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ラストまで書き終わったので、毎日更新できます。よろしくお願いします。
リーナは、何もわからない。
自分のことも。自分が何をして、何をしなかったのか。何がよくて、何が悪かったのか。何度振り返っても、わからなかった。
初めは、何かの罰なのかと思った。リーナは自分が世間知らずだと知っている。だから、知らない間に、クロードをひどく怒らせてしまったのかと思っていた。
クロードに寝室に引きずり込まれた日の翌朝、リーナはずっと泣いていた。リーナが提案した話のどこかが、クロードの逆鱗に触れたのだと思った。だから、折檻されたのだと考えた。そうとしか思えなかった。
クロードは容赦なくリーナを追い詰めた。初めて寝室に引き摺り込まれた日から、毎晩リーナはクロードに呼ばれて、泣きながら寝所を共にしている。マークが、クロードの資金で学校に行っていることを考えると、リーナは大人しく寝所に侍るべきなのだろう。何も言わずに引きずり込まれて、リーナは恐怖に疲弊するばかりだった。
以前は三日ほど空けてやってきていたクロードは、その日の境に、夜の間ずっとリーナのいる屋敷にいる。
リーナはしばらくの間は耐えたが、一週間ほどしてから、寝所に引き摺り込まれるときに、「どうしてこんなことをするのですか。私は、そんなにクロードさまを怒らせたのでしょうか」と泣きながら聞いた。有無を言わさず引きずり込まれるのは、頭からばりばりと食べられているようで怖くてたまらなかった。よくも一週間も持ったものだ。
クロードはリーナのその質問に、虚を突かれたような顔をした。
「リーナはなにか勘違いをしている。別に、僕は怒ってはいないし、処罰しているわけでもない。リーナは、僕のために貢献してくれると言った。だから、僕はとても喜んでいるんだ」
寝台の上でクロードの腕の中に抱き込まれて、しゃくりあげながらリーナはじっとクロードの言葉を聞いていた。
「リーナを抱くのは、それが僕の望みだからだ。僕の妻となり、僕の伴侶としてそばにいてくれ」
クロードの言葉に、リーナは真っ青になった。同時に、イブリンの顔が脳裏をよぎる。
「イブリンさまのことはどうなるのですか」
「イブリンは僕を裏切っている。それは確実だ。だから離縁することになる」
クロードのその言葉に、リーナはひどくショックを受けた。
「そんな」
そんなばかな。イブリンがクロードを裏切っている?クロードにリーナに近づくなと言っていたのに、裏切った?どうして?
「リーナは、僕に欲しいものをくれる。そうだろう?だってリーナは、僕の婚約者なんだから」
蕩然とした声で、クロードはそう囁いた。リーナには、クロードの言っている意味がわからなかった。リーナに婚約者はいない。それを今言うのは、クロードを怒らせてしまいそうで言えなかった。
抱きしめられた体に、クロードの大きな手が這う。
「イブリンは、元々兄の婚約者だったんだ。だから、僕のものではない。兄のものだ。兄が亡くなったから引き取ったが、イブリンは僕のことなど気にしてはいない。あれが気にするのは自分のことだけだ。しかも、イブリンはライアン家を裏切った」
リーナはイブリンの「裏切り」について必死に考えた。
「それは、イブリンさまが子供を産めないことと関係がありますか」
リーナの言葉に、クロードはにや、と笑った。
「近い、がそうじゃない。リーナは気にしなくていい」
抱きしめたリーナの体を撫でて、クロードはうっとりと耳元に口づけを落とした。