにこやかに答えた先輩に、おじさんは一瞬戸惑い、「そ、そうか、友達か」と苦笑いだった。

 

「でも、ほんと大きくなったなぁ。五年も経つと男の子は顔立ちが違うなぁ。一瞬、誰か分からなかった。うちは女の子ばっかだから」


 田代家には三姉妹がいた。

 俺がお世話になっていた時には高校生か大学生くらいだったから、もう社会人になっているだろう。

 内気だった俺は、あまり話をすることができなかったが、それでも仲良くしてくれたと思う。


「お姉さん達は?」

「もう盆とか暮れとかにしか帰ってこんよ。今、この家には俺独りさ」

「えっ……?」


 おじさんは確かに言った。


「独り? あの、おばさんは……?」

「あぁ……先月、病気でな」

「え…………じゃあ、駅で話したおばさんは、一体……?」 


 俺が先輩を振り返ると、顔面蒼白となった彼女は微かに震える指先で黒縁眼鏡をクイッと上げた後、俺のTシャツの袖をぐっと掴んだ。

 彼女が大のお化け嫌いだということを、俺はやっと思い出したのだった。

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