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俄、変わった思い





 フラフラになりながらも階段を登っていくと、あの死神が扉の前へと立っていました。


「ここまで無事・・・とまではいかないが、辿り着いたようだね」


 死神はそう言いました。


「この扉が、最後の扉。この扉の先の門をくぐれば、全てが終わる」


「そして、わたしはその扉を開く者」


 そう言って死神が手をかざすと、扉が音もなく開きました。


「さあ、行きなさい・・・・・・何をしているのですか?」


 そう言う死神の視線の先には、ジッと死神の黒い瞳を見つめる少年の姿。


「貴方は・・・先へと進むのではないのですか・・・?」


 死神の言葉に、少年は静かに頷きました。


 そして、先導する死神の後を追うようにして少年は扉を抜けて行きました。










 扉を抜けた先にあったのは、病室。

 少年が眠り続けている、始まりであり、終わりでもある病室です。



 少年は、眠る自分自身を横に座り、見ていました。

 その寝顔は何も傷ついておらず、苦悶の表情を浮かべているわけでもありません。



 少年はただ、ただ眠っているようでした。




 その時、軽いノックがされて影が一つ、病室内へと入ってきました。



 部屋の中へと入ってきたのは、あの“友達”でした。


 友達は、静かに室内を進んでいき、ベッドの隣にあった椅子へと腰掛けます。


 そして、何も言わずに眠り続ける少年をジッと見ていました。




 少年も見ていました。その“友達”の姿を。

 これまでずっと避け続けてきてしまったその姿は、ひどく憐れでした。

 友の目は痛々しく充血し、その下には黒い隈が出来ています。






 そんな“友達”の、口が開きました。




「・・・貴方と最後に話しをしたのはいつ・・・だったけ。正直・・・貴方のあの憎まれ口を聞くことが出来ないなんて信じることが出来ないの・・・・・・・・・・・・あのね、私は貴方に言わなくちゃいけないことがあるの。このような場でしか言うことが出来ない自分がとても・・・アレですが・・・聞いてくれますか?」



 これが、いままでの少年の心のままであったならば、この言葉に耳を傾けることはなかったでしょう。




 しかし、長い旅路を終えた少年の心からは、歪んだ哀しみが少年自身も分からないところで他の何かに変わっていきつづけていたのです。


 だからこそ少年は、心の思うがままに頷くことが出来たのです。



 そして、少年の返事が分かったかのようにして“友達”も頷き、話し始めました。






「私は、謝らなければいけない。あの山の中での出来事を。貴方自身に、そして私を止めることが出来なかった私自身に。そして知ってもらいたい。あの時止めることが出来なかったけれど私のその時の気持ちを」







「貴方が穴の中へと落ちてしまった時、私はパニックになってしまっていたんでしょう。ほら、憶えてる?どこかに行ったりするときも、私は臆病だったからいっつも貴方の後ろに隠れてくっついていた。そのせいかどうかは知らないけれど、いざ自分で何かをしなければいけないって時に、それがいつもできなかったんです」




「それでも私は考えました。そして、私の力ではどうすることもできない、貴方を助けることなんてできやしない、そう判断して助けを求めて山を下りて行ったんです」







「だけど、それは間違っていました。その時の私は貴方の、達也の気持ちを考えていなかった。穴の中にいた貴方は、動くことも何もできず、私という存在にしか手を伸ばすことが出来なかった・・・・・・そんな貴方の手を私はいとも簡単に振り払って去っていってしまった。自分一人だけのうのうと安全なところに逃げていき、友達を一人捨ててきてしまった。達也はいつも私のことをまもっていてくれたのに!!!!!!!!!」






「・・・私が悪いんだ。どれも、これも。そう、私は怖かった。あの山で一夜を過ごすことになるかもしれないっていうことが怖かった。でも、今も私たちを照らし続けているこの黄昏の夕日を見るたびに思い出してしまうんだ、あの日のことを。貴方が無事に発見された時にだって、なんで私は貴方に一言かけてあげることが出来なかったんだろう。たとえ何か言い返されたりしても、そこで全ては終わる。心の中に棲みついて、悲しみ続ける必要なんてなかったのに。その時に思いを告げることこそが大切だったのに・・・・・・もう、聞くことも話すこともできない貴方に対してこんなこと言っちゃって何なんだろうね私って。本当に何なんだろう・・・・・・・。もっと・・・もっと達也と一緒にいたかったのに・・・・・・・・ゴメンネ・・・・・・・・ゴメンネ・・・・・・・・・・・」






 そこまで言い終えると“友達”は、顔をベッドの毛布に沈めて、静かに、静かに泣き始めました。







 その姿を、少年は透けた自分の手を通して見ていました。

 ジッと静かに見つめていました。



「さて少年、そろそろ行くよ」


 死神が少年の頭に手を置きながら言いました。

 見ると、扉はすでに開き終わり、暖かな光を放っていました。


「これで終わりではないんだ。これこそが・・・始まりなんだよ・・・」



 その言葉に少年は静かに頷き、もう一度最後にとその姿を見ました。






              その時でした。









            少年の瞳から一筋の雫が零れ落ち









             その口元へと・・・・・・





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