2:神様、人間界へ降りる
気が向いたときだけ書いてます。
連載型ですがボリュームとしては短編小説です。
神様の世界から、人間の世界を観察している神様がいました。
神様が見ていたのは一人の少女でした。
ひとたび風吹けば消えそうな火を宿った少女。少女は生まれてこの方、真っ白な部屋で真っ白なシーツを背にすることがほとんどで、時にそのシーツを綺麗な赤色で染めることもありました。しかし少女は生きていました。笑顔を絶やさず、膨大な時間を読書に充てて――。神様には、その消えそうにか細い火が、一際明るく感じられたのです。
神様は少女に会いに行くことを決めました。
神様の力は人間界の常識を越えます。神様は、少女が消える前になにか一つ望みを叶えてやろうと思いつきました。人間の一生は時に不条理で、そんな世界に神様は疑問を抱いたままでした。健気で残酷な運命を背負ったこの少女を、せめて救ってやりたかったのです。
「なぁ、人間界へ2年ほど頼む」
神様は異界への門がある関所にきました。
「人間界?物好きもいたもんだねぇ。ってあんたかい」
「あぁ、気になる人間がおってな」
受付を担当したのは顔なじみで、こちらは蛇の神でした。書類を差し出し説明を手短に終えると、自分の作業に戻りました。
しばらくして、神様は必要事項を記入した書類を差し出します。
受け取るなり目を通し始めた蛇の神は書類から目は離さずに尋ねました。
「はいよ。なんだか随分と落ち着かないじゃないか」
「そうか?まぁ早く人間界へ行きたいのは事実だが」
蛇の神は不意に顔を上げ、目を細めて神様をじっと見ながら言いました。
「人間の姿をご所望か」
「あぁ、そうだが」
「あんまり、人間と仲良くするもんじゃねぇぞ」
そう吐き捨てるように言うと、再び書類に目を戻しました。
「あぁ、いいぞ。あと、禁忌事項を忘れるなよ」
「ありがとう。それじゃあ」
受付を終えて門まで歩くと、そこには人間界での禁忌事項が書かれた看板が立っていました。一応は目を通しましたが、神様の頭の中は既に少女のことでいっぱいでした。いまにも消えそうな少女の火が心配で、その場で足踏みして門が開くのを待っていました。
『門が開きます』
アナウンスが流れるなり、神様は歩き始めました。
「待っててね、桜」
神様の見た目は女の子です。(1:プロローグ参照)