エピローグ
マリアの輿入れは国外であるため、年単位での準備が必要だったが、クロードの結婚は再婚でもあるため、あまり派手にせず、少人数の参加で終わらせてしまった。
「リーナが、派手にする必要はないと言ったから仕方ない」
クロードはそう言って、肩をすくめた。
イブリンとの離婚が成立し次第、クロードはさっさと結婚契約書を教会から取り寄せて、サインを済ませてしまった。リーナはなかなかサインしなかったが、フィリップとのことを持ち出されて、渋々サインをすませた。初婚であれば、公爵は国王の許可が必要だが、再婚は必要ない。クロードは結婚契約書を教会に渡して、実質的な婚姻を済ませた後に、国王に再婚したことを事後報告した。
内々で結婚報告を済ませ、リーナは名実ともにライアン家の女主人となった。
フィリップは単純に、イブリンともう会わなくていいことに喜んでいたが、リーナは内心複雑だった。。
結婚した夜、リーナはクロードに聞いた。
「私が、クロードさまの婚約者だったっていうのは、ほんとうですか」
リーナの言葉に、クロードは一瞬驚いたようだった。
「まさか、忘れていたのか。あんなに別れるときは泣いてくれたのに」
「なんの話ですか!?泣いた?私がですか?」
「そうだ。今から大体十年くらい前、僕は初めてリーナに会った。会ったのはリーナの家で、その時のリーナはまだ十歳を少し過ぎたくらいだった。その時に婚約したんだ。だから、別荘にも、貰ったリーナの絵が飾ってあったろう」
そう言われると、グロブナー卿に連れられた、若い男の人と会ったような記憶がある。しかしかなり前の話だし、しかもリーナは子供だった。遊んでもらったかもしれないが、それが婚約に繋がるとは思うはずもない。
「当時の僕は上の兄が生きていて次男坊だったから、家を継ぐことはないけれど、リーナはとても懐いてくれてうれしかった。結婚して大事にしようと思っていたのに、兄は死ぬし、弟も死ぬし、男が僕しか残らなかったからイブリンと結婚する羽目になるし、散々だ。イブリンとは気が合わなかったから、それなりの付き合いしかしなかったが……。それなのにリーナは父と再婚しているし、泣くかと思った」
初めて聞いたことばかりで、リーナはぱちぱちと瞬きした。記憶の底をさらって、断片的な記憶を呼び起こす。
「もしかして、会ったときに、着ていた紺のドレスを褒めてくれました?」
「そう、あのときに着ていたドレスがお気に入りだと僕に教えてくれた」
リーナの記憶の底に、ドレスをよく似合うと褒めてくれる男の人の記憶があった。初めて、家族以外の人に、優しく褒めてもらった記憶だった。金の髪の、格好いい男の人に褒めてもらえて、リーナはとても嬉しかった。一人前のレディになれたような気がした。ぎこちなくカテーシーをしたら、お辞儀を返してくれた。それから、手を取って、ダンスのステップを見様見真似で踏んだ。ドレスの裾がひらりと翻って、お姫様になったような気持ちだった。
両親が生きていた頃の、穏やかな記憶だ。
「クロードさまが、あのときの方だったんですね」
クロードは、やっと結婚できた婚約者の右手を取って、手の甲に口づけをした。
最後までお読みくださりありがとうございました!評価やブックマークもありがとうございます。励みになりました。
やる気が出たら、ちょっと追加してムーンライトノベルスの方にも投稿するかもしれません。もし見かけたらよろしくお願いします。




